第23話
楽しく会話しながら歩いていると、突如悲鳴が聞えてきた。
「今のは……?」
「言ってみるか。」
そうして悲鳴が聞こえた場所に辿り着くと全員が驚く。
「平民が!平民風情が!調子に乗ってるんじゃないぞおぉぉぉ!!!!」
そんなことを叫びながら暴れているのは、なんと一之瀬だったのだ。
「な!?」
「え!?」
「マジかよ………!?」
「一之瀬……さん………?」
と、皆が声が出ないでいる。それも当然だろう。少し暴れてるとかそんなレベルではない。
全力で魔力を使って、そこらじゅうの物や家を破壊して回っているのだ。
これで驚くな、という方が無茶である。
「一之瀬!!何をしている!すぐにやめろ!」
そう美咲さんが言うと、一之瀬がこちらを向く。
「うぅ………………うううゔゔ!!!!」
やばい!
そう思っときには体が動いていた。
「危ない!!!」
カギイインンン!!!
俺は突然襲いかかって来た一之瀬からの一撃を抜刀して受け止める。
「なっ!?おい!貴様!自分が何をやっているのか分かっているのか!!」
美咲さんが信じられないと言った顔で一之瀬に聞く。
「うぅ、、」
依然として一之瀬は言葉を発さない。不自然だ。
それにちょっとやばい。もう押えられそうにない。
「このままだと不味いですよ!どうしますか!?」
何せ力がかなり強い。俺の身体能力は決して低くはなく、むしろ高い方であるはずなのに、魔力強化を行っても少し押され気味だ。
「どうするって……………。」
「これは一体どういう事なのでしょう?」
「美咲!こいつはこんな奴だったか?」
「いや、そんな事はないはずだ。多少性格が悪かったが、こんな事をしでかすような人間ではない……………いや、わからん。」
「どうしちゃったのかな〜?」
……やばい!もう限界だ!耐えられない!力が強すぎる!
「もう無理です!」
そう言って俺は一之瀬をとにかく全力で吹っ飛ばし、少し距離をとる。
「どうしますか?」
「止めるしかないだろう。」
「そうですね。」
「なぜこうなったか問いたださないといけないな。」
全員で構える。木刀ではない。真剣だ。
少し、緊張する。
だがここで止めなければ大変なことになるのは自明の理だ。まぁもう既に大変な事になってるんだけど。
家とか見る影もない。周囲が瓦礫の山と化している。それほどに破壊して回ったようだ。
「七星さんは周りの人を避難させてください。」
「う、うん。わかったよ!任せて!」
この戦いに七星さんは着いて来れない。そう思って言ったので良かった。
恐らく本人も分かっているのだろう。
「うぅ………………ううううううう!!!!」
またも迫ってくる。とてつもない速度だ。
「ここは私が行きます。援護をよろしくお願い致します。」
そう言うと、華さんは技を出して一之瀬に攻撃する。
殺してしまうかもしれない、そんな事は全く考えていなそうな攻撃だ。
「大和流雷刀術 三の技 多重天雷」
激しく鋭い斬撃が一之瀬を襲うが、そんな事をまるで意に介していない様子で攻撃を避けようともしていない。
明らかな異常。普通の人間ならば嫌でも回避行動したくなるはずなのに。ましてや前戦った時はちゃんと躱していた。
攻撃が彼女に当たる!
その瞬間だった。なんと華さんの技が弾かれたのだ。
バチぃぃぃぃ!!!と音がなったかと思うと、華さんは吹き飛ばされ、家に穴を開けて激突している。
これにはみんなも驚きを禁じ得ない。俺たちの中でも、最も強い人物があんなに吹き飛ばされるなど現実味がない。
「な!?華が!?」
「これは……恐ろしいですね……。」
一之瀬はまだ暴れ回っている。
「ここは俺が行きます。」
「わかった。」
了承を得たので攻撃を開始する。
「大和流風刀術 一の技 疾風」
背後から攻撃を仕掛ける。万が一当たっても大丈夫なように、一応急所は外してある。
これでも彼女が回避行動をとることはなかった。
それどころかそのまま攻撃してくる。
上段からの一撃が迫る。
俺はそれを刀を斜めにする事で受け流す。
「大和流水刀術 一の技 環流・飛瀑」
こちらもまた同じ上段からの一撃をお見舞いする。
彼女に攻撃が当たった瞬間、とんでもない衝撃が襲う。
荒波に飲み込まれるような、抗いがたい衝撃に耐えることが出来ず吹き飛んでしまった。
何が起こっているのか分からない。
それでも、攻撃が何らかの影響で通じない事は分かった。
「これはやばいです!」
「どうやばい!?」
「攻撃が通じません!」
「なに!?」
「どういう訳かこちらの攻撃が効かないのです!」
「どういう事だ……?」
それはこちらも聞きたいくらいだ。今少し戦ってみて思ったが、なんというか人間味がない。
声を上げたせいかこちらに気づいた一之瀬が襲ってくる。
「大和流風刀術 二の技 大旋風」
炎刀術の火災旋風によく似た技だ。違いは炎があるかないか、それぐらいのものだろう。
だが、急に何かに引っかかったように刀が動かなくなる。
なんと一之瀬が刀身を掴んでいるのだ。
「え?」
そんな間抜けな声が出てしまったと同時に、頬にとんでもない衝撃が走る。
ドゴオオンンン!!!
ボクシングでもあまり見れないような綺麗なフックが入った。
めちゃくちゃ痛い。魔力強化を行っていなかったらたぶん顔が破裂していた。
「大和流風刀術 三の技 裂葉風・神風」
俺が顔面を殴られている隙に背後に回った一華さんが、三の技で攻撃を仕掛ける。
ゴッ!!!!と鈍い音が鳴ったから当たった事に間違いはないのだろう。
だとしても、明らかに人間からする音じゃないけど。
そもそも、彼女がまるで反応しないので当たったのかどうかすら分からない。
「大和流水刀術 二の技 貫流・奔湍」
凛さんが仕掛ける。四つの属性の中でも唯一の突き技だ。
それでも全然攻撃が通らないし、刺さらない。
一之瀬は遂に刀を捨てる。今度は素手で殴りかかってきた。
慌てて刀で受ける。するとガギイイィンン!!とおおよそ人の手から鳴るはずのない音を奏でている。
さっきから場所によって鳴る音が違う?
色んな音が聞こえてきている。
「!?かたっ!?」
当たった感じも金属のようだ。
こんな手で殴られたのだからたまったものではない。
「大和流炎刀術 五の技 燎原之火」
枯れた草木に燃え広がる火のように周囲一体を攻撃する超広範囲技だ。
範囲もさることながら威力も高い。体感だと全ての技の中でも最強だ。攻撃性の強い刀術なだけはある。
先程から何度も何度も攻撃をしているのにガギイイィンン!!!!と音がなるばかりでどうにもならない。
「大和流雷刀術 五の技 電轟雷撃」
「大和流風刀術 四の技 大旋風」
「大和流水刀術 三の技 渦巻・激流」
互いが互いを邪魔することなく最大の威力を発揮出来る技を繰り出す。
華さんの電轟雷撃、一華さんの大旋風、凛さんの渦巻・激流。そして俺の燎原之火。
現在出来うる最大規模の攻撃だ。
炎が燃え広がったかと思えば激しい雷鳴が轟いていて、その次は竜巻が激しい轟音をならし、激流の渦巻に飲み込まれる一之瀬。
ハッキリ言って生きている方がおかしいレベルだろう。
それでも俺達には確信があった。
彼女はこれでも死なないと。
実際まるで痛痒を感じていないような涼しい顔をしている。
「があぁぁぁ!!!」
彼女が叫ぶ。そうすると圧倒的な魔力が放出され全員が吹き飛ばされてしまう。
そんな事は不可能だ。これだけの魔力を一度に放出すれば魔力孔が壊れて破壊的な痛みをもたらすだろう。
そう思いながら立ち上がると、横にいたはずの美咲さんは一之瀬に顔を掴まれている。アイアンクローの状態だ。
「つぅぅぅぅ、、、」
速い!俺が吹っ飛んで立ち上がるまでそんなに経っていないはずだ!
しかも接近していた事にまるで気づかなかった!
「大和流炎刀術 一の技 雷火」
美咲さんを助けるために攻撃する。
接近するとそれに合わせて前蹴りが飛んできた。
そのまま躱す事が出来ずに蹴りあげられる。
ドッッッ!!
鈍い音が鳴る。
でも、そのおかげか美咲さんから手を離したようだ。
「ガハァッ!!」
「正悟!?」
「正悟君!?」
あぁ、どうやら七星さんも戻ってきたらしい。
もう避難は終わったのかな。
「大丈夫か!?」
「ハァ、だい、ハァ、じょうぶ、ハァ、です……」
なんとか答える。だが、あまりの激痛に過呼吸のような状態になってしまう。
息をするだけで肺が痛い。このまま寝てしまいたい衝動に駆られる。
今にも意識が落ちてしまいそうだ。だがここで挫ける訳にはいかないのでなんとか立ち上がる。
それでももう歩く事さえ困難だ。
「ちぃ!!正悟がこうなっちゃ仕方がない!凛!やるぞ!」
「そうね!」
二人が一之瀬にかかっていく。
技を出していく彼女達に対して、一之瀬は完全に素手だ。
そこに技術とかそういった物はまるで感じ取れなく、単純な身体能力や本能で戦っている感じがする。
背後から華さんが二の技 地雷を仕掛けている。
圧倒的な踏み込み。これも決して弱い技ではないが、それでも先程の状況を見る限り効かないだろう。
技が当たっているが案の定効いた様子もなく反撃している。
凛さんは五の技 鏡花水月や四の技 行雲流水で相手を惑わしているようだ。
鏡花水月は幻の自分を相手に見せる技だ。それと併用して行雲流水で攻撃を流す。
相手の攻撃が単純だから、かなりやりやすいだろう。
一度も食らってはいけないという鬼門があるが。
一華さんは常に攻撃を仕掛けている。それを凛さんが惑わし、重い一撃を華さんと美咲さんが食らわせている。
それでも倒せそうにない。
おかしい。あまりにもおかしい。人間としてあれだけの猛攻に耐えられるのも中々おかしいが、刀を使っていない所とか、理性をまるで感じられない所が非常に違和感だ。
「正悟君……大丈夫……?」
「大丈夫、です。」
「……全然大丈夫じゃなさそうじゃん!嘘言っちゃだめだよ!」
「…………すいません。……正直キツいですね。」
今すぐ死んだ方がましなんじゃないか、と言うぐらい痛い。
「どうしよう……今すぐ学院に戻る?」
学院か。たしかにそこに行けば手当て室がある。
…………て、まてよ?学院だと?それなら桜さんに来てもらう方がいいじゃないか!なんでそんな単純な事に気づかなかったんだ!?
「待ってください!」
「ん?なに?」
「桜さん、いや、桜様をここに呼んで来てください!そうすれば何とかなるはずです!」
「それだと正悟君が大変だよ!」
「大丈夫です。俺がいると行動が遅くなります。だから、お願いします。」
俺は全力で頭を下げる。
「でも……」
「今この瞬間にもあの方達が大変です!」
「ん〜!!!分かったよ!!すぐに行くから安静にしててね!」
「ありがとうございます!」
良かった。これで一安心だ。
もしも彼女たちが危険な場合は俺が割ってでも助けに入ろう。そう決心して戦いを見守る。
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