第17話
優しそうでお淑やかそうな人と会った次の日。
今日はちょうど休みの日だ。
厳しい自主トレを即座に終わらせた俺は、現在学院内を適当に歩いている。
かなり広いためか、まだ見た事のない物や場所があるから飽きない。
そんな俺の目の前に幼女が一人。
………………なんで!?
学院内にこんな子居たっけ!?
「え、えっと………?」
「何者じゃ!」
おぉ!?気が強そうだな!?
「正悟って言うんだ。君は?」
「貴様は庶民か?」
庶民…?こうやって聞いてくるって事はまさか………?
「そうですけど、もしやあなたは武家の者ですか?」
「そうじゃ!よく分かったな!頭が高いぞ!」
この子自体はそこまでだけど、親が出てきたら何されるか分かったものじゃない。
俺は言う通りに頭を下げる。
「うむうむ!良い心がけじゃ!」
とてもご機嫌な顔になったのでこの対応は正解のように思える。
「お主、気に入った!着いてこい!」
ご、強引だぁ……………
一応、今日は休みだから着いていけない事はない。
そして、ここで泣かれても困るので俺は言う通りに着いていく。
少し歩く度に振り返って俺が着いてきているのか確認している。
俺の姿を見れば満足したように頷いていた。
ちょっと可愛い。庇護欲を唆られるというか、可愛がりたくなるな。
これが妹を持つ者の気持ちなのか?
「ここを超えて外に出る!」
あんまり学院の外へ行くのは奨励されていないんだけど…………
彼女の方を見ると、じっとこちらを見ていてここで帰るのも可哀想に感じてしまった。
俺は塀を超えて外へと出る。
久しぶりに見た外の風景に少し興奮してしまった。
「こっちじゃこっち!」
俺が塀を出たのを確認した彼女が俺を誘導してくる。
幼女に逆らえない俺ってもしかして可哀想?
そこからずっと先に進んで城下町へと来た。
幼女にしては足が速い。それもビックリするくらい。
かなりの人混みの中を流れるように走っていく彼女を見失ってしまいそうだった。
何とかそんな事態は回避する事が出来たものの、かなり疲れた。
「お主、学院生のくせに軟弱じゃな〜!」
あんたが異常なんだよ、と声を大にして言いたい。
「ご、ごめんね〜。」
あぁ、こんな自分が情けないよ。
「もうちょっと先だから着いてくるのじゃ!」
おっふ。辛い。子供の体力って恐ろしい。
俺はとにかく全力で着いていく。魔力も使って。
そのうち、人里離れた所まできて、山の中へと入っていった。
本当にこんな所に入っていって大丈夫なのか?と言った感じだが、俺は着いていく事に必死で突っ込めなかった。
やがて、ある小屋の前に辿り着いた。
その小屋を指さして彼女が言う。
「これ私が作った!凄いじゃろ!」
こ、小屋を作った!?こんな小さな子が!?
も、もしかしてこの子めっちゃ凄いのでは………?
かなり立派に作られている。所々甘い所が見受けられるけど、普通に小屋と言って遜色ない。
「す、凄いですね。……秘密基地ですか?」
俺も小さい頃は秘密基地に憧れたもんだなぁ。林の中に作って怒られたっけ。懐かしいなぁ。
「そうじゃ!凄いじゃろ!」
「凄いですよ!住みたいくらい!」
「じゃろじゃろ〜!お主は分かっておるのじゃ!」
これを見せるためだけにここまで連れてきたのか………
なんて言うか、自由な子なんだな。
両親に甘く育てられたのが容易に想像出来るよ。
そんな事を考えていると、手招きをして俺を小屋の方へと誘導してきた。
「中に入っても良いのじゃ!」
中に入って欲しくて仕方がない。そんな気配を感じる。
キラキラと顔を輝かせてこちらを見てきているからだ。
「じゃあ、入ります。」
断れるわけない。
彼女が扉を開いて、中が見える。
割と想像通りだったが、これをこんな子が作ったと思うとやはり信じられない。
凄すぎる。
「凄い凄い!」
「じゃろ〜!」
その後ひとしきり褒めたあと、もう飽きたのか眠そうな顔をしていた。
「ん〜、眠いのじゃ〜!何とかするのじゃ〜!」
そ、そんな事を言われても………
どうしようかと俺が困っていると、後ろから声が聞こえてきた。
「こんな所に人がいるなんてなぁ?」
俺は振り返る。その男を見た瞬間、凄く嫌な予感がした。
何となく、良い人じゃない。そんな直感を持った。
心臓の鼓動が強まる。変な汗まで出てきた。
「お主、誰じゃ?」
「おいおいおい!そんなに警戒しないでくれよ。まぁそうだなぁ。俺の事は商人とでも思っておいてくれ。」
「何をしにここへ来たんですか?」
「そうだなぁ。ま、商品の調達とでも言っておこうか。」
なんの事だろうか?俺がそんな事を思っていると、小さい子が鋭い警告を発して来る。
「お主!正悟といったじゃろ!こやつ、人攫いじゃ!」
「お、せいかーい!よく分かったねぇ。お嬢ちゃん、賢いじゃん。」
マジかよ!?こいつ人攫いか!だから嫌な予感がしたんだ!
てか、この子優秀すぎないかい?
一瞬で見破ったやん!
【悲報、俺氏情けない】
だけど、そうと分かれば彼女を守れるのは俺しかいない。
正直自信ないけどやるしかない。
「逃げて!ここは俺が何とかするから!」
「何を言っておるのじゃ?私も戦うのじゃ!」
な!?なんて事を!?あんなに頭が良いのに!?
俺はとにかく前へ出て、彼女を庇う位置に移動する。
魔力を全身に巡らせる。
高まった身体能力のお陰もあって一瞬で間合いを詰めて、俺は自称商人の顔面を殴りつける。
ドゴッ!!っと音がなり、自称商人は少し吹っ飛んでいった。
ただ、それで気絶させる事が出来なかった。
「ってぇーな〜!おい!お前ら!」
そう言った瞬間、周りから沢山の人が出てきた。
間違いなくやつの仲間だ。
俺は前にもこんな事あったなー、なんて現実逃避をしながら軽く絶望する。
人の助けも得られそうにないし、こんな小さい子も守らないといけない。
……………は?絶望なんですけども?
あーあ、遂には剣まで持ち出してきたゃったよ。
やばい。死にたくない。どうして俺はこうも運が悪いのだろうか?
「お主は下がるのじゃ!」
いや、こんなに小さい子でも俺を助けようとしているのに俺が挫けちゃだめだな!
何とかしないと!
俺が、そう思った矢先、彼女が奴らに突っ込んで行った。
……え!?!?!?!?!?!?!?!?!?
なんで!?!?!?
何しちゃってるのー!?
俺の決意が崩れる音がする〜!!!
「ちょ、何を……!?」
俺がそう言葉が口に出た瞬間、信じられないものを目にする。
五歳、六歳くらいの子が大の大人を圧倒していた。
斬りかかってくる奴らの剣を奪ったかと思えば、綺麗な剣筋で斬っていた。
あんなに小さいのに殺す事に何も躊躇っていない。
こ、この世界の幼女恐ろしい…………
その体捌きは見事だ。まるで映画を見ているみたい。
それぐらい綺麗に纏まった映像を見てる感じがする。
あっという間に残り一人となっていた。
あれ?もしかして俺が邪魔?足でまといって俺のこと?
「何もんだお前………只者じゃねぇ。」
「私はただの庶民じゃ!」
しょ、庶民!?んなわけ絶対にない!どんな英才教育!?それともこの子のセンスなのか!?
とにかく信じられないものを見た。
人ってこんなにも驚けるんだね。なんか、放心状態だよ。
「なわけあるか。…………ちっ!あんまし頼りたくはなかったが仕方ねぇ!」
なんだ?次は何が来るんだ?
もう彼女がいれば安心だからな。16歳の俺はしっかりと幼女に助けてもおう!!
「先生!ちっとおねげぇしやす!」
せ、先生………!でたよ、出落ち確定演出が。
向こうから男が歩いてくる。
「ったく、めんどくせぇなぁ。で、どいつだ?」
「あそこの二人でさ!よろしくおねげぇしますよ!」
「あ〜?…………馬鹿野郎!おめえ!こいつ、将軍家の娘だぞ!」
「………え?」
…………え?ええええぇぇえええ!!!!
この子そんなにやべぇ地位の子だったの!?
お、俺の首が…………首が飛んじゃうよ!?
「お主、物知りなようじゃな!感心感心!」
「え、えぇそりゃどうも。おめえら!将軍家に手を出したなんてやべぇぞ!早くずらかるぞ!」
そう言ってもほとんどの者は起き上がってこない。
彼女が気絶又は殺害したからだ。
「………ちっ!人が減っちまったが仕方がねぇ!」
そう言って奴らは立ち去って行った。
彼女がこちらを見る。
ヒィッ!!
この子に俺の生殺与奪の権を握られていると思うと、笑えない………
「凄いじゃろ!私凄いじゃろ?」
「もうめちゃくちゃ凄いです!尊敬します!」
「そうじゃろうそうじゃろう!もっと褒めるが良い!」
俺は言葉の限りを尽くして褒めちぎる。
絶対に不機嫌になられてはいけない。地獄のレースみたいな状況だ。
そうして、少ししていると飽きたのか
「もう良い。戻るのじゃ!」
そう言って今度は来た道を逆戻り。
城下町とかを通りすぎて、学院に着くと、大騒ぎになっていた。
「姫様〜!!」「おい!姫様を探せ!!」「絶対に姫様を見つけ出すんだ!!」
やばいよぉ……………やばい事になってるよォ。
俺殺されかもぉ……………
「お主はここで少し待っておれ。私が行けば騒ぎも収まるじゃろ。」
お、おぉ有り難き神よ!あぁ感謝だァ!!
「ありがとうございます。」
「うむ。私も楽しかったのじゃ。またいつか会いたいのじゃ!」
そう言って彼らの前へ出て、姿を見せた。
「姫様!ご無事でしたか!」「良かったです!」「これで俺らの首が飛ばなくて済むよぉ……」
「お主ら済まなかったのじゃ。もう戻るのじゃ。」
「はい!」
それから彼女はその場を立ち去って行った。
とにかく、彼女がお姫様でとんでもなく器用で頭良くて、強くて、カッコよくて、行動力の塊って事はわかった。
完璧か?完璧超人か?それに比べて俺は………
【悲報 俺氏情けない】
最後も助けられちゃったし。
今日の事は誰にも言わない事に決めた。
万が一俺の首が飛ぶなんて事がないようにしたい。
てか、あの子がお城でなんか言ったら俺処刑されるかもしれん。
その日は疲れていたのに、ヒヤヒヤしていたせいでよく眠れなかった。
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