第12話


あの意味がわからんぐらいのキツいトレーニングをさせられた翌日の今日。


えぇ、筋肉痛でございます。体中が痛いです。


朝ごはんを食べている時も、午前中の授業を受けている時も痛みを感じ、今日の生活は涙なしには語れません。


訓練場には一足早く来ましたが、昨日と違って自主トレーニングをしている人は誰一人としていませんでしたね。


そこで暇な時間を潰す為にルームメイト達と喋っていると、教官が来た。


「全員集合!」


今まで喋っていた人たちも会話をやめてすぐに集合する。昨日のようになるのは御免こうむるからだ。


「ふむ。よろしい。」


良かった。今日はやらされないらしい。


「今日は昨日と同じトレーニングをする!」


…………………えっ?俺の聞き間違いかな?そんな、まさか昨日と同じなんて有り得ないよな…………。


「貴様らこれぐらい早くできるようになれよ!」


………………。昨日出来たけどなぁ。やらされるのか?


「正悟!貴様は今日から別の場所で訓練を始める!着いてこい!」


マジか!よっしゃ!遂にか?遂に刀か?


「………………返事がないようだが?」

 

「はい!申し訳ありません!」

 

「…………ついてこい。」


良かった。あぶねぇ。地獄を見る所だったぜ。


近くに居た祐作が話しかけて来た。


「お前、凄いな!俺も負けてらんねぇ!」


そう言うと筋肉痛であろう事は確かなのに、凄い勢いでトレーニングを始めていた。


それに習ったのか、皆がトレーニングを始める。


俺は少し嬉しい気持ちになりながらワクワク感を抑えて教官の後をついて行く。


そうして辿り着いた場所は先程の訓練場とはそう大きく変わった感じでは無い。


しかし、その絶対的な人数は少ない事は確かだ。


さらにもうひとつ。備品に刀がある。


俺はそっちの方に意識が行きそうになるのをぐっと堪えて教官の話を聞く。


「昨日の訓練をクリア出来た者のみが次のステップへと進む事が出来る。それがここだ。」


なるほど。昨日の訓練はそう言う意図も兼ねてさせていたのか。


ちゃんとそう言う基準があるらしい。思っていたよりもしっかりとした制度だ。ただ虐めたいだけなのかと思ってた。


そこには俺を含めて五人の生徒が居た。あのトレーニングをクリア出来た者が俺以外に四人も居るらしい。


そこに見覚えのある顔をした人物が一人いた。


……………え!?遥斗じゃん!?なんで遥斗がいるの!?


俺はビックリして遥斗の顔を凝視してしまった。


遥斗もこちらを見ている。


もちろんどちらも気づいている訳だが勝手に行動することも出来ないので堪える。


しかし、あのトレーニングをクリア出来る者が四人もいるとは…………この世界は末恐ろしすぎである。


そこからは簡単な自己紹介かと思ったがそんな事をするような場所では無いらしい。


すぐに訓練が始まった。


新しい教官が俺達についた。


その教官は俺達に一定の敬意を表してくれた。


とは言っても前よりはマシと言う程度だが。


「お前達に刀術と魔力の扱いを教える教官となった榊 真太郎だ。わずか一日でここにこれたお前らにはいくら平民とは言えど敬意を示そう。」


なんだろう。やっと人間として扱われるような感じがして目から汗が…………。


「とりあえずお前らの資質を図る。それぞれ木刀を持って集まれ。」


俺は先程見かけた所まで行き、木刀を手に取る。


この高揚感は計り知れない。


なんて言うか、修学旅行で木刀を手に取って買う、とかそんなちゃちなものでは無い。


これから自分はあんな風になるんだ、と言うあの時決意した思いが蘇る。


やっと自分も一歩近づいたような、そんな気持ちだ。


「試合しろ。」


唐突にそんな事を言われる。


もちろん俺は剣術とかを習ったことは無い。


何となくこうかな?と言う感じは自分の中で作ってあるけど、最初から試合をさせられるとは思っていなかった。


俺は最初にさせられた。


「剛ってんだ!よろしくな!」


筋骨隆々とした長身の男だ。顔つきも相まってめちゃくちゃ怖い。


力だけでねじ伏せられそうである。俺も筋肉はある方だが、この剛には敵いそうにない。


「正悟だ。よろしく。」


精一杯の強がりで言葉を発する。


「じゃあいいな?」


俺達は同時に頷く。


「勝負、始め!」


そんな掛け声を御前試合で聞いたのを思い出し、少し興奮する。


勝負が始まると同時に仕掛けたのは剛の方だ。


防御を何も考えていないような大振りの攻撃。はっきりいってセンスはないように見受けれる。


それでも俺は反撃には転じられない。俺は背が低い方ではなく、逆に大きい方であるが、彼は俺を大きく上回る。


単純にやりづらいのだ。筋骨隆々とした長身の男が木刀を振り回している。これでやりやすい訳がない。


上段からの一撃を木刀で受ける。


ドシッとした重みだ。


「重っ………!」


二度目を受けられそうにないと判断した俺は下がる。


幸いな事に前世で空手をしていたのでカウンターの感覚が分かる。


自分から攻めたら不味い気がするのでカウンターに絞ることにした。


近づこうとすると攻撃してくるのでかなりやりやすい。


その攻撃パターンを利用して俺は一気に踏み込む。


そうすると剛が上段から攻撃してくるので、その攻撃をサイドステップで避けてから彼を木刀で斬った。


というか殴った。


「そこまで!」


勝者の名を上げられることは無かったが、まぁ俺が勝ったことに違いはないので素直に嬉しい。


俺が木刀で殴った彼はと言うと、全く痛がりもせずに悔しそうにしていた。


「いやー!あの反撃は凄かったなぁ!今度教えてくれよ!」

 

「あぁ、ありがとう。もちろんだよ!」


非常に素直で好感が持てる性格だ。仲良くやっていけそうである。


二回目は遥斗ともう一人誰かわからない人の試合だ。


「遥斗だ。よろしくな。」

 

「卓。」


卓(すぐる)という名前らしい。かなり落ち着いた雰囲気を漂わせている男だ。


「勝負、始め!」


二人の勝負が始まる。


まず最初に飛び掛ったのは遥斗の方だ。対して卓の方は距離を取る。


雰囲気だけでなく、性格もあまりガツガツ行くタイプでは無いように思える。


遥斗の方はやりずらそうにしている。


体格はそう大きく変わっている訳では無いから、単純に距離の詰め方に戸惑っているのだろう。


まるで人間関係みたいだね。


その内に適当に攻撃してしまった遥斗は隙を付かれて卓に破れてしまった。


「そこまで!」


遥斗の方は随分悔しそうにしていたが、卓はあんまり感情の起伏が見られない。


「そこのお前!正悟と言ったか?最後はお前がやれ!」


「はい!」


なんか自分だけ二回目とかやらされると期待されてる感があってちょっと嬉しい。


「俊介だ。」


俺は先程自分の名前を言ったから名乗らない。


「勝負、始め!」


俺は先程とは打って変わって攻勢にでる。体格が俺の方が少し大きく、攻めやすい。


上段への一撃を放つと彼は木刀で受け止めた。


その後すぐに俊作が攻勢に出て来た。恐らくこのタイミングを狙っていたのだろう。


なんとか反射神経のみで躱す。技術もクソもないのでこればっかりは自分の能力に頼りきりになる。


完全にペースを奪われてしまったため、なんとかリセットするために彼を力技で殴る。


彼が少し怯んだので距離を取ることに成功した。


やはり最初にステップアップするだけあって、皆運動神経がいいから素人にしては戦いらしい戦いになる。


ここでフェイントを掛けたいと思う。


少しずつ距離を詰めて攻撃すると見せかけてしない、と言うフェイントだ。


そしてそのフェイントをした瞬間に合わせて上段からの一撃を貰ってしまった。


素人がやると単純にただの隙だったらしい。めちゃくちゃ痛い。泣きそう。


「そこまで!」


負けてしまった。なんて言うか、勝手に自分に期待して自分に裏切られたような、そんな気分だ。


なかなか最低な気分である。


「なるほどな。大体は分かった。とりあえず次は魔力の扱い方を教える。」


遂に来た!異世界の大本命!魔力ですよ!楽しみで仕方がない!

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