第24話
ちっ!なんなんだこいつは。さっきから異常だ。先程から観察していたが、どうもおかしい。
一之瀬はこんな奴だったか?
「おい!華!」
「なんですか?」
「どう思う?」
華にならこれでも伝わるだろう。
「…………この感じに聞き覚えはありますね。」
やはりか。華がそう思うなら間違いない。
「私もそう思いますよ〜。」
凛もか。
「だよな。」
「はい。」
「うん。」
だが、とりあえずあいつを止めるのが先決だ。
正悟のヤツめ。こんな時に怪我なんかしやがって。
私なんかを庇うからそうなるんだ。現実的に考えて残るなら私よりもやつの方が良かったはずなのに。
「おい!華!凛!私に合わせろ!」
「分かりました。」
「は〜い。」
相変わらず気の抜けたヤツめ。
「一華は援護を頼む!」
「わかったよ!」
私たち三人での攻めならば何とかなるかもしれない。
そんな事を何度も何度も何思った。実際私たちに勝ちうる存在などそうはいない。
大和国四大守護家の人間として、恥ずかしくない強さを持っているはずだ。
「大和流炎刀術 四の技 火災旋風」
「大和流水刀術 三の技 渦巻・激流」
「大和流雷刀術 二の技 地雷」
私たちが合わせ技をすればもはや自然災害と相違ない。
それなのにやつにダメージを与えられる気が全くしない。
クソっ!イラつくなぁ!
「美咲!危ない!」
ん?
私が前を向くと、目の前に手があった。先程と同じ光景。正悟が戦えなくなってしまった原因を作った手。
それを思っただけでとんでもない怒りが湧いてくる。
この野郎!二度もやられてたまるかっての!!
「大和流炎刀術 二の技 火輪・閃光」
ドン!!と音が鳴って、一之瀬の手が上に跳ね上がる。
ダメージを与えることは出来なかったが回避することが出来た。
「一華!すまん!」
「大丈夫!」
クソっ!こんな時にお姉様がいてくだされば良かったのに!
お姉様ならこんな状況などなんとでも出来てしまうのだろう。
現在の四大守護家当主の中で最も強く、聡明なお姉様は私の誇りだ!
「今度は私が抑えるね!」
「頼む!」
「大和流風刀術 一の技 疾風」
一華が一之瀬に迫り、斬撃を浴びせている。それでも全く意に介していない。
それからはずっと受けに回って引き付けてくれている。
幸いなのは理性を失っているのかどうかは分からんが、こちらの思い通りに動かしやすいという所だな。
「華!凛!なんかないか!?」
私はもう全て出し切ってしまった。もう取れる作戦はない。
「今桜様を呼んできて貰っています!」
聞こうとした矢先に正悟が叫ぶ。
あのやつ!怪我してるんだったら安静にしておけってんだ。
しかし今いい事を聞いた。
「よくやった!」
「これで何とかなりそうですね。」
「持つかな〜?」
「ふむ。私たちが順番にやつを足止めすれば良いだろう。幸い、奴は攻撃してくるやつに注目するみたいだしな。」
「そうですね。それが一番いいでしょう。」
「じゃあ次は私が行くね〜!受けなら私の得意分野だよ〜!」
たしかにな。凛は水刀術だから受けが得意。
今回の作戦にもってこいの能力だな。
「一華!あとは任せて!」
「わかった!」
そうして交代している。
少しの間、時間があるから正悟のやつの所にでも行ってやろう。
「おい、正悟!大丈夫なのか?」
「はは、大丈夫ですよ!」
ちっ!全然大丈夫じゃなさそうな顔しやがって。
「お前は少し寝ておけ。今は一人ずつで抑える事にしたからな。」
「なるほど。いい作戦ですね。」
「だろう?」
こいつにしては気が利く事を言うじゃないか。
「所でお前、二十年前の事件を知っているか?」
「二十年前ですか……?………すいません、分からないです。」
やはり知らないか。まぁそれも仕方ないだろう。情報統制されているだろうからな。
「そうか。ならいい。」
「?」
「気にするな。」
よし!次は私がやるか!
「おい!凛!交代だ!」
「うん!任せたよ〜!」
全身に魔力を込める。
「大和流炎刀術 三の技 流星火・狂焔」
この攻撃でまずは斬撃の檻を作る。とは言ってもその場の時間稼ぎにすぎない。
「大和流炎刀術 五の技 燎原之火」
彼女に対して四方から全力で攻撃する。この速度には着いて来れないようだ。
そして最後の攻撃を当てた時だ。
一之瀬の雰囲気が一気に変わった。
これはやばい!本能がそう叫ぶ。
全力でその場を退避すると、とんでもない速度で間合いを詰めてきた。
やばい!
そう思った時、横から割り込みがはいる。
正悟だ。正悟がまた助けてくれたのだ。
「大和流炎刀術 一の技 雷火!」
一之瀬が横に吹き飛んでいく。
ちっ!またか!また私は正悟に助けられたのか!情けない!大和国四大守護家の者として、もっとしっかりとしなければ!
「正悟!貴様!少し下がっていろ!」
「…分かりました……」
そう言った瞬間やつは倒れる。言わんこっちゃない!
「一華!正悟を頼む!」
「わかった!」
「大和流炎刀術 四の技 火災旋風」
技を出そうとすると、またとんでもない動きで迫ってくる。
その姿はまるで野性的。情報にあった通りだ。
そのままぶった斬るつもりで当てるが、少ししかとどまらせることが出来ない。
有り得ないほどの速度で殴ってくる一之瀬に対して全力で受け流す。
「華!援護を頼む!」
流石に一人ではキツい。一之瀬の手が迫り来る。
やばい!
「大和流雷刀術 一の技 迅雷」
華が何とか割って入ってくれたので助かる。
私は助けられてばっかりだ。
「大和流炎刀術 」
ボゴォッッ!!!!
技を出そうとすると殴られてしまった。
かなり吹き飛ばされてしまって、家に激突して止まった。
この一撃でもう体が動きそうにない。正悟があれだけくらっても動けていた異常さを今になって感じる。
なんとか、立ち上がる。その間に華も吹き飛ばされていた。
凛が押さえてくれている。それでも、一之瀬は強かった。
凛も同じ結果となって、一之瀬を抑える存在はもう居ない。
もう終わりだ。みんな殺されて終わる。
そう思った時だ。救いの神の手が舞い降りた。
「皆さん。遅れてしまい申し訳ありません。」
よく聞き覚えのある声。私の大好きな声。
この声はお姉様だ!
助かった…………第一の私の感想はそれだった。
「…遅れた…なんて…とんでも…ござい…ません。」
「美咲…………それに他の皆さんも。これはすみれがやったのですか?」
「うぅ………………。」
「すみれ?」
「…お姉様…恐らく…魔人化…し……てます。」
「…………それは本当ですか?」
「……間違い…ない……と…思って…います。」
「………そうですか。分かりました。」
「ううううううう!!!!」
すみれがそう唸りながらお姉様に迫る。その速度は先程よりもかなり速い。
魔人化がより進んでいるのだろう。
「大和流炎刀術 四の技 火災旋風」
その一撃で彼女を吹き飛ばした。流石だ。流石お姉様だ。私たちには出来ないことを簡単にやってのける。
だが、それでも一之瀬は立ち上がる。
「なるほど。これは間違いなさそうですね。」
お姉様も確信したようだった。
「ならばこの技をするしかありませんね。」
お姉様があの技を使う!?
私は一度だけその技を見せてもらった事がある。
美しい………とにかくそれ以外の感想はなかった。
「大和一刀流 春の技 百花繚乱」
百本の花が咲き乱れ、その美しさは見るもの全てを虜にする。そんな技だ。
その一撃を食らった一之瀬は吹き飛ばされ、そのまま気絶した。
彼女が暴れるだけで周囲が吹き飛ぶ。
もしこの場に私たちのように彼女を抑える事ができる者がいなかったら、ここら一体は荒地になっていたかもしれない。
少しの間だけでも止めていたことに意味があったと私は思いたい。
「それにしてもこれは凄い惨状ですね。あなた達がいなければもっと酷いことになっていました。本当にありがとうございます。」
良かった。お姉様が認めてくださるのなら、報われる。
「…いえ…そんな…とんでも……ない…です。」
「救援隊を呼んでいますのでそのまま休んでいてください。」
そう言ってお姉様は一之瀬担いで行った。恐らく行く場所は学院では無いだろう。
大和城。そこに違いない。
そう考えていた私だったが、そのまま眠り落ちるように気絶してしまった。
目が覚めると、ベットの上にいた。
横には正悟、一華、華、凛がいる。
椅子には周が座っている。
「美咲?起きたの?」
「あぁ。」
「良かったぁ!あたし心配したんだよ?どうしてあの時一緒に行かなかったのかって後悔してた。」
周が泣いている。そんな光景を見てなんとも思えない自分ら疲れているのだろう。
「そうか。」
思考が回らない。何か答えてやりたいが全く思いつかない。
「すまない。もう少し眠らせてくれ。」
「うん。いっぱい休みな。」
そうして私はまた眠りについた。
異世界で憧れた俺は英雄となり世界を救う @aiueee
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。異世界で憧れた俺は英雄となり世界を救うの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます