第21話
次の日も昨日と特に変わりのない始まりだった。
ただ、俺だけ呼び出されたことをのぞいては。
ちょっとビビりながらも呼び出された場所へと行くと、桜さんがそこに居た。
そして、俺の姿が見えるなりこう言ってきた。
「あなたはもう炎刀術を身につけてしまいました。本当に素晴らしい事です。そこでこのまま一つを磨くか、他の刀術を身につけるかどちらにしますか?」
何かやらかしたとか言う事じゃなかったのでひとまず安心する。
聞かれた事について俺は考える。
一つを極めるのならば前者の方が良いのだろう。
ただ戦い方のバリエーションとかを増やしたいのなら、後者のはずだ。
直ぐにどちらが良いかなんて結論は出なかったけど、俺の直感が後者にしておけ、と叫んでいるので後者にする。
「他の刀術も身につけたいです。」
「分かりました。では、ついてきてください。」
ついていくと風、水、雷の技を教えて貰えた。例に漏れず全ての技を一度見れば再現出来たのでこれもすぐに終わった。
大和流風刀術 一の技 疾風
二の技 大旋風
三の技 裂葉風・神風
四の技 風車
五の技 天風・深山颪
大和流水刀術 一の技 環流・飛瀑
二の技 貫流・奔湍
三の技 渦巻・激流
四の技 行雲流水
五の技 鏡花水月
大和流雷刀術 一の技 迅雷
二の技 地雷(じがみなり)
三の技 多重天雷
四の技 雷樹
五の技 雷豪電撃
これが今日俺が覚えた技の全てだ。
技を教えている場所に行くたびに驚かれた。
そもそも普通は炎、雷、風、水のどれかしか適性がないはずなのに、全てを習得出来る所で驚れる。
さらに一つ一つを六年、又は三年かけて習得するのを簡単に習得していくのがおかしいらしい。
俺は何となくできるだけだけど、それがおかしいと言われた。
戻ってくると七星さんが驚きを顕にしたり、少し悲しそうな顔をしたりしていて表情が忙しそうだった。
「本当に凄いね………これじゃあ教えて貰うのも申し訳ないくらいだよ………。」
本当に申し訳なさそうに、下を見ながら七星さんが言う。
「そ、そんな事ないですよ!絶対に七星さんが炎刀術を出来るようにしてみせます!」
思ってもみない反応をされてしまって少し焦る。
「貴様、流石に凄すぎるぞ……」
「ハッハッハっ!あたし達が馬鹿みたいだね!」
なんだろう。今まで武家の人達には平身低頭で来たからこういう風に言われると背中が痒い。
「た、たまたまですから!たまたま出来たんです!」
「ばーか!たまたまでできるわけないだろ!」
「それは、そうかもしれないですけど……」
「美咲、正悟が困ってるよ。」
「クソっ!もう少し言わせろ!お前頭おかしいぞ!?有り得んだろ!?」
美咲さんが俺に信じられないだの、どうなってるんだのと言ってきて俺が反応に困っていると、救世主が現れた。
「美咲、口が悪いですよ。」
「お姉様!申し訳ありません!しかし!この正悟はおかしいです!」
「それには同意です。はっきり言って私よりも強くなるでしょう。」
「そんな!?お姉様!?そんなことを言わないでください!」
と、思ったら大騒ぎである。俺自身は簡単に出来てしまったからそんなに凄いと思えないが、凄いらしい。
「皆さん。鍛錬に戻ってください。」
桜さんにそう言われた俺たちは直ぐに鍛錬に戻る。切り替えの速さは中々だな。
鍛錬中に、ふと思いついた俺は七星さんに言う。
「七星さん。今教えましょうか?」
「………いいの?」
「もちろんです。」
「じゃあお願いしようかな!」
「任せてください!」
とは言ったもののどういう風に教えればいいのか分からない。
とりあえず、七星さんの現状を見せてもらおうと思う。
「一旦一の技をやってみて下さい。」
「分かったよ。」
「大和流炎刀術 一の技 雷火」
こちらに迫ってくる。ただしかなりわかりやすい。そして遅い。
雷火は気がついたら目の前に居た、という感じの技だ。
迫って来ているのが分かってしまったら意味がないように思える。
自分と何が違うのか分析する。
迫ってくる感じが違う。それがなぜなのか理由を探す。
前世的には縮地が一番近い表現だ。
重心を前に押し出す、つまり体重移動をしてもらうのはどうだろう?
「前に倒れるイメージは出来ますか?」
「前に………?えっと、こんな感じ?」
七星さんが立ったまま前に倒れる。このイメージがあれば出来るはずだ。
「それです!そのまま前に倒れて抜刀してみてください。」
「分かったよ。」
その瞬間、ビュっ!!と音が鳴って素晴らしく綺麗な抜刀が起こる。
「めっちゃ綺麗ですね!」
「いや、これ今初めて出来た!こんなに綺麗に決まったの初めて!嬉しい!!」
どうやら初めてできたらしい。本当にそうなのか甚だ疑問が残る程に綺麗だったが気にしない事にする。
「では重心を前にするイメージは分かりますか?」
「んー、何となくかな。」
「一度やってみて下さい。」
「うん。」
七星さんがイメージを掴んだのかどうかは分からないが先程よりも分かりずらく接近してきた。
「その感覚です!」
「なんか今自分の中でもこれだ!って感じがしたよ!」
良かった。何とかなりそうだ。それにしてもこれだけ感覚がいいのにどうして今まで出来なかったんだろうか?
不思議だな。
「一回やってみるね!」
「はい!」
「大和流炎刀術 一の技 雷火」
突然目の前に七星さんが現れる。間違いなく成功している。
「出来てます!」
「本当に!?やったぁ!!嬉しい!!」
まさか、こんなに早くできるとは思ってなかったな。このまま二の技もいっちゃうか?
「二の技もやりますか?」
「いや、今日は一の技の練習をする!」
「分かりました!」
「本当にありがとうね!」
「いえいえ!」
とても喜んでくれたようで、先程と違って明るい表情をしている。そんな姿をみれて、こちらも嬉しい。
「終わったか。」
ビクッ!!
急に話しかけられたのでびっくりしてしまった。
「は、はい!」
「?…よし、じゃあ三人でやるぞ。」
「分かりました。」
「よろしくね〜。」
そうしていきなり三人での鍛錬が始まった。三対三の試合ではなく、一対一で一人が審判と言う形だ。
「まずは私と正悟でやるぞ。」
「わかりました。」
ちょうど炎以外の技も使って試合をしたかったので良かった。
「準備はた大丈夫?」
「もちろんだ。」
「はい。」
「勝負、はじめ!!」
「大和流炎刀術 三の技 流星火・狂焔!」
美咲さんが攻撃を仕掛けてくる。炎の刃が俺に迫り来る。
「大和流風刀術 一の技 疾風」
俺は技を出す。この技は雷火と似ている。ただし斬撃が一度ではなく、何度も攻撃し、また分かりにくいのでは無く単純な高速移動だ。
美咲さんに急速に接近して斬撃を放つ。
しかし、ここで簡単に食らうような人ではなかった。
「大和流炎刀術 二の技 火輪・閃光!」
二の技を何度も放つ事で、自分を覆い隠して攻撃を防いでいた。
「いくら技を使えようとも対策は可能だ!」
そう言って攻撃を仕掛けてくる。
「大和流炎刀術 四の技 火災旋風」
炎の竜巻が俺を襲う。俺はそれに合わせて攻撃を出す。
「大和流水刀術 三の技 渦巻・激流」
相手を中心に激流が渦を巻くこの技は、火災旋風や大旋風と相性が非常に良い。
相手の回転をも利用してさらに技の威力が上がる。
「ちっ!」
美咲さんがその場を直ぐに下がる。
「流石にやりずらいな。」
「大和流炎刀術 一の技 雷火!」
美咲さんがそういったあと直ぐに攻撃を仕掛けてくる。俺はちょうど試して見たいと思っていた技を出す。
「大和流水刀術 四の技 行雲流水」
その意味の通り、自然のままに受け流すこの技は、雷火と相性が良いように感じる。
美咲さんがいつ迫ってきたのかはよく分からないが、空を行く雲のように、流れる水のように攻撃を受け流す事に成功する。
「大和流風刀術 三の技 裂葉風・神風」
俺は落ち行く葉を断ち切る程鋭い斬撃であるこの攻撃で仕留めにかかる。
「ふっ!」
美咲さんがバックステップで後ろに下がる。この攻撃も躱されてしまった。
しかし、ここで逃がす訳にはいかないので追撃を仕掛ける。
「大和流雷刀術 一の技 迅雷」
激しい雷鳴が轟いているように聞こえる程強い踏み込みのよりとんでもない速度で相手に迫れる。
そのまま上段から一撃を食らわせるが防がれてしまった。
だが威力がとても高い故に美咲さんを吹き飛ばす。
そこに隙が出来たので、俺は技を出す。
「大和流炎刀術 一の技 雷火」
そのまま美咲さんに接近し木刀を当てる事が出来た。
「やめ!勝者、正悟!」
周囲がざわめきたつ。
「美咲様が負けた………?」
「有り得ない………。」
「マジかよ………?」
そう言った声が場を支配した。
そんな空気の中で、こちらに来た美咲さんが俺に文句を言ってくる。
「正悟!貴様!ずるいぞ!技を一人であんなに使えるなど不正だ!」
そんな事言われても使えるからなぁ。
「正悟君、なんか本当に凄いね。そんなに凄いことを何回もされちゃうともうなんて言うか、言葉に表せないね。」
「あ、有り得ないですわ。たった二日でその強さなんておかしいですわ。有り得ないわ……」
「もしかしたら選抜大会あるかもね。」
選抜大会?何それ?
「選抜大会ってなんですか?」
「え!?知らないの!?」
マジ!?って顔をされてしまった。もしかして知らないとやばい!?
「え!不味いですか!?」
「いや、そんなことはないけど、知らないのは珍しいかな。」
「そうですか。」
良かった。知らないとやばい程の事じゃなかった。
「うん。選抜大会って言うのはね、その年の学院代表生を決める大切な大会だよ。」
その年の学院生代表生か。なるほど、代表選手的な感じなのかな?
「なるほど。それは大切ですね。その試合に勝てないと出場出来ないんですか?」
「うん。上位5名が学院代表生になって総合大会に出場出来るよ。個人戦も団体戦もその5人だね。」
「そんな事全く知らなかったです。去年のメンバーは誰なんですか?」
「去年は美咲様に華様、凛様、一華様、影輝だね。影輝様は去年で卒業したし、他の四方も今年で卒業だね。」
なるほどぉ……つまり俺がそこに入れる可能性もある訳か。
ていうか美咲さん代表生なんだ。さっき勝てたしワンチャンあるか?
そんな事を考えていたせいだろうか。美咲さんが釘を指してくる。
「正悟。貴様なら今年でもありうるかもしれん。だがな、それにかまけて気を抜くなよ?」
「お?美咲がそんな事言うなんて、随分正悟を気に入ったんだな?」
「うるさい!非公式戦とは言え私に勝った奴に腑抜けた事をされては敵わんからな。」
「ふっ。まあそう言う事にしておこうか。」
「周!?貴様!」
「まぁまぁ、良いじゃないか。」
「覚えてろよ!?」
そう言って美咲さんは自分の鍛錬に戻って行った。
「あたし達もやるか!」
「はい!お願いします!」
俺達の試合の審判などすっかり頭から抜けているようだった。
そうして周さんとの試合をした。美咲さん程の激闘とはならなかったけどそれでも経験の高さを感じさせられた。
その日の最後に桜さんが言う。
「では美咲、周、正悟。三人でかかってきてください。成長を楽しみにしています。」
やはりこの時がきたか。
「よろしくお願いします。」
三人とも一斉にハモる。
「宙、審判をお願いします。」
「わ、分かりました。」
「……勝負、はじめ!」
「大和流炎刀術 一の技 雷火!」
まずは美咲さんが仕掛ける。
ガキィン!!と音が鳴って数瞬の間鍔迫り合いとなった。
その隙に周さんが技を出す。
「大和流炎刀術 三の技 流星火・狂焔」
背後から迫って攻撃をしているが、まるで見えているかのように僅かの動きで躱されてしまう。
まぁ普通は見えていてもそんな芸当は出来ないだろうが。
「大和流風刀術 一の技 疾風」
俺は桜さんがちょうど避けた所を狙って技を仕掛ける。
例に漏れず、簡単に躱されてしまうが気にせず更に攻撃を繰り出す。
「大和流雷刀術 四の技 雷樹」
この技は下から上へとつき上がる技で、まるで雷の大樹が生えているように見える技だ。
その他にも影響があり、今大事なのは一瞬かなり強い光が輝く事だ。
これによって視界を奪う事が出来る。
これは美咲さんや周さんと一緒に考えた連携技の始まりだ。
名付けて、”雷ピカピカ作戦”だ。ちなみにこれは美咲さんが名付けた。
だから俺にダサいとか言わないで欲しい。
「よくやった!」
「大和流炎刀術 四の技 火災旋風!」
「大和流炎刀術 三の技 流星火・狂焔!」
炎の檻が桜さんの周りを覆い、美咲さんの火災旋風が襲う。
普通ならこれで終わるだろう。だが、視界を奪っているはずなのにその全てを受け流している。
これも予測済みだ。
「大和流水刀術 一の技 環流・飛瀑」
滝のような重みを持った一撃だ。この技で桜さんの重心を崩す。
上段からの一撃を桜さんが受け止めた所を吹き飛ばすようなイメージだったため、斬った瞬間のあまりの手応えのなさにすぐに反応することが出来なかった。
逆に俺が重心を崩してしまった。
「おわっ!?」
「隙だらけですよ。」
やばいっ!!と思ったその瞬間体が勝手に動く。
とっさに横に飛ぶことで攻撃避けた。
桜さんが少し驚いている。俺も驚いている。何故こんな動きができたのかは謎だが、この幸運を無駄にしないようにしたい。
「今のが通じないとはさすがお姉様だな。」
「そんなこと言ってないで何とかしないと。」
「そうだな。正悟!威力マシマシ作戦だ!行くぞ!」
「はい!」
相変わらず酷いネーミングだが、その威力は名前の通り高いので安心を。
「大和流炎刀術 四の技 火災旋風」
「大和流水刀術 三の技 渦巻・激流」
美咲さんの火災旋風の威力を巻きとる事で威力を底上げする。
個人的にもかなりの高威力になったと思ったがそれも全て受け流されてしまっている。
「ちっ!どうする!?」
ここで思ったが、ただ単に高威力なだけでは意味がない気がする。
受け流されてしまうから受け流せない状況を作らねばならない。
「俺が抑えます!ここだ、というタイミングで合わせてください!」
「無茶いうな!?」
「最初やらされました!」
「ちっ!分かったよ!」
「こんな時まで漫才しないでよ…」
「大和流水刀術 二の技 貫流・奔湍」
一本の川が鋭く貫くような刺突技だ。この技に致死性はないが、受け流すことは難しいため横にズレるはずだ。
攻撃をすると案の定横に避けたので追撃をかける。
「大和流雷刀術 二の技 地雷」
圧倒的な強い踏み込みの為とんでもなく威力が高い。
踏み込むと雷が地面に落ちた時のような衝撃と音が鳴り響く。
だがこれも受け流されてしまう。
「大和流風刀術 三の技 裂葉風・神風」
かなり鋭い技だ。だから受け流される事はないだろう。
案の定受け流さずに受け止めてきた。
しかしそれだけでは終わらなかった。なんとカウンターが飛んできたのだ。
慌てて受ける。
「!?」
その瞬間とんでもない衝撃で、後ろに吹き飛ばされる。
「技に頼りすぎです。そんな事では強くなれませんよ?」
普通なら有り得ないと一笑するところだろう。だが今の瞬間それを否定されてしまった。
桜さんは技を使わずに俺をここまで吹き飛ばした。更には技を使わずに技を受け流している。
何故なのだろうか?普通なら逆の立場のはずなのに有り得ない。
「大和流風刀術 五の技 天風・深山颪」
桜さんを上に斬り上げて空まで吹き飛ばし、下へと斬撃の嵐を浴びせる。
風刀術最強の技だ。
……そのはずだった。
次の瞬間桜さんが目の前にいた。
「大和流炎刀術 一の技 雷火」
ボコっ!!と殴られる。
俺はその一撃で気絶してしまった。
桜が着地すると同時に美咲と周が二方向仕掛ける。
「大和流炎刀術 一の技 雷火」
「大和流炎刀術 一の技 雷火」
桜に二人が迫る。
「大和流炎刀術 四の技 火災旋風」
しかしその桜の一撃によって二人とも木刀を当てられた。
次の瞬間に立っていたのはただ一人、桜だけであった。
全員が気絶してしまっていた。
「そ、そこまで!勝者、桜様!」
「三人の手当てをしてあげてください。アドバイスはそうですね。………技に頼りすぎです。とだけ伝えて置いてください。」
「わ、分かりました!」
その後三人とも手当て室に運び込まれる。
目覚めるとそこは見知らぬ天井………ということはなく見知った天井だ。
すぐに手当て室だとわかった。
「起きた〜?」
「起きました。」
「遅かったね〜。他の二人はもう目覚めて自室に戻ったよ。」
「あ、そうなんですか。」
どうやら目覚めるのがかなり遅かったらしい。
「寝てる時に回復魔法かけておいたからもう自室に戻りな〜。」
「ありがとうございます。」
「い〜え〜。」
そうして手当て室から戻った俺はそのまま寝てしまった。
先程まで寝ていたはずなのにすぐに寝れたのは疲れが溜まっていたからなのだろうか。
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