第3話 脱出(1)

 ラーファはお腹の中にマーヤを抱えて、闇の森ダンジョンを2ヶ月もさ迷って生き延びています。

 しかし、この洞窟で死んで復活しました。マーヤは此処で生まれました。

 母子だけど、新生児の二人の逃亡生活が始まります。

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 帰って、マーヤにお乳をあげる、吸い方が段々上手になって行くのが分かってほっこりする。

 お乳を吸いながら寝てしまったので、抱き上げて肩の上に顔を乗せ軽く背をポンポンと叩いてやる。

 「コフゥ」とゲップを可愛くした。


 武器はミスリルの守り刀があるがこれは身を守る時に使う物なので、武器にはなるが使いにくい。

 それよりも、魔術の方がよほど使い勝手の良い武器だろう、火球と言う魔術は魔術の行使した瞬間から音速で真直ぐに直進しぶつかるか300ヒロ(450m)進んだところで爆発し火炎と衝撃波を10ヒロ(15m)の範囲に及ぼす。

 一度に1発撃つと次に撃つまでに魔力の回復を待たなければならないので、しばらく時間が掛かるのが欠点だが、威力は素晴らしい。

 これだけではおおざっぱにしか対応出来ないので、氷槍と言う1キュビテ(30㎝)ほどの氷を槍状にして打ち出す魔術を使う。

 氷槍は魔術行使後300ヒロ(450m)は音速で直進するが、その先は魔術陣が維持されずに消える。

 凶悪なのは対象にぶつかるか刺さると対象を氷漬けにする事で、これで攻撃されると先ず助からない。

 この氷槍が出来る魔術師はエルフでも殆どいない、しかも同時に3本出せるのは私だけだった、自慢の魔術陣だ。

 氷を土に置き換えた土槍もある、威力は劣るが連発が効く頼もしさが在る。

 この3つの魔術が使えれば攻撃はほとんど問題ない、闇の森ダンジョンでも通り抜ける事が出来た。


 防御は矢除けの風の結界と火の壁を作り出す火炎壁の結界がある、矢除けの結界の方が使い勝手が良いので良く使っている。


 ラーファの記憶は抜けていて思い出せない事の方が多いが、今は徐々に思い出す事を期待しよう。


 今分かっている事は。

 私が居た国はダキエ国(大樹の加護厚き樹人の国)でそこの魔術都市とも呼ばれる聖樹に住んでいた。

 今年の新年早々に聖樹と呼ばれる木が火事で失われた。

 私自身、吹雪と火事の中どうやって逃げ延びたのか分からない。

 助かった人はほとんど居ないのではと絶望に駆られる。


 聖樹が失われて後、私はダキエ国から船で対岸へと逃れ、大陸を彷徨う事になった。

 逃げたル・ボネン国でいきなり攻めてきたロマナム国との戦争に巻き込まれ、逃げ惑う内に、私を執拗に追う一団が居る事に気が付いた。


 町を出て次の町へと移動している途中に20人からの集団から前後を挟まれておとなしく捕まるように脅された。

 火炎壁の結界を出して私から遠ざけて土槍を手足に撃ち込んでやるとケガ人を放って逃げ出した。


 火炎壁の結界を止めて、矢除けの結界を逃げ遅れたケガ人と私の周りに張り、傭兵だと言う男たちを尋問する事にした。


 私を襲って来た傭兵だと言う男達を捕まえて締め上げると、なぜ襲ったのか簡単に喋った。

 追手は謎の雇い主から依頼を受けた傭兵団で、依頼時の手付金と成功報酬の為襲ったそうだ。


 追加で土槍で手足を地面に縫い付けてやっても私を狙う理由は知らないと言っているので、どうやら彼らも理由は聞いてなさそうだ。


 彼らが言うには、私を生きて捕まえると莫大な金貨が手に入るそうだ。

 手付の金貨だけでも50枚で、誘拐の成功報酬は私の状態に因るらしいが最高で金貨1000枚を謎の雇い主が約束したらしい。


 彼らからは他にも雇われた傭兵団がある事も聞いた、それ以上は知ら無そうだったのでそのまま放置して私は警戒しながら次の町へと移動した。


 その後も追手はシツコク追いかけて来てた。

 妊娠が進みお腹が出てきた事も在り動きが鈍くなった為、捕まりそうになった事も在ったし手加減できずに殺してしまうことも在った。

 遂には、さばききれなくなり追われて山へと逃げた。


 其処はたまたま闇の森と呼ばれるダンジョンで、森の中をさ迷い歩き、抜け出すのに2月かかった。

 臨月のお腹を抱え、森ダンジョンをさ迷うのは苦難の連続だった。


 闇の森ダンジョンを抜けた先の山の中に、洞窟を見つけた時は、これこそ僥倖(ぎょうこう)だと思った。

 しばらく前から陣痛ではと思える痛みを感じていた。

 洞窟の中に入って休む場所を整えている間に、陣痛の間隔が短くなって、出産が近いと悟った。

 私は、洞窟の中を産屋として整えて、最後の力を振り絞って出産した。

 無理を重ねた体は出産に耐えられず私は死んだ。


 その後彼の者に救われた事はマーヤが知っての通りだ。

 『ええ、知ってるわ、私がしがみ付いたのよ、ギュってね』とマーヤ。

 『そうで無かったら2人共に死んでいただろうね』とラーファ。

 私の救いはマーヤが居る事だと思う。


 此処がオウミ王国の北側に当たる場所だとは、彼の者がマーヤの記憶に残した此の惑星の地図から推測した結果、マーヤがそう判断した。


 さて、今いる場所は人間の国で「オウミ王国」と言うらしい。人口の多い農業と商業の発達した国で、国王と3人の大公に権力が集中していて4つの軍の集団が有る。

 南東にオウミの国の首都が在り、王の軍団が常に守っている、東には広大な平原が広がり国境が無いらしいと聞いている。

 その平原は泥濘の荒野と呼ばれて、1年を通じて雪か泥で覆われていて通行がし難いらしい。


 首都に近い内海に面した場所に、港があるようだが海軍は無く武装商人が交易を守っている。

 此処までは、闇の森に入る前にいた、ル・ボネン国で聞いていた。


 南東が海なので北・西・南に大公の軍が居て、其の内の北と西の軍がル・ボネン国と戦をしているロマナム国と戦っているらしい。


 直ぐに動くかしばらく様子を見てからにするか、ラーファとしては直ぐに動きたいがマーヤの事もある。

 ラーファの体調やマーヤの様子から一日ぐらいはこの洞窟で様子を見た方が良さそうだと結論を出した。

 特にラーファは出産した事もあり、肉体的には彼の者に回復して貰ったが、精神的に一度死んでいる。

 その為、安定しているかどうか1日ぐらい様子見をした方が良いだろう。


 急ぐ必要は何も無いし目標も無い、いや、マーヤを育てる事が目標だ。

 『体調を整えたら、山を下りるよ』

 『わかったわ』とマーヤ。

 『ここでゆっくりするのなら、洞窟の石を採取して欲しいの』とマーヤ。


 『それは又なぜ?』石などどうするのかな?


 『この洞窟は人為的に掘られた物だから成分を調べてみたの』

 『この洞窟の石はミョウバン石よ』とマーヤ。


 『え、人が掘ったの?気が付かなかったわ』何処が人為的なのだろう?


 『ここは水や溶岩が流れて出来た洞窟では無いわ』とマーヤ。

 『それなのに、地面が平なのは不自然よ、それに入り口が長方形で人がぎりぎり通れるぐらい狭いのも形がおかしいわ、自然に開いた洞窟と考えるより人が掘って作ったと考える方が自然よ』とマーヤ。


 『過去にミョウバンの採掘で穴を掘ってたけど、闇の森ダンジョンに近すぎて放棄したのね』とマーヤ。

 『魔物は闇の森ダンジョンから出て来る事は無いし、動物も闇の森ダンジョンに近付く事は無いから空いていたのね』とマーヤ。


 『そうね、此処はギリギリ闇の森ダンジョンの境ぐらいだしね』と納得した。


 それなら石を採掘しますかね。

 その日は洞窟の奥に在る鉱脈を天井付近から少しづつ土魔術で石を崩して行って、採石した。

 採石した石を錬金すると軽銀と言われる金属が出来た。

 採石した石その物も精製するとミョウバンとして使えるので神域へ持ち込んだ。

 売ってお金に出来るかもしれませんね。

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 逃亡生活の始まりです、でもその前にお金儲けの為の準備でミョウバンを掘ります。

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