第14話


今日は学園に入学してから初めての休日だ。


二日目には魔力の扱い方とかを教えて貰ったり、刀術の稽古をしたりするようになったためか疲労がかなり酷い。


なので、今日はゆっくり寝ようかと思っていたのにルームメイト達が一緒にトレーニングしようと誘って来たのだ。


正直行きたくない。でもここで断るのもなんだか気が引けるので了承したのだ。


俺達のような庶民は遊びに行くお金もないので、休日は寝るかトレーニングか、のどちらからしい。


一に祐作に渉。彼らは非常に気のいい奴らだ。


ただ、俺は二日目からは完全にきり離れた場所で訓練している為、少し彼らのノリについていけない節がある。


訓練が終わるとものすごい疲労があるのですぐに寝てしまうのも原因なのだろう。


「正悟!どうやったらあんなトレーニングをクリア出来るか教えてくれよ!」


「ん〜、どうやってって言われてもなぁ。単純にトレーニングしただけなんだよな。」


「マジかよ。どんだけやったんだ?」


「一年かけて準備したかな。」


「ずるっ!一年は勝てないわ!あ、じゃあ魔法の扱い方を教えてくれよ!もう使えるんだろ?」


「いやー、すまん。教官に絶対に教えるなって言われてるんだよね。教えたら殺すって言われた。」


「あちゃー、それは仕方ないな。じゃあ普通にやるかぁ!」


そういった会話があった後に今は地獄の訓練をしている。


とは言っても教官が居るわけでは無いので気持ちは楽だ。


「いよっしゃぁ!!やるぞぉ!!」


「おー!!!」


腕立てにランニングに腹筋に背筋。


午前中は四人で一緒にトレーニングをして終わりになった。


お昼は学院で食べることが出来るので学院で食べて、また訓練場に戻ってきた。


「筋トレ以外のなんかやりたいな。」


「確かに。渉ー、なんかないんか?」


「ないね。一(はじめ)は?」


「俺もないや。」


筋トレ以外の何かか。一応空手、まぁ徒手格闘的なのを出来なくはない。


「一応、俺できるよ。」


「マジか!流石正悟だな!教えてくれ!」


驚きの顔で俺を見てくる。


みんな感心した……というような目で見てくるのでやりずらい。


「ま、まぁそんな大した事じゃないんだけど。」


こうもなんか褒められると恥ずかしい気持ちになる。本当に大した事じゃないんだよな。


大袈裟に反応されると困る。


俺は三人に前世でやっていた空手を教える。


前屈立ちや突きの仕方など、まぁ基本的な事だ。


それでもこの世界にはないものだから、随分と熱心に聞いてくれたのは嬉しかった。


知らない人からすれば、なんの話しだよ、となるのは間違いないので詳しい話は避ける。


その後はまたトレーニングだ。俺は三人にバレないようにしながら少しずつ魔力を放出していく。


やはり劇的に身体能力が上昇するのが分かる。


なので後半からは疲れをかなり抑える事が出来た。


それから夕ご飯を食べてお風呂に入った。現在は雑談中だ。


「正悟は最近すぐに寝ちゃうからなぁ。そんなに疲れるのか?」


残念、と言った感じで祐作が聞いてくる。


「肉体的には疲れないね。どっちかと言うと精神的な疲れが大きいな。魔力の扱いにめちゃくちゃ集中力を要するんだよね。」


「そうなのか。俺も早くそっちに行きたいぜ!それでこの国の役に立てるようになりたい!」


そう宣言する彼の顔は眩しいほどに輝いていた。


「そうだね。」


「絶対にすぐに追いついてみせるから待ってろよ?」


「楽しみに待ってるさ。」


「渉だって常日頃から言ってるんだぜ?」


「何を?」


「おい、やめてくれよ。恥ずかしい。」


「そうかそうか。それじゃあ仕方ない。言わない。」


「おい!めっちゃ気になるじゃんか!そんなのずるいぞ!」


まぁでも今ので大体分かっちゃったけど。


「だって渉が言うなって言うからな。」


「当たり前だろう!?恥ずかしいじゃないか!誰もがお前みたいに簡単に夢を語れると思うなよ?」


「そうだな。悪かった。そう言えば一はあんまり話さないが、目標みたいなのとかないのか?」


「俺か?俺は、そうだな。今のところは特にないな。」


「そうか。まぁ大体そんなもんだよな。」


「まぁでも、でかい男にはなりたいな。」


「それは誰だってなれるもんならなりてぇよな。」


友達との会話って楽しいよな。部活終わりの部室での雑談とか、身内ノリでの会話とか。


部活終わりのあの楽しさのために部活をやっているまであると言っても過言では無い程には好きだ。


すこしでも話始めたらキリがない。


結局遅くまで話し込んでしまって顧問の先生に早く帰れと言われたり、その後にみんなとご飯を食べに行ったり。


今となっては失われてしまった生活だった訳だが、それが当たり前の事ではないという事に今更になって気づいた。


「なぁ、正悟。だよな。」


「うん?」


やばい。なんも話聞いてなかった。


「いや、だからさ、俺ら庶民が歴史に名を残すとか絶対に無理な話だよな。」


お?いきなり話が飛んだな?


全く聞いてなかったからどうしてそうなったのかめっちゃ気になる。


「まぁそうだろうね。今まででも庶民が歴史に名を残したっていう話は聞かないからな。」


「そうだよな。大和国はいい国だけど、その反面そういう事では他国の方が名を残しやすかったり、出世しやすいって話はよく聞くよな。」


「そうだな。特に聖王国なんかは現騎士団の中でも庶民の出の者が多いって言うしな。」


そうなんか。聖王国………。厨二心をくすぐられますなぁ。


「でも、そんな中で俺らが名を残したら凄くないか?」


「それまぁそうだけどなぁ。そもそもそんな事件とか起きないからな。」


「確かに。でも、武家に仕えるとか、学院代表になるとかなら出来そうじゃないかな?」


「それが出来たら苦労しないよ。庶民の出では技を習って卒業が限界だろうさ。それでも人生の成功は約束されているようなものだし。」


この大和国は平和であるようだ。ていうか、人類全体が平和のように思える。


だからこそ英雄とかそう言った類の人物は生まれずらい。


さらに良くも悪くもこの国は伝統を重んじる風潮が強い。そこら辺も日本にそっくりだな。


まぁ庶民に厳しすぎるのは日本でも少し前の話になるけど。


「そう考えると初代大和様ってすごいよな。」


「そうだな。何百年も前に制度を作り上げてそれが現在でも使用されている。ハッキリ言って化け物だな。」


「六百年も人類で戦争がないのはマジですごいよなぁ。反対に魔族は戦争ばっかしてるって話だしな。」


や、やばい。全く話についていけない。座学の授業は完全に寝ていたから全然わかんない。


この自分だけ話についていけない時の焦燥感をわかってもらえるだろうか。


「俺たちが学院に通えるのも初代大和様のお陰だし。そもそも人類全体を支配している国に生まれたのは幸運だよなぁ。他の国での庶民の生活は厳しいものだって話はよく聞くよな。」


「正悟はどう思うよ?こんなにすごい国を作った初代大和様について。」


「す、すごいと思うよ。」


何となく話を合わせる。


「だよなぁ。なんだったかなー?人類永久平和目標?だったか?」


「それだ。あと、人類の兵器の研究又はそれに準ずる魔法類の研究を禁ずる。とかだったっけ?そのお陰で今も平和が続いてんるんだろ?」


それはすごいな。いや、本当にすごいな。


その初代大和様ってのは全く分からないけど、聞いている限りではそれこそ現代的な、それも前世の世界のような考えを持っている感じがする。


偶然なのだろうけど、結局人類が争いの先に辿り着くのは同じような未来らしい。


「エルフとかドワーフとか獣人は悔しいだろうな。」


「なんで?」


「え?それは人類に敵対した事だろ。人魔大戦で魔族側の味方をしたから今では奴隷として扱われてるじゃんか。」


「そうなの!?」


あの有名な種族はこの世界では奴隷になっているのか……。


「え!?お前、本当になんも知らないんだな。この国じゃ禁止されてるけど、他国だと普通だぜ?」


「マジかよ。」


「マジだよ。酷いもんだって話はよく聞くよ。その三大種族は魔族からも見放されてるから。」


「そうだったのか。」


「お前、期末大丈夫なのかよ?いくら比率が低いとはいえ、それだとまずいんじゃないのか?」


「なんとかなるさ。」


「お前………。」


どうしよう。さすがに進級出来ないとかってことにはならないよな?


怖くなってきた。


「しょうがないな!俺たちが教えてやるよ!」


「え?本当に?ありがたい!」


救いの手だ。これで知識を蓄えればなんとかなるかもしれない。


一が聞いてくる。


「じゃあ、魔族ってのが何か分かる?」


座学で言っていた事を頭の中から絞り出す。


「えっと、、………人類以外?」


「んー、まぁ間違ってはないね。正確には人類以外の知的生命体の事を言うんだ。意思疎通出来ない奴らは魔物って言われてる。」


「なるほど!そうなんか!」


「そうだよ。後は、そうだね。何故冒険者が居なくなったのかとか分かる?」


「………わかんない。」


「えっとね、これも何百年も昔の話なんだ。初代大和様が魔族の脅威を払った後に人類の土地に存在する魔物や魔族を殺し尽くしたんだ。


しかも、その時に未知の土地などはなくなったから、冒険者って言う職業はなくなったんだよ。


現在ではダンジョンと呼ばれる迷宮を探索する者としての探索者が冒険者の変わりだね。」


「よく知ってるね。」


「まぁ昔からこういう話が好きなんだ。だから皆より少しだけ知ってる。」


「俺達も一のお陰で頭良くなったんだ!な、渉!」


「そうだね。一は頭が良いから助かってるよ。」


「皆、そんなに褒められると照れちゃうよ。」


「凄いんだな。一は。じゃあ少し気になったんだけど、いい?」


「いいよ!なんでもきいて!」


「そもそも、初代大和様って始まりはなんなの?」


「んー、それは難しいね。よく分かってないらしいよ。」


「そうなんだ。分かってないのか。」


「うん。そもそも昔の方が技術力に優れていた可能性もあるらしいからね。」


「なんで?」


「そうじゃないと魔族に勝てた説明が出来ないんだよ。」


「なるほど…………魔族ってそんなに強いの?」


「昔は魔族の方が魔法を使えたから強かったみたいだね。今は人類の方が強いけど。」


「なるほどね。」


と、会話をしていたら眠くなってきた。ふと、祐作や渉を見てみると、熟睡している。


起きているのは俺と一だけだ。


「ごめん。眠くなっちゃった。」


「分かったよ。またいつでも聞いてね。」


「うん。ありがとう。」


前世でも歴史の話が好きだった俺はこの話がとても面白いと思った。


だから、時間がある度に聞きたいと思う。


そんな事を考えていると、今日の一日は非常に疲れたためかいつもよりも早く寝付くとことが出来た。

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