第18話

三年生も今日で終わるというこの日。


俺は学院長室に呼び出された。


正直何かした覚えなどないのでなんの事なのか全く分からないが、この非常に怖い気持ちを分かってもらえるだろうか。


自分が何かしたのでは無いのだろうかという恐怖。自分はこれから怒られるのかな?という不安。


恐らく誰もが味わった事のある感情だろう。


それを俺はこの庶民に対する当たりが強い世界でもまた味わっているのだから失禁くらいは許されて当然だろう。


ただ、呼ばれるのに心当たりがないかと言われれば、あると答える。


三年生までに資質を認められること。その条件に関係があるのかもしれないと思っている。


ドアをノックする。


「どうぞ。」


「失礼します。」


緊張の瞬間である。下手したらここで何か言われるかもしれない。


ドアを開けて入ると、そこには榊教官とあともう一人どこかで見たような人物が真ん中に座っている。


この状況ならあの人が学院長で間違いないだろう。


「ご要件をお伺いに来ました。」


「君は正悟君で間違いないかね?」


合ってるけど……………なんのためなんだ?


今は不安と期待が混じった複雑な気持ちだ。


「間違いないです。」


声が震える。


「そうか。それは良かった。君に話したいことがあるんだ。」


な、なんだろう?マジで怖い。


「君はこの学院で四年生に上がるつもりは無いかね?」


「よ、四年生ですか?」


この学院では庶民は三年生までしかない。特例として資質を認められた者のみが四年生に上がれる。


ただし、その場合は必ず学院を卒業後には軍への入隊が義務付けられる。


つまり、そういう事だ。


「そうだ。」


「それは私が認められた、と考えても良いのですか?」


「まぁ相違ないな。」


まじか!


もちろん俺はこれを狙って入学した訳だが、まさか本当に自分がその立場に立てるとは思ってなかった。


めちゃくちゃ嬉しい!


「是非よろしくお願いします!」


「決断が早いな。今後の人生がこの国に縛られる事になるのだが、もちろん知っているのだろう?」


「はい。」


「一応聞きたい。何故その決断を下した?」


やはり聞かれるか。俺としてはあまり言いたくない。


自分には過ぎた夢であると自覚しているから、口にするのが恥ずかしいのだ。


「それは……絶対に答えなければならないものですか?」


「いや、そういう訳でもないぞ。ただ、私が知る限りでは一番早い決断だったからな。単純に気になっただけだ。」


「そうですか。」


「…………………………。」

「…………………………。」


「…………なんだ?言いたくないのか?」


「もちろん、理由はあります。ただ、私がその理由を言うのには少し、その、壁がありまして。」


「そうか。なら、まぁ良い。お前が四年生になるのを許可する。」


「ありがとうございます!」


「そうだ、あと何人か上がる事になっている。知り合いが居るといいな。」


「はい!」


「話は以上だから退出してくれて構わないよ。」


「分かりました。失礼します。」


それからすぐに部屋を退出する。


部屋の外の椅子に座って頭を整理していると、榊教官が話しかけてきた。


「これからお前の適性検査をしに行くぞ。着いてこい。」


「はい!」


すぐに立ち上がって教官について行く。


適性検査って何をするんだろう?この辺りのことは全く分からないや。


「正悟。お前は既に武家と同等かそれ以上に強い。下手しなくてもお前が歴史を変える可能性もあると思っている。」


「あ、はい!ありがとうございます。」


ん?俺今なんか褒められてる?反射的に反応してたけどなんか結構いい事言われてた気がするな。


「それだけに厳しいものにもなると思うから頑張ってくれ。」


「ありがとうございます。」


そんな会話をしていると適性検査をする場所にたどり着く。


そこはなんというか神社?っぽいような感じだ。


「ここで適性検査を行え。俺は外で待っている。終わったら結果を教えろ。」


「分かりました。」


その神社のような所に入って行くと、当然中には人が居た。


巫女のような服を着ており、かなりの美女だ。


「貴方が今日いらっしゃるという正悟様でよろしいですね。」


俺は強烈な違和感を抱く。いつもと何かが違う。だが、その違和感には考えずとも気づいた。


俺に敬語が使われているのだ。


今まで自分が使う事は多々あったが、使われる事はなかったから強烈な違和感を覚えたのだ。


「はい。」


「ではこちらへどうぞ。」


奥の部屋に案内された訳だが、そこには水晶があった。


ファンタジー的にお約束ではある。


「この水晶に触れて下さい。」


「はい。」


言われた通りに水晶に触る。そうすると色が浮かび上がってくる。


赤、青、黄、緑。


「これは!?そんな!?有り得ません!!全てに適性がある!?そんなことが!?」


おわっ!?なんかとんでもなく驚いてるな!?


「…………えっと?」


「あっ………いや、なんでもありません。どうやら水晶が壊れてしまっている可能性がありまして、交換致しますのでもう一度お願いします。」


「分かりました。」


これは!まさか!異世界転生にありがちなパターンですか!?


「では、もう一度お願いします。」


俺はまた触れる。結果はもちろん先程と変わることは無い。


「!?!?!?!?!?!?!?」


「……………大丈夫ですか?」


「あぁ、いえ、少し取り乱してしまいました。」


「そ、そうですか。それで結果の方は?」


「けっ、結果は全ての属性に適性がある事に間違いありません。」


「分かりました。ありがとうございます。」


「ず、随分冷静ですね!?」


「え?そうですか?」


「はい!おかしいですよ!?」


「そうなんですか〜。」


「そうなんですかって……。そもそもどんな人であれ必ず炎帝様、水君様、雷光様、風伯様、のいずれかにご寵愛を頂いて得意な属性となるです!


今までの歴史でも全ての神様にご寵愛を頂いている者は、それこそ勇者様を除いて他におりません!


貴方が初めてなんです!」


マジか!少ないにしても少しは居るのかと思ってた。完全に俺が初めてなのか!


………キタキタキタキタぁ!これが転生特典てやつかぁ!?


「そうなんですか。それは凄いですね。」

 

内心はテンションマックスだ。


だからか、少し素っ気ないような冷静なような変な態度になってしまった。


「分かってない!!まるで分かってない!!」


いやまぁわかってるけど。


「貴方が初めてなんですよ!?強かろうが強くなかろうがまず間違いなく歴史に名を残しますよ!?それぐらい凄い事なんですよ!?」


まぁ凄いのは分かるんだけどなぁ。俺それ以上の奇跡を体験しちゃってるからなぁ。転生っていう。


「わぁ自分にそんな才能があったとはびっくりだ!!!」


「そうです。それが普通です!」


適当こいた返事だったけど納得したらしい。


それから部屋を退出して教官の所へ向かう。


「どうだったんだ?」


「全属性に適性がありました。」


「…………………………………はっ?」


やっぱりこういう反応になるのか。さっきの巫女さんの話はあながち嘘じゃないんだろうな。


「全属性に適性がありました。」


「……………………………マジで?」


「はい。」


「………………………マジかよ。間違いとかじゃなく?」


「巫女さんが断言してました。」


「マジかよ!お前は本当にとんでもないな!最初からやばい奴とは思っていたがこれ程とは………。」


「ありがとうございます。」


なんて言えばいいか分からないからとりあえず感謝の言葉を述べる。


「分かった。じゃあそれで登録しておく。ただ全属性出来るとなるとどれを会得するんだ?」


「私はまだよく分からないので決めかねていますが、一番攻撃的な属性が良いです。」


「ふむ。だとすると炎だな。まぁ俺もお前の戦闘スタイルにも合っていると思うぞ。」


「ではそれにします。」


「分かった。全属性で炎専攻だな。よし、それで登録しておこう。」


「ありがとうございます。」


「明日からは別の場所へ移動となる。だから朝の八時に学院の門の前で待機しておけ。」


「分かりました。」


その後は部屋に戻る。今日でルームメイトともお別れなのは少し寂しい。


最初はあまりいい印象を抱かなかったけど、結局最後は仲良くなれたので良かった。


もちろん一緒に訓練していた奴らとも仲良くなった。


まぁ俊介とは仲良くなれなかったけど。


今思えば俺のルームメイト達もかなり優秀なのだ。


頭も良く運動神経も良い。


ただ少し時間が足りなかった、それだけなのだ。


「俺明日から別の場所に行く事になった。」


「それって…………そういうこと?」


「うん。」


「そっか。流石だな!応援してるぞ!頑張れよ!」


「ありがとう!」


「正悟と歴史の話が出来なくなっちゃうのか。それは悲しいな。だけど応援してる。頑張ってね!」


「うん!」


「はっはっ!そんな話ならいつでも聞いてやるよ!一の話は面白いからな!」


「確かに。それは言えてるな。」


「ありがとう。」


「お前らと同じ部屋になれて良かったよ!本当にありがとう!」


「なんだよ?いきなりお前らしくないな。」


「いや、何となくそんなことを言いたかっただけ。」


「そうか?まぁいいや。俺たちは多分お前とは別の道を行くからな。そこで名を上げてやる。それまで待ってろよ?」


「あぁ、待ってるよ。だけど、それは俺も同じ事だよ?俺だって学院で名を上げるさ。」


「楽しみにしてる。」


「そうだな。」


それから小一時間喋った後眠りに着く。明日は絶対に寝坊出来ないからな。

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