第15話


今日の朝の目覚めは快適だった。


昨日は有益な情報を得ることも出来たし、本当に充実した一日だった。


精神的に充実しているから、俺はリア充で間違いない。


以前より仲良くなることが出来たルームメイトと話しながら食堂へ向かう。


「結局昨日は何処まで話したんだ?俺らは寝ちゃったからな!」


少し眠そうな祐作が聞いてくる。


「そうだよ。あのまま続きそうな感じだったね。」


渉も少し眠そうだ。昨日そこまで夜更かしはしてないけど、それでも疲れは取れなかったらしい。


「んー、まぁそんなにだよね?」


「そうだね。」


実際にそこまでだったからか、俺はそこまで疲れてない。


一も語ることが好きっぽいからスッキリとした顔をしている。


語れたことがよっぽど嬉しかったんだろうか。


「それより早く朝飯食おうぜ!」


「そうだね!」


食堂へ行き、朝食を取る。


学院の朝食は美味しい。しかも量がえげつない。


これを学生全員に配っていると言うのが信じられない。


これが人類を支配しているから出来るのだと思うと、面白い。知識って大事だね。


学院の朝食は全学年が番号順に同時に食べるから、とんでもない人数になる。


考えれば考えるほど凄いと思う。


朝食を食べて英気を養ってから座学を受ける。いつもと違って眠らずに講義を受けることが出来た。


よく聞いていると講義も面白い。


と言うか、この世界の事は本当に何も知らないので聞いているだけで面白い。


今日の内容は軍の構成についてだった。


この国の軍の構成を簡単に説明すると、大和軍○○団△△隊になるらしい。○○には大和国四大守護、まぁ八雲とか橘とか四条とか宝生とかが入るらしい。△△にはその人達に仕えてる人の苗字が入るのが習わしらしい。


庶民がそこに入るのは完全に考えられていない感じだな。


ちなみに大和国四大守護とは、この国の根幹を担う四家の通称の事らしい。


端的に言うと、とりわけ位の高い人達って事だね。


その当主になるには圧倒的な実力が要されるらしく、あの時の御前試合で片方を圧倒していたのが当主の人達って事だ。


なるほど。納得である。あんなに強いのにも理由があったようだ。


昨日に続き、今日も面白い事を知ることができたので嬉しい。


その後はいつも通り算数とか国語のような授業を受ける。元々高校三年生の中でも割と頭は良かった方なのでその授業はクソみたいなものだ。


寝てても満点を取れるレベルなので話半分しか聞いていない。


講義を受けた後は昼食だ。基本的に庶民は昼を食べないけど、学院では食べる。


少し休憩した後にまた訓練が始まる。


いつもと変わらず魔力の扱い方だ。


だけど少し慣れて来た事もあって、今日は基本的な刀術の構えとか動きとかを教えて貰えるらしい。


やっと一歩を踏み出した感じがする。


「今日から刀の握り方を教える!まずは構えてみろ!」


そう言われたので構えてみる。前世で少しだけそういった知識はあるのでその構えをしてみる。


説明はするとわかりにくくなると思うのであえてしない。


「思ったよりもできているな!よし!それなら、まずは魔力を放出しながら素振りをしてみろ!」


やってみると、とんでもない衝撃が出た。素振りで衝撃が出たのだ。


相当身体能力が上がっているのだろう。次は調整する。


魔力の出力を抑えて素振りをするのだ。そうすると先程よりも衝撃が少なくなる。


昨日のトレーニングが効いているのか簡単に魔力のコントロールができた。


「お前、身体能力のみでそれだけの威力とは……。やるな。」


周りを見てみると、俺ほどの威力を出せている者はいなかったので結構いい感じなのではないだろうか。


教官からも褒められたので間違いなさそうだ。


「よし!魔力を使って試合をしてみろ!お前らならば出来そうだ。お前らは庶民としては優秀な部類に入るだろうな。」


中々いきなりだな。


でも、この力を試してみたいと言う欲求があるので割と乗り気である。


「正悟!今日は負けないからな!」


そう言って来たのは剛だ。前回戦った時にギリギリで俺が勝ったからそのリベンジをしたいと言う事だろう。


「俺だって負けないよ?」


「おう!楽しみにしてるぜ!」


「お前ら!やる気があるようで結構!じゃあ最初はお前たちがやれ!」


「分かりました!」


「はい!」


それから元々木刀を持っているので直ぐに試合が始まる。


「よし!まずは魔力を放出しろ!」


俺は自分の体の中心へ意識を向ける。そこから集中して魔力を全身に巡らせる。


明らかに身体能力が向上し、気分の高まりを感じ、今ならなんでもできる、と言うような高揚感が込み上げてくる。


そうこうしている内に剛も準備ができたらしい。しっかりと構えている。


俺もそれにならい、構える。


「勝負、はじめ!」


開始と同時に剛が仕掛けてくる。その動きは以前とは比べ物にならない程に早い。


これが魔力の力なのかと驚かされる。


ただ、ずっと驚いている訳にもいかないので、彼の上段からの一撃を受ける事にする。


今なら出来そうな気がする、そういう直感が芽生えたのだ。


剛の上段からの一撃が体にのしかかる。


以前ならばまず吹き飛ばされていたであろうその一撃を簡単に受ける事ができた。


地面まで衝撃が伝わる程の強大な威力をもろともしなくなった。これには自分が一番驚いている。


剛も驚きの表情を思い浮かべて、その場で硬直してしまっている。


当たり前だろう。普通に考えてあれだけの一撃を受け止めるなど有り得ない。


まだ魔力を使った戦いに慣れていないが故の驚きなのだろうな。


俺は反射的に体がうごき、硬直している剛を木刀で殴った。


「そこまで!」


今回は直ぐに終わった。初めての魔力を使った戦いという事で、今までの常識が通用しなかったための結果だ。


「クソっ!正悟!強いな!まさか受け止められるとはおもってなかったぞ!」


剛がめちゃくちゃ悔しそうに地団駄を踏んでいる。


確かに。俺もまさか本当に受け止める事が出来るなんて思ってなかったな。


「俺も思ってなかった。」


「次は負けないからな!覚悟しておけよ!」


「わかったよ!」


「お前は随分感覚が良いようだな。良い事だ。これからも励むように。」


「分かりました。ありがとうございます。」


「ふむ。剛は、そうだな。魔力の扱いは悪くない。ただ、攻撃が単純になりやすいから注意しろ。」


「分かりました!ありがとうございます!」


俺たちの番が終わると次は卓と俊介の番だ。


俊介は俺達の中でも一番早く魔力を扱えるようになっていて、前回も俺は勝てなかった。


どうなるのかが非常に気になる。


二人が魔力を全身に巡らせる。


「勝負、はじめ!」


今度は二人とも前に出た。二人の木刀がぶつかり合う。


衝撃がこちらまで伝わってくるのが分かる。


だが、直ぐに勝負が着いた。


俊介がその攻撃の後にまた追撃をかけて卓を木刀で殴ったのだ。


まだ何も習っていないと言っても過言ではないはずなのに、それだけの動きが出来るのは凄いと思う。


「そこまで!」


辞めの合図がかかると卓は悔しそうにしているが、俊介はいつもの無愛想な顔のままでいる。


ものすごく感覚がいいのだろう。


何となくこう、で出来てしまうような感覚を持っているのだろうと思う。


「卓!どうだった?」


「強かった。あれは勝てない。」


彼からは悔しそうな気配は微塵も感じなかった。


「そっかー。やっぱりか。」


「俺も俊介とやってみたいぜ!」


「君では勝てないと思うよ。」


「わかってるさ!でもやってみたいよな。」


剛はやはりなんというか単純な性格なのだろうな。勝てなくてもいい。


とにかくやってみたい、という気持ちを大事にするタイプだな。


「よし!次は遥斗と俊介がやれ!」


「はい!」


「はい。」


二人が並び立つ。


「勝負、はじめ!」


遥斗は様子を見ている。さすがにさっきのあれを見てからでは踏み込む勇気は出ないようだ。


俊介が踏み込む。


と見せかけたフェイントをかける。それに引っかかってしまった遥斗は大きな隙を晒してしまう。


焦って後ろに下がろうとするがもう遅い。


既に俊介が間合いを詰めていて、遥斗を木刀で殴っていた。


「そこまで!」


この試合で確信する。俊介は思っていたよりも強い。


ただ強いだけじゃなくて、しっかりと戦い方を分かっている感じがする。


もしも、本当にただの素人だったのだとすればかなりの才能の持ち主であると思う。


多分、俺は勝てない。前世でそういう試合の駆け引きは苦手ではなかったが、彼はあまりにも上手い。


「俊介!何かやってた?」


「……………なにも。」


「マジで!?」


「…………………うるさいよ。ここはそういう場所じゃない。」


「あ、ごめん。」


怒られた。剛の言っていた通り、何か冷たい。彼から聞き出すのは至難の業なようだ。


「ふむ。俊介は普通に強いな。面白い。正悟と俊介でやってみろ!」


遂に来たか。前回は負けてしまったが今回は負けない。


「はい!」


「はい。」


俊介が俺の前に立つと、やはり違う。みんなとは圧迫感が違うのだ。


緊張で体が固まる。


「勝負、はじめ!」


とりあえず、ヒットアンドアウェイの形で戦おうと思う。


俺は上段から振り下ろして攻撃する。もちろん、俊介はこの攻撃でやられるはずもなく、受け流して反撃してくる。


俺はそれを見越していたので、バックステップで後ろに下がり、攻撃を流す。


その時にふと、思いつく。今は全身に巡らせている魔力を一箇所に絞って放出したらどうなるのだろう、と。


面白そうなのでやってみる。


魔力を腕に集中させる。


少し身体能力が低下している感じがするが、支障はなさそうなので無視する。


俊介が踏み込んでくる。その踏み込みは隙があまりないように感じられた。


それでもお構いなく振りかぶる。


俊介がその攻撃を受けると、吹き飛んだ。比喩表現などではなく吹き飛んだ。


軽く5mは吹き飛んでいるだろう。


俊介は少し驚きを露わにして立ち上がる。


自分でも驚いている。ただの思いつきがここまで効果があるものだとは思っていなかった。


皆も驚いている。先程までとは明らかに違う攻撃。魔力で強化されている人をそこまで吹き飛ばせるなど有り得ないと思っていたからだ。


俊介とは少し距離が空いたので少しずつ詰める。


と、そこで俊介が有り得ない速度で距離を詰めて攻撃してきた。


反射的に体が動いた俺はその攻撃を横に避ける事で躱した。


我ながらよく避けれたと思う。またまた周囲のみんなは驚いている。


しかし、今の攻撃は明らかにおかしい。早すぎる。


もしかすると俺と同じ事をしたのかもしれない。


一箇所に魔力を集中させる。これを一度受けただけで再現するとかマジモンの天才だな。


俺は魔力の比率を上半身に絞る。


少し移動が遅くなるが、反射速度、攻撃力がかなり向上するので悪くは無い選択だと思う。


これもあの時に練習した成果が生きているのかもしれない。


俊介がまたとんでもない速度で踏み込んで来る。


しかし、上半身に魔力を絞っていたためか簡単に反応することができた。


木刀同士がぶつかり合って鍔迫り合いになると、驚いた事に俺と同じ力どころか、それを上回る力で押して来たのだ。


一瞬の隙が出来てしまった。


しかし、その時の対策を考えていた俺はそれを実行する。


全力で後ろに下がるのだ。とにかく距離をとる。


なんとかその作戦が成功し、木刀で殴られずに済んだ。


ここまでの攻防でほとんど出し切ってしまった俺は何をするか悩む。


そこで、フェイントを交えたらいいと思いつくが、どうすれば引っ掛けられるかが分からない。


思い悩んだ末、やはりゴリ押しで行くことにした。


魔力を全身に巡らせる。ただ巡らせるとは言っても、少し違う。


魔力を今までとは大きく異なる量で扱うと、四肢から強烈な痛みが走る。


それを我慢して、踏み込む。


今までの限界を超えて、とてつもない速度で俊介に近づく。


それこそ反応が間に合わないレベルだ。


そのまま俊介を木刀で殴る。


どうやら、なんとか勝つことが出来たようだ。


「そ、そこまで!」


勝負が終わると剛と遥斗が近づいてくる。


「やったなぁ!」


「おいおいおい!今のはなんだよ!?すごいな!」


「ありがとう!」


自分でも嬉しい。あれだけの動きが出来るようになったという達成感が気持ちいい。


「お、お前ら………既に武家の奴らと同等の…………いや、なんでもない。」


その先を教官が言うことはなかったけど、何となくわかった。


俊介はいつも通りポーカーフェイスを決め込んでいた。


しかし、話しかけに行きずらい。その雰囲気はいつもと違って強烈だ。


私、不機嫌です。オーラがとてつもない。


ここでアドレナリンが切れて来たからなのか、突然激しい痛みが全身を襲う。


「!?いたい!?痛い痛いいたい!」


「?どうした!?大丈夫か!?」


「魔力孔が急激に強くなるとそうなる。だから部屋で寝かせておいてやれ。」


教官のその言葉を最後に俺は意識を失った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る