第4話 脱出(2)

 準備を整えて、出発です。

 でもその前に洞窟前に居る魔物を排除します。

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 採石作業を終わらせ神域へ入る。

 先にお風呂を済ませて、兵糧(レーション)とハチミツを食べる。

 兵糧(レーション)は不味い分けでは無いが、2ヶ月も食べているとうんざりするような脂っこい味だ。

 闇の森ダンジョンで狩った魔物が落とすドロップ品の肉やハチミツが無かったらと思うとぞっとする。


 マーヤにお乳を上げた後、お風呂に入れて洗い、赤ん坊用のベッドに寝かせる。

 「マーヤがお利口さんだから助かるわ」寝ているマーヤに声を掛ける。


 『お風呂で死ぬかと思ったわ、いきなり座らせて手を放すなんて、おぼれて死ぬかと思ったわ』とマーヤ。


 「ごめんなさい、お座りが出来ると思っていたの」


 『生まれたての赤ん坊に何を期待してるのよ、何にも出来ないから赤子なのよ!』とマーヤ。


 「お風呂の入れ方は、ちゃんと覚えたわ」


 マーヤを赤ん坊用のベッドへと寝かせて、お風呂に入った後、明日の為に負ぶい紐の代わりを探しているとマーヤが念話して来た。


 『何を探しているの? 山を下りるのにお金ぐらいしか用意する物って無いわよ』とマーヤ。


 「マーヤを置いて外へは行けないわ、何かマーヤを負ぶっていけるようにするわ」


 『新生児を背負うとか、何無理な事言ってるのまだ首も座っていないのよ、首を支えないと折れちゃうよ?』とマーヤ。


 「え、そうなの困ったわ、マーヤの神域だからマーヤを置いていったら又ここに戻ってこないといけないからよ」


 『神域は私とラーファのどちらでも身近に開くことが出来るよ』とマーヤ。


 「それって、マーヤを此処に置いて行っても、私が神域に入りたいと思えば、すぐ横に扉が出て来るの?」


 『そうゆう事ね、ラーファでも私でも、外に居れば側に呼べるのよ』とマーヤ。


 「なんて便利なんでしょう、それでは明日は私一人で山を下りるわね」


 『そうしてね、新生児の私をあまり動かさないでね』とマーヤ。


 「さて、5月といえどオウミ王国の北側だから少し歩かないと日が暮れる前に町までたどり着けないかな?」


 『そうだね、足回りはしっかりしないと下り道は足をくじきやすいからね』とマーヤ。


 「雪が無いだけでもありがたいわね、では、おやすみなさいマーヤ」


 『夜中に、お腹がすいたら起こすから起きてね』とマーヤ。


 「え、2回ぐらい?」


 『1刻(2時間)ぐらいに1回かなぁ』とマーヤ。


 お母さんって大変なのね。


 マーヤは翌朝、夜中に何度も起きて、母乳を上げた為寝不足な頭に気合を入れ起き上がる。

 毎度な兵糧(レーション)を朝ごはんとして食べる。


 食事が終わったら、出かける準備をする。

 お金は全てを持ち出すのは不用心だろう、当分の食べ物が買えれば良いのでダキエ銀貨12枚、ダキエ銅貨50枚を袋に入れて持って行く事にする。

 残りはダキエ金貨353枚、これらはダキエから持ち出したお金です。


 この惑星では信用できる貨幣を造れるのは、ダキエ国ぐらいしか無いのでそのまま貨幣が使えるのはありがたい事です。


 持ち出した錬金の本に硬貨の魔術陣について書かれている内容によれば。

 金・銀・銅の価値は採掘量を基準に同じ重さで銅を1とすると銀は15倍、金だと200倍に成ります。

 ダキエでは固定で価値が決められていますが、ダキエ以外では価値はその時の状況によって変わる為不安定だと書かれています。


 硬貨にする時に金には魔銀(ミスリル)を、銀と銅には魔銅(ヒヒイロカネ)を極微量混ぜて作られます。

 その為、硬貨の価値は金貨1枚で銀貨100枚か銅貨10000枚となるように作られています。

 金銀銅の硬貨は魔鉱が入っているので魔術付与で硬化されています。


 錬金の本には硬化付与の魔術陣も書かれていました。

 出来上がった硬貨は使ってもすり減る事はありません。

 普通の鋼のやすりでは傷一つ付か無いように作られています。


 お金の価値は100倍づつ増えて行きますが、魔鉱以外の混ぜ物は金貨が銀で、銀貨には銅が混ぜ物として入っています、銅貨では錫や亜鉛が多くなります。

 ダキエではその割合が決められた分量で作られていますが、ダキエ以外で作られた貨幣は鉛を含んだ物が多いのです。


 その為ダキエ以外の国では貨幣以外に延べ棒にした、棒金や棒銀に棒銅が使われています。

 棒状にすると貴金属の重さと純度で価値が分かりやすいので多く流通しています。


 その為ダキエ以外で作られた貨幣は銅貨が多く次に多いのが銀貨ですが魔銅は入って居ません。

 価値はダキエ銀貨と各国毎の銀貨だと1分(1/100)位まで下がります、ダキエ銅貨と同じぐらいですね。

 その為かダキエ硬貨はため込まれることが多く、使うとお礼を言われることが良く在りました。


 特にダキエ銅貨は魔銅の量が少ない銅合金なので、偽造しやすいと思うのか私鋳銭が多いのです。

 でも、色、形、作りの雑さ具合で見ただけで分かるぐらい差が在ります。

 大概噛んで硬さを確かめる方法で確認しています、ダキエ銅貨なら噛んだとしても傷一つ付きませんから。


 ダキエ銅貨は100枚でダキエ銀貨と同じ価値が在り、数も多く溜め込むのに集めやすいのでとても好まれるのです。


 私が持っている銀貨と銅貨も国毎の貨幣だったのですが、私が錬金で作り直してダキエ硬貨に変えました。

 銅貨の場合は、2枚の国毎の貨幣から1枚弱のダキエ銅貨が作れましたが、鉛も大量に出ます。

 しかし鉛は売れるので良しとします。

 ダキエ銅貨に必要な錫や亜鉛は国毎の貨幣にも使われているので再利用しています。


 棒銀からはほぼ同量のダキエ銀貨に錬金出来ました。


 魔鉱は私のインベントリのバッグの中に在る、ダキエ国から持ち出した延べ棒から取り出しました。

 硬貨に魔術陣で硬化を付与する為の魔鉱の分量は1厘(1/1000)で済みます。

 ダキエ金貨で(1/150)魔銀をダキエ銀貨で(1/10)魔銅をダキエ銅貨で(1/1000)魔銅を入れて硬化の付与をしています。


 お金以外はインベントリのバッグは持って行かない方が怪しまれ無くて良いでしょう。

 買い物が多く成れば神域を開けて玄関に荷物を入れて置けば良いのです。


 お財布以外は彼の者が用意したスカートと長袖のシャツに靴を履いただけで下山する事にします。

 洞窟に出ると、入り口の風除けの結界から外を調べます。

 此処はまだ闇の森ダンジョンの境界付近で境があいまいな場所です。


 案の定近くに魔物が居ます。

 ゴブリンと狼が何匹かいるようです。

 ここはダンジョンの境界線より外側だと思いますが、魔物の縄張りの中なのでしょう。

 思い切って洞窟から出る事にします。


 矢除けの結界用魔道具を止めて、神域へとしまいます。

 洞窟の中にはもう何も残って居ません、マーヤを生んだ場所ですが何時までも居るような場所では無いでしょう。

 結界を止めたので、気が付いたのか狼が顔をこちらへと向けています。


 土槍で仕留める積りです、魔物のクラスとしては最下級の10級でしょう。

 狼に向かって土槍を3本撃ちます。

 6匹いたうちの半数が土槍で撃ちぬかれ倒れました、残りは3匹とゴブリン6匹です。


 もう一度3本の土槍を撃ちます、今度は打ち出されるとかわそうと逃げますが、音速の速さで刺さり2匹が倒れます、残りの1匹は体に刺さった土槍に身動きが出来なくなっている所を近寄って来たゴブリンにこん棒で殴り倒されてしまいました。

 魔者同士で争うのは何時もの事ですが、私と言う敵がいるのにそれで良いのでしょうかね。


 土槍3本を続けざまに撃ち出します。

 こん棒で土槍を撃ち落そうとしたようですが、体に刺さった後でこん棒が空を切ります。

 残りゴブリン3匹、更に土槍を3本出して撃ちます。


 狼6匹とゴブリン6匹が倒せたようです、魔物は消えて魔石を残しました。

 今回は魔石以外のドロップ品は無かったようです。

 魔物の討伐を終わらせて、周りを危機察知で探りますが、敵対的な生き物は居ないようです。


 魔物は1級から10級までの格付けがされていて、10級が最も弱いクラスです。

 8,9,10級が下級で、5,6,7級が中級です。

 上級は2,3,4級なのですが2級クラスになるとダンジョンでも深い階層にしか存在していません。


 1級はダンジョンコアに対して用いられる事が多いです、魔物としてはダンジョンの最下層でダンジョンコアを守るドラゴンなどにも適用されます。

 1級の魔物が討伐された記録はダキエ国の歴史を通して1度しか記述されていません。

 ヒュージスライムで山のような大きさに成った魔物が過去に討伐された唯一の1級の魔物です。


 洞窟から出て魔物の落とし物、ドロップ品を拾っていきます。

 10級魔石12個を手に入れました。


 山道を下へと下って行きます、この道は獣道なのでしょうか細い道が続きます。

 ひょっとしたらミョウバン石の採掘用に作られた道だったのかもしれません。

 尾根伝いに降りた後、中腹を等高線に沿って道が在り、此方は少しづつ下がっているようです。


 1刻(2時間)も歩くと、道の先に納屋の様な小屋が見えて来ました。

 村外れの建物は人が住んでいないようです。

 この先の集落に行く前に神域でマーヤにお乳を上げてオシメを替えます。

 『マーヤは良く寝るね』


 『赤ん坊は寝るのが仕事だからね』とマーヤ。


 集落は更に少し行った先に、周りを環濠に囲まれて在りました。


――――――――――――――――――――――――

 新生児2人の逃亡生活の始まりですが、追手が諦めていない事は知りません。

 しかし、どこにいるかも分かっていないので、しばらくはのんびり旅が出来るでしょう。

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