第22話


連日の激しい鍛錬の癒しと言えば何であろうか。


そう、休日だ。


今日は四年生になってから初めての休み。


一日中惰眠を貪ってやろうと思っていたが、思わぬ声が掛かったのでその計画は頓挫せざるを得なくなってしまった。


なんと美咲さんに家に来いと誘われたのだ。


最初言われた時は思わず、はい?と言ってしまったよ。


まぁそういう訳で現在は美咲さんの屋敷の前にいる。


めちゃくちゃデカい。


「す、凄く大きいね。」


七星さんが屋敷を見上げながらそう言う。


「そうですね。でも七星さんも武家の方ならこれぐらいなんじゃないですか?」


何となくのイメージでそんな気もしていたが……そうでもないのかな?


「そんな訳ないよ!こんな大きな屋敷なのは美咲様が八雲家の方だからだよ!私なんかじゃ比べ物にならないよ……。てか、なんで呼ばれたんだろう、わたし。」


やはり武家の人でも大きいと感じるんだ。大和国四大守護の名は伊達ではないらしい。


俺もあまりよくわかっていないが、一番偉いのが将軍でその下が大和国四大守護家と言うのは分かる。


だから美咲さんは相当な身分なんだろう。


「まぁよく分からないですけど、誘われてしまいましたからねぇ。」


本当にいきなりだった。断ろうにも断れるはずもないし。


「本当だよぉ。なんで私なんかを…………正悟君は分かるとして、本当に心当たりがないよ。」


俺にも心当たりなんかないんですけど……


「え?そうですか?俺が呼ばれる理由なんて有りますかね?」


「え!?分からないの!?」


「え、えぇまぁ。」


「そんなの異常な習得速度とその強さに決まってるよ!」


「あ、そうなんですか。なんだ。良かった。」


「なんだって……そもそも理由が思い当たらなかったのに怖くなかったの?」


こういう時は少し怖いけど、本当に心当たりがないなら大丈夫な時の方が多いからな。


四年生に上がる時もそうだったし。


「まぁ俺は何も悪いことはしてないと思っていたので。」


「図太い神経だね……」


そんな会話を七星さんとしていたら、後ろから声をかけられる。


「お、お前ら来てたのか!早いな!相変わらず仲が良いようで何よりだな!」


「あ、周様!そんなんじゃないですよ!」


「そうかそうか!そういう事にしておくよ!」


「おいお前ら!もう集まったのか?早く中に入れよ!」


扉から、美咲さんが出てきた。いつもの制服ではなく着物を来ていて凄く可愛い。


「それじゃお邪魔するよ〜!」


「お、お邪魔します……。」


「お邪魔します。」


屋敷の中に入る。


その景色はまさに庭園だ。庭なんてちゃっちいものじゃない。


隅々まで手入れされているその風景は見ているだけで癒される程に綺麗だ。


その光景に目を奪われながら、美咲さんについて行く。


途中で使用人の人にもあった。実際にそういう仕事をしている人を見るのは初めてなので興奮する。


日本とは全然違う。いや、俺の元の生活と、か。


それからすぐに一際広い大広間に着く。


「この中に入っておいてくれ。私は少し用事がある。」


そういってどこかに行ってしまった。


「入っていいんだよね………?」


七星さんが恐る恐るとした様子で聞いてくる。


「た、たぶん大丈夫だと思います。」


俺もよく分からないけど、入っておいてくれと言われたからには大丈夫なんだろう。


「お前ら何緊張してんのさ?早く行くよ!」


周さんに言われるがまま中に入ると、見知らぬ人がいた。


「え!?なんでここに……っ!?」


誰だろう?よく知らないけど、七星さんの反応からして普通の人ではなさそうだ。


「お初にお目にかかります。四条 華と申します。よろしくお願い致します。」


「宝生 一華だ。よろしくな。」


「橘 凛です〜。よろしくお願いします〜。」


全員知っている苗字だった。そう、大和国四大守護家の内の八雲家以外の三つの家柄だ。


「正悟です。よろしくお願い致します。」


とりあえず挨拶をしておく。無視するわけにもいかないから。


「な、七星 宙と申します。よろしくお願い致します。」


それにしても何がなんだか分からない。何故この人達がここに?周さんは知ってるのかな?


「知っていましたか?」


「いや?知らなかったよ。でもまぁあいつならなんでもやりかねないからなぁ。」


「なるほど。」


そういう感じか。あんまり人に言わなずに自分で決めていくタイプらしい。


「貴方、正悟と言いましたか?」


「え?あ、はい。」


いきなりなんだろう?名前を確認してくるなんて、怖いな……


「なるほど……。貴方が噂の……。全属性に適正があると言うのは本当なんですか?」


あ、なんだそういう事か。ただの確認だったのか。


「はい。一応全部使えます。」


「それでもう全てを習得したというのも本当なんですか?」


「はい。本当です。」


「……信じられないですね。全属性だけでも異常だと言うのに、もう全てを習得しているなど人間の芸当ではないです。」


「確かにな。華でさえ全てを習得したのは四年生の頃だろ?それも一つの属性をだ。それをそこのそいつがたった二日で習得したなど、到底信じられないな。」


「まぁまぁまぁ、それはこれから分かることですし〜。その時に確認しましょうよ〜。」


「それもそうだな。」


「そうですね。」


何やら不穏な空気が漂っているような……?て、待てよ?今”これから”って言った?


コンコン、と音がなる。


「失礼します。修練場でお嬢様がお待ちです。」


なるほどなぁ……間違いない。これから鍛錬が始まるのだろう。


だから呼ばれたのか。なんで呼ばれたのかイマイチ分からなかったけど、そんな単純に仲良しごっこなんて事はなかったようだ。


俺たちは使用人の人について行く。


相変わらずとんでもなく大きい屋敷だ。遠近感が狂いそう。


修練場に着くと先程までの可愛い着物をきた美咲さんはいなかった。


バッチリと制服を着ており、やはりこれから鍛錬が始まるのだろう。


「皆今日はよく来てくれたな。もう気づいていると思うがこれから鍛錬を行う。」


やっぱりかぁ。まぁそうだよなぁ……


「相変わらず彼女は突然ですね。少しは情報をこちらにも渡して欲しいものです。まぁもう慣れましたけど。」


「ほんとだぜ。いきなりすぎだ。まぁもうなれたけどな。」


「本当に彼女は変わりませんね〜。」


どうやら彼女のこういった面は昔からのものらしい。


そしてこの人たちも今までそれに付き合わされていたのだろう。


やれやれといった感じである。


流石にここで真剣を使う訳にはいかないので、木刀を貸してもらう。


「よし!まずは素振り千回だ!」


!?どんな数!?エグいな!?


と思ったが俺と七星さん以外が当たり前かのようにこなし始めたので俺もやる。やるしかない。


それが終わると


「次は腕立てと腹筋に背筋を五千回だ!」


またもや、とんでもない数である。ただ魔力による身体強化を行っても良いという事で、何とか終わらせる事が出来た。


……ハッキリ言ってもう限界だ。だが、そこで終わるはずもなかった。


「ランニング20km!」


今までの回数が頭おかしすぎて妙に優しく見えてくる。


「10分!」


……え?10分?マジかよ!?そんなん時速100kmを少し超えた速度だぞ!?だせるもんか。


……だせました。そもそも試合中は時速100kmなんてゆうに超えた速度で戦ってたわ……魔力って恐ろしいね……


「少し休憩!」


やっと休憩だ!学院に最初に入った時の事を思い出しちゃったよ……


「す、すごい量、の、鍛錬だった、ね……。」


七星さんは完全に息が切れていて苦しそうだ。


「そうですね。なかなかえげつない鍛錬だったと思います。」


「な、なんで、そんなに、疲れてないの……?」


「こんな感じのトレーニングを学院に入ってやらされていたんです。だからそこまでですね。」


「なるほど………。だからか。凄いね。私はもう無理だよ……。」


七星さんも少し弱音を吐いているが、やはりもう既に息は整っている。


それから10分程度は休憩が入ったので水分補給をしっかりとした。


マジで脱水で死ぬ。それぐらいキツいトレーニングだった。


「よし!じゃあ本命に入るぞ!」


今から本命?という感じなのだが、俺が間違っているのだろうか?


そもそもこれだけのトレーニングをやったら普通はもう動けないはずなんだよなぁ。


それでこれから本命とか頭おかしい。


「まずは各々打ち合いをして確認をしてくれ!」


そう言われたので、俺は七星さんと確認の打ち合いをする。


「よろしくね!」


「よろしくお願いします。」


それから一時間ほどはゆっくりと時間をかけて技の確認をしたりした。


その後少し休憩を挟んで試合の流れとなった。


「まずは華と私がやる。」


そう言って試合が始まった。


「華様は現在の学院代表生の中でも一番強いんだよ。」


「そうなんですか?」


「うん。華様は他の三方の中でも最も当主に近い強さだって言われてるんだ。だからよく見ておいた方が良いと思うよ。」


なるほど。華さんが一番強いのか。是非見てみたい。どんな動きをするのだろうか。気になるな。


「勝負、始め!」


周さんが審判をしている。


「大和流炎刀術 一の技 雷火」


「大和流雷刀術 三の技 多重天雷」


かなりの速度で迫っていく美咲さんに対して、華さんの多重天雷は一度の斬撃で、その軌跡を描く場所を何度も攻撃をする技であり、どちらが勝つか全く分からない状況だ。


すぐにガギィィン!!!と音がなる。どうやら相打ちとなって鍔迫り合いになったらしい。


「大和流雷刀術 四の技 雷樹」


華さんが放ったその技によって美咲さんが上に打ち上げられた。


その隙を逃さずに上空へと行った華さんが、美咲さんに木刀を当てた。


「そこまで!勝者、華!」


なるほど。今ので華さんの実力がおおよそわかった。


まず今の俺では勝てないだろう。一つ一つの技の完成度が違う。


とても綺麗で、技の使い方も上手だった。


それにほぼ互角だった美咲さんがあんなにも簡単に負けるとなると、まぁ勝てないだろう。


「ちっ!相変わらずお前は強いな。いつか負かしてやるからな!覚悟しておけよ!」


「私も貴方に負ける事がないように努力します。」


「まぁいい。次は正悟と宙でやれ!審判は私がやる!」


……どうやら俺の番が来てしまったようだ。皆にめっちゃ注目されているから、やりずらいし緊張するしで最悪である。


俺は構える。七星さんも構えた。


「勝負、始め!」


「大和流炎刀術 一の技 雷火」


俺は七星さんに迫る。七星さんは現在一の技しか使えない。だから一の技で接近した所を仕留める作戦だ。


「大和流炎刀術 二の技 火輪・閃光」


俺はかなり驚く。一の技しか使えないはずの七星さんが二の技を使ってきたのだ。


「!?」


あまりの急な出来事に少し反応が遅れてしまう。


なんとかギリギリで躱す事は出来たものの、やはり動揺は隠せない。


「な、なんで……?」


「びっくりしたかな?本当は今の一撃で仕留めたかったんだけどね。実は隠れて練習してたんだぁ。」


……なるほど。してやられたというわけか。つまり、彼女はどこまで出来るか分からないというか。


まさかここで心理戦を仕掛けられるとは予想外である。


それでも、七星さんが三の技以降を使える可能性はほとんどないも思って構わないだろう。


「次は騙されませんよ。」


「ふふっ。それは困るなぁ。」


「大和流風刀術 一の技 疾風」


彼女に迫り、技をだす。二の技で対抗してきた。


そこで仕留める事が出来なかったが、続けて技をだす。


「大和流水刀術 三の技 渦巻・激流」


彼女を中心にして激流の渦巻が襲う。


「きゃあああ!!」


流石にこれを躱す術は持っていなかったようだ。


「そこまで!勝者、正悟!」


なんとか勝てたからよかった。


「ふーん。まぁ全属性使えるってのは本当だったらしいな。」


「そうですね。」


「そうだね〜。」


「ただ、技の完成度が疎かになっているし試合の構成もまだまだ甘い。伸び代の塊だな。」


「そうだろう?正悟は中々やるからな!」


「お前は既に負けたんだろ?」


「な!?それは言わない約束だろ!?」


まだまだ甘いという評価だった。まぁそんなもんだろうとは思っていたから予想通りと言えば予想通りだな。


「悔しいなぁ……」


七星さんが呟く。


俺は何もいえない。ここで慰めを言っても、余計なお世話になりそうな気がするからだ。


「結構頑張ったと思ったけど、まだまだだったみたい。次は負けないからね!」


「俺も負けないですよ。」


その後は周さんと凛さんとの試合を見て、最後は華さんと一華さんの試合を見た。


お互いの助言をし合って、その次はまた別の人と試合をする。


ちなみに凛さんには勝てたが、華さんと一華さんにはまるで勝てなかった。


あの二人が飛び抜けて強く、さらに華さんは別格だ。


当主に最も近いと言われるのもなるほど納得出来るという感じだ。


そんなこんなで練習試合的なものが終わると、皆で城下町に行くことになった。


てか、今の俺の周り全員女の子じゃん。しかも皆めちゃくちゃ可愛いし。


羨ましいだろ?


まぁ周さんは来てないんだけどね。


なんか屋敷でやりたい事があるらしい。


と、まぁそんな事を考えていたらとんでもない事件に巻き込まれてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る