第2話 魔王
彼は暗闇の中で
ただただ、空中を
ただ唯一わかるのは、彼には
それがどれほどの期間続いたか。彼には何も解らなかったが、ある時ふと、何かに引き寄せられるのを感じたのだ。真っ暗な闇の中でふわふわと漂いながら、彼は
流れ流れそして後、彼は突然、ハッキリとした声を聞いた。
『――エドヴァルド?』
それが己に向けられたものだとハッキリと理解出来る程、不思議と彼の中にも響いてくる声だった。記憶なぞは持ち合わせてもいないのに、どこか聞き覚えがある。
思念だか魔力だかに成り果てた彼に向かって、それは名前をハッキリと名を呼んだ。そこで彼は初めて自覚する。自分はエドヴァルドという存在だったと。
名前は
彼に名前を与えたその声は、彼とは違いハッキリとした
『やはりお前だろう、エドヴァルド……私との約束を果たそうとした、優しき
彼は実体は得たものの、それ以外は何もわからなかった。考える力すら持たない、力を
それでも、己を呼ぶその声が心地好いのは確かで。勇者だの魔王だの、声の言った約束だのと、そういったものは全くわからない。だがそれでも、彼は声の元へ行きたくて仕方がなかったのだった。ふわふわと周囲を
『もうひとつ、頼まれてくれないか……私に、お前の力を少しだけ分けてほしい。今の私は、実体化するには弱り過ぎている。少しで良いのだ……私が体をまた得れば、すぐにお前にも体を与えるだけの力ならば取り戻せる。――もう一度だけ、頼まれてくれ……頼むッ……』
そう続けられた声は本当に
だから、無事に
強く強く、何かを
荒れ果てた
場に残された小さな
しばらく動きを確かめるかのようにその手はうごめいていたが、ふと誰かが気が付いた時には、それは上へ上へどんどん伸びていった。始めは手首まで、それが
その気配を察した魔王城はその日、大騒ぎであった。
魔王様が復活した――と。
ざわざわと落ち着きなく
「感謝する。――これでお前は、私のモノだな。しばし眠ってくれ。次に会う時には、今度は私がお前にからだを与えてやろう」
魔王の中へ取り込まれながらも確かに
「ゆっくりと眠れ。お前の悪夢はもう、終わったんだ――」
ささやくような男の
「せめて夢の中では幸せを――」
誰に聞かれるでもないその呟きは、まるで願いごとのように、そらに溶けて消えた。
◇ ◇ ◇
「イェレ、人間共の様子はどうだ?」
その男は、再び体を取り戻して間も無く、自室で
それを、ベッドの上で起き上がりながら目の
声を掛けたいのだろうに、宰相イェレは
「魔王様が復活なされた事には奴らも
「対処は?」
「
「それでいい、我々も戦力を失いすぎた……国力が回復されるまでは戦闘は出来るだけ回避し、魔人達の
「ッ
「ん?」
「よくぞ、お戻りになりました。私を含め皆、信じておりました――ッ」
魔王の話が途切れ、一息つこうとしたその時。とうとう堪え切れなかったイェレから、
魔王が敗れるなど、どんなに信じられなかった事か。そして、その
男それにただ一言、告げただけだった。
「皆には迷惑をかけたな。今、戻ったぞ――」
それからしばらく、その部屋からは誰の声も聞こえず。そのかわりに、何かを
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