第20話
現在俺は周さんについて行って手当て室に向かっている。
「あんたは随分強いんだね?どこかで鍛えてたの?」
「いや、特にそういった事はしてないです。」
「本当に?凄いね。あたしなんかもう何年も鍛錬積んでるけどこんなに弱いんだよね。悲しいよ。」
いきなりそう言う事を言われて、なんと言えば良いか分からない。
「い、いえいえ!そんな事ないですよ!」
「はは。君は優しいんだね。」
そこで俺が返事をしようとした時だ。突如誰かの悲鳴が聞こえた。
「きゃああああ!!!」
一瞬沈黙が続く。
「これは………?ちょっと様子を見に行こうか!」
先程まで笑顔だった周さんの顔が一気に険しくなる。
「はい!」
俺と周さんは急いで声が聞こえた方まで走る。
「や、やめてください!」
「どいつもこいつもうるさいわね!黙ってわたくしに従いなさいよ!」
「きゃああ! !」
そこで見えた光景に俺は驚く。なんと麗奈がいたのだ。しかも一之瀬に髪を引っ張られている。
「一之瀬!何をしている!その手をはなせ!」
「あら。これは周さんではありませんの。……ん?どうやら平民も一緒のようですわね。」
俺は混乱する。まずここに麗奈が居る意味が分からない。それにどうして一之瀬に髪を引っ張られているのかも分からない。
「これは一体………?」
「正悟!た、助けて!私何もしてない!」
「……何があったの?」
「私は正悟に会いに来ただけ!そしたらこの人が話しかけてきてこうなってる!」
「あら?平民で資格もない癖にここに来ておいて酷い言い草ですわ。殺されなかっただけ感謝なさい。」
あー、なるほどなー。何となく分かったわ。また理不尽な事をやっている感じか。
「すみれ!それまでにしておきな!それ以上は許されないよ!」
周さんが一之瀬を止めにかかってくれている。
そんな周さんを見て、一之瀬は笑う。
「それで?止まらなかったらなんですの?わたくしを止めようとでも思っていらして?わたくしに勝てないのに?」
図星を突かれてしまった周さんが悔しそうに、一之瀬を睨みつけている。
「…………っ!!」
周さんでも止められなさそうだ。てか周さんて六年だよな?なんで一之瀬の方が偉そうなんだ?
実力主義だからか?
「一之瀬様、どうかその手をお放し下さい。麗奈も悪気はないと思います。」
どうにかやめて貰えるように説得する。それでも、意味はなさそうだけど……
「わたくしに意見しますの?悪気があるとかないとか関係ありませんわ。資格の無い者がここに来たのが罪なだけですわ。」
……やはりか。まずいな。口では止められそうにない。
でも手を出したとなるとまずいよなぁ。俺ならば一之瀬に勝てる。
でも、相手は武家だ。俺がこの後どうなるのか分からない。どうしよう。打つ手がない。
と、そこで救いの手が差し伸べられた。
「お前達!何をしている!」
美咲さんがこの場に現れてくれた。
「これは美咲様。ここにきた不届き者を始末しようとしていた所ですわ。」
「そんな事しなくて良い!さっさとこの場から離れろ!」
「美咲様がそう仰るのなら構いませんわ。良かったわね、平民。命が助かって。それでは失礼致しますわ。」
そう言うと、大人しく一之瀬は去って行った。
「……大丈夫か?全く。やつはどうしてああも性格が悪いんだ………。」
美咲さんは頭を抱えている。
「はい…………。大丈夫です……。ありがとうございます。」
麗奈も彼女の洗礼を浴びたようだ。俺も最初にやられた時は死ぬほどテンション下がったからな。
「麗奈、大丈夫か?ごめん。助けられなくて。」
「……ちょっとびっくりしただけで大丈夫だよ。だから、気にしないで。」
あぁ、優しいなぁ。どうして優しい人が嫌な思いをしなければいけなんだろう……
「ま、まぁとりあえず正悟と周は手当て室に行ってこい。この子は私が引き受ける。」
「分かりました。ありがとうございます。」
「なに、気にするな。」
美咲さんが見てくれるのなら安心だと思い、俺たちは手当て室に向かう。
あまりの衝撃に忘れていたが、俺は今体中が痛い。
だが、道中では特に何もなく進む事が出来たので良かった。
これ以上の面倒事は勘弁だ。
「アメリーナさーん!怪我人を連れて来ましたよー!」
「どうぞ〜。」
「失礼します。……!?」
俺は入ると同時にかなり驚いた。
この世界に来て初めての人間以外の種族であるエルフだったのだ。
確か、この世界だとエルフとかドワーフとかは奴隷としてかなり虐げられていると聞いている。
特にこの国以外は酷いとも。だからそう簡単にお目にかかれないと思ってた。
お目にかかっても奴隷として扱われているのかと思っていた。
「やっぱり驚いてるね。見るにしても奴隷以外だと初めてだしょ?」
「はい。」
まぁハッキリ言って奴隷も見た事ないけど。
「あなたが今日怪我した人?こっちにおいで。」
俺はアメリーナさん?の方へ向かう。
「じゃあ回復魔法をかけますね〜。」
魔法!?ただ手当とかじゃないんだ!?流石異世界!
「ミドル・キュア」
彼女がそう唱えた瞬間不思議な感覚に身を包まれた。
その時、体中の痛みが瞬時に引いていく感じがした。
なるほど。こんな芸当ができるならこれだけ好き勝手ボコボコに出来るわけだ。納得である。
「凄いな……。痛みが完全に引いた。」
「当たり前だよ。アメリーナさんは凄い魔法士だからね。普通の人じゃこうもいかないさ。」
なるほど。恐らく、種族的な補正とかそう言うのがありそうだな。
日本でもエルフは魔法に長けているとされていたから。
「はい終わり!じゃあ戻ってね〜。」
「ありがとうございました!」
「いえいえ〜!」
少ししか話してないけど、かなり明るい性格のように見受けられた。
手当て室を出た俺は麗奈が気がかりなので直ぐに向かう。
しばらく向かうと美咲さんと一緒に居た。
「麗奈!」
「正悟!」
俺達は抱き合う。
「大丈夫だったか!?」
「うん!」
「良かった。それにしてもどうしてここに来たんだ?」
「正悟に会いたくて来たの。三年後に必ず学院に入学するって約束したから。」
「あぁ!あの時のか!本当に来るなんて思ってなかったよ。」
「酷い!本気だもん!」
「ははっ!君たちは本当に仲が良いようだな。」
「えぇ、まぁはい。」
「同郷か?」
「はい。」
「やはりか。まぁなんだ。二人で積もる話もあるだろう。私たちは席を外すからな。」
「ありがとうございます。」
そう言ったあと美咲さんと周さんは別の場所に行ってしまった。
どうやら気を使われたらしい。
少しの間だけ沈黙が走る。当たり前だろう。こんな事があれば気まずくもなる。
「今日は来てくれてありがとうな、麗奈。」
「全然!正悟に会いたかったから!」
「あれ?でも今って訓練中じゃなかったっけ?」
「あのトレーニングならもう終わったから抜け出してきたの!」
「!?あのトレーニング出来たの!?」
俺の代の時は女子は一人も来なかったぞ!?
「ずっと準備してきたからね!私も三年間じゃなくてちゃんと六年間やりたいから!」
そんな事を思っても、実行するのは中々大変だと思うんだけどな……
「そ、そうなのか……。しかし凄いな。他にいたの?」
「私のクラスだといなかったよ。」
やっぱりそうだよな。俺の時だって結局あの後から加入してきた人は一人もいなかった。
ましてや女子なんてって言うような感じだったのだ。
「じゃあ明日から別の場所での訓練だな。頑張れよ!」
「そうなの?分かった!もちろんだよ!正悟だって頑張ってよね!」
「ありがとう。」
「うん、それじゃあそろそろ戻るね!」
「あぁ、じゃあな。」
「またね〜!」
そう言って麗奈は去っていった。そもそも訓練を抜け出してくるとかとんでもない所業である。
後で怒られたりしないか不安だが、まぁ了承を得て来たのだろうから気にしない事にする。
うん、それ以外有り得ないよな。有り得ない……よな?
「話は終わったのか?」
「はい。」
「楽しかったか?」
「久しぶりに話せたので楽しかったです。」
「それは良かった。」
「ふふっ。本当に楽しそうにしてたね!」
それから、また鍛錬に戻り技術を磨いた。
技の完成度を高めたり、試合をしたり。とても楽しかった。
鍛錬が終わったあとは部屋に案内される。
驚いたことに、個室だったのだ。
今までだったら有り得ないような事だ。人数がそもそも少ないからと言う理由も有るのだろうが嬉しい。
ご飯は別の場所で鍛錬している人達と一緒に全員で食べた。
そこでもう一人俺と同じようにここに来た人物が誰なのか判明した。
遥斗だった。俺はてっきり俊介だと思っていたがどうやら違ったらしい。
訳を聞いてみると、どうやら辞退したようだった。
詳しく聞いてみたけどなんで辞退したのかは謎のままだった。
そのままお風呂に入って部屋に戻ってその日は直ぐに寝た。
個室なのでゆっくりと眠る事が出来た。
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