第3話 なんか怪しいと思ったんだけどな

 悠がマコトに会って話を聞いた翌日も、マコトは学校にはきていなかった。

「今日もマコちん来ないのかな。ねえ悠、昨日マコちんに会ったんだよね」

「ああ、元気だったんだけどな……」

 晴香に昨日のことを尋ねられるが、あまり詳しいことは言わずにはぐらかす。女の子になってしまったことは秘密にすると約束したため、たとえ相手が幼馴染の晴香だったとしても伝えることは出来なかった。

「もしかしたらマコトくん、何か俺たちに隠してるんじゃない?」

 兵藤がふとつぶやく。それに対し晴香が反応した。

「隠すって何を?」

「たとえば、いじめられてるとか。マコトくん可愛いからさ、どっかの誰かに目つけられてたりする可能性もあるじゃん?」

「あり得るかも……マコちんの可愛さは人を狂わせるからね」

 2人はあれやこれやと様々な予測を立てている。全てを知っている悠は話題を逸らすことに必死だった。


 朝のHRが終わり、授業の準備をしていると突然ガラガラと教室の扉が開く。扉の向こうに立っていたのはマコトだった。

「みんなおはよ〜! ちょっと遅刻しちゃった」

 マコトはかわいらしい笑顔を振りまいて教室に入る。遅れてきたマコトに誰よりも早く反応し、飛びつく人物が1人いた。

「マコち〜ん!! 待ってたよー!!」

「ごめんね、心配かけちゃったみたいで」

 マコトは抱きついてきた晴香の頭を撫でながら悠に向かってサインを送る

(みんなに話してないよね?)

(もちろん)

 マコトはこのやりとりで安心した様子だった。

 しかし、晴香はマコトに違和感を感じる。

「ねえマコちん、なんか可愛くなってない? 前よりちょっと肌もすべすべしてるし、柔らかくなった気がする」

「え!? そ、そうかな〜、特に何もしてないけどな〜」

 マコトは必死に誤魔化そうとする。悠もこれはやばいと、フォローに入る。

「あれじゃないか? ちょっと太ったとか」

 咄嗟に出てきたのはこの言葉だった。しかし、この選択はかなりの悪手だったらしい。悠は兵藤と晴香にとんでもない勢いで避難されてしまう。

「星宮、それはタブーだろ。太ったは悪口だよ」

「悠最低、信じらんない」

「いや……別にそんなつもりじゃ……」

「いいよー私は気にしないもん。それに、ゆーくんにはどんなことを言われても大丈夫だから」

 マコトは悠の方を見てにっこりと笑う。

 不意を突く笑顔に悠は少しドキッとして目を背けてしまった。

「ほんっとにマコちんは悠に甘すぎるよ! こういう時はもっとバシッと言っちゃっていいんだから」

「えー? でもハルちゃんも一緒だよ? 2人のこと大好きだからなんでも許せちゃうんだ〜」

 それを聞いた晴香は照れ隠しのつもりかマコトのことをポカポカと叩いている。

「いや〜やっぱり天使みたいな子だな〜」

「確かに、場が和む感じっていうのか?」

 兵藤と悠が話していると、チャイムが鳴り響く。気がつけば1時間目の授業が始まる時間だった。

「やばい! 今日1時間目から移動じゃん!」

 4人は急いで教室を移動するが間に合うわけもなく、仲良く説教を受けることになった。


 その日の放課後、悠とマコトは晴香から呼び出される。

 ———ちょっと2人に聞きたいことがあるんだけどいい?

 なんだかいつもと違う真剣な表情に妙な緊張感を覚えてしまう。まさかマコトのがバレてしまったのだろうか。しかし、今日1日のマコトは普段通りだったように見えた。どんなことを聞かれるのかとドキドキしながら待っていると、ようやく晴香が口を開く。

「あのさあ、ちょっと聞きづらいんだけど……」

 悠とマコトの2人は息を呑む。のことが聞かれるのかと不安になっていたが、実際にはもっと衝撃的なことが晴香の口から話された。

「もしかして2人、付き合い始めた?」

「…………ん???」

 想像もしていなかった質問に、思わず体が固まる。ふとマコトの方に目を向けると、モジモジしてほんのりと顔を赤くしていた。

「やっぱりそう見えちゃった?」

「マコト?」

 マコトの発言に悠は動揺を隠すことができなかった。お前は何を言っているんだという意味を込めた視線をマコトに送っている。

「やっぱりってことはつまり……そういうことなの……」

 晴香は絶望した表情になってしまっている。今にも魂が抜けそうなほどにみるみる弱々しい様子になっていった。それを見て流石にまずいと思ったのか、マコトは慌てて先ほどの言葉を訂正する。

「ごめんハルちゃんそんなに落ち込まないで、さっきのは冗談だから!」

「冗談……? 本当に……?」

 今にも泣き出しそうなほど潤んだ目でマコトを見上げる晴香に対し、マコトはとてつもない罪悪感を感じてしまう。

「ごめんねぇ、もうあんなこと言わないから泣かないで?」

 謝るマコトもつられて泣き出しそうな勢いだった。

 しばらくして2人が落ち着き、ようやく話を再開する。

「———それじゃあ別に2人が付き合ってるわけじゃないのね?」

 改めて晴香が確認する。さっきのマコトの言葉が相当応えたらしく、かなり念入りに確認された。

「本当にそういうのじゃないから。さっきはマコトがちょっとおかしかっただけだよ」

 悠がキッパリと言い放つ。その横でマコトも大きく首を縦に振り、反省した様子で晴香の顔を見つめている。

「……わかった信じる」

 晴香はようやく納得した様子でほっと一息をつく。2人も誤解が解けて安心した様子で見合わせる。

については気づかれてないみたいだな」

「うん、ちょっと不安だったけど大丈夫そうだね」

 悠とマコトは小声でのことを話し合う。そのコソコソとした様子を見て晴香は再び疑いの目を向ける。

「ねえマコちん、最後に一つだけ聞かせて?」

「アタシに隠してること、ある?」

 晴香が単刀直入に尋ねる。その瞬間、妙な緊張感が周りに漂い始めた。

 隠し事は確かにある。しかしマコトはその秘密を悠以外の誰にも言わないという意志を固めていた。悠がマコトの反応を確認しようと目を向けると、そこにはマコトが晴香から目を逸らしてアワアワと取り乱している姿が映った。これでは隠し事をしてますと告白しているようなものだ。

「えっと、か、隠してることなんてないよ? ほんとだよ? ハルちゃんに隠し事なんてしたらすぐにバレちゃうじゃん。あはは……」

 マコトはアワアワしながら必死に言葉を紡ぎ、最後には笑って誤魔化そうとする。

 その様子を晴香はいぶかしげな表情で見つめる。その間もマコトはずっとあははと笑って乗り切ろうとした。しばらくすると晴香は観念した様子で口を開く。

「……もう、わかったよ。アタシに隠してることはないのね」

(信じるのかよ!)

 もっと食い下がるかと思っていたのにあっさりと詮索するのをやめた晴香に対し、悠は心の声がもれる。

「悠もマコちんとおんなじ?」

 晴香は期待していない様子で悠にも尋ねる。悠は一瞬迷いつつもすぐに答えた。

「ああ、何もないよ」

 マコトのために嘘をつく。マコトほどではないが、悠も晴香の顔から少し目を逸らしていた。

「そっか〜なんか怪しいと思ったんだけどな……」

「まあ、何もないならいいや。ごめんね2人とも時間取らせちゃって」

 そう言って晴香は舌をぺろっと出して笑う。

「ハルちゃん……」

 マコトは思わず声が漏れてしまった。

「2人は先に帰ってて、アタシちょっと寄るところあるからさ」

「じゃあ、私も一緒に——」

 マコトの言葉を悠が遮る。

「わかった。じゃあまた明日な」

「ほら、行くぞ」

 半ば強引にマコトの手を引っ張り、悠たちは教室を後にする。悠に手を引かれて教室を去るマコトは教室に1人残る晴香の姿を不安げな表情で見つめていた。

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この青春はバラ色か!? 七咲キサラ @mage_63

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