第11話
次の日は学院での最初の授業だ。
武家と庶民が一緒の過程なわけがなく、武家は一日中刀術の稽古をしている。
これは学院で習うものの全てを小さい頃から先取りで身につけいているかららしい。
こういう所でも武家と庶民の差が現れている。
自分の教室がどこにあるのか分からずルームメイト達と右往左往していたが、何とか見つけることに成功したので俺は今授業を受けているところだ。
教科的には算数、国語、社会みたいな感じだな。
現代人の俺からすると、社会以外の科目はクソみたいなものだ。
本当に小学生がやるような内容だから退屈すぎる。
社会はこの世界のことが全く分からない俺にとっては有難い。
午前中は座学で、午後は刀術の稽古。
さながら私立の強豪校のスポーツ科みたいな感じである。
しかし、これをタダで受ける事が出来るとは………。
この大和国がどれだけお金があるのか計り知れたものでは無いな。前世では有り得ない事だ。
授業の形式はまるで大学。
250人が入れる教室で一番前の中央に先生が立って行っている。
内装も大学のようなもので、この世界というか、この国には所々に前世の世界観が入って来ている。
算数と国語の授業が終わり、社会の授業に入る。
この間にほとんどの生徒は寝ていた。
それだけ興味がないのだろう。
これをタダで受けることが出来るという意味を全く分かっていないようだ。
「今日は最初だからな。まずは基本的な事からだ。苗字があるのと無いの、その意味は分かるだろう?
……………本当に分かっているかどうか不安ではあるが、まぁ端的に言うと身分の差というやつだな。
えー、この国は約620年前に初代大和様が建国なされて以来、続く伝統ある国だ。650年前の人魔大戦で人類の将来を憂いた初代大和様とその大奥様が興したのがこの国だ。
それから人類を瞬く間に統一し、現在の形へと繋がっている訳だ。
貴様らがそんな国の為に働けるように教育するのがこの学院の役目でもあるのだがな。全く話を聞いていない者もいるようだが。まぁいい。」
と、その時予鈴が鳴った。本当に現代に似ている所があるな。懐かしい音だ。
現在は11時。朝の6時に叩き起され、朝食を取った後に8時から授業が開始される。一つの授業が50分で休みが10分。割とありがちな時間割だ。
予鈴が鳴ったので俺は一度部屋に戻る。その部屋で少しルームメイトと会話する。
「正悟はなんで学院に来たんだよ?ちなみに俺はこの国の役に立ちたいからだ!」
そう言って聞いてきたのは祐作だ。
正直言いたくない。「剣聖に憧れたから」なんて言ったらバカにされそうだからだ。
「そういうそっちのお2人はなんでここに来たんだよ?」
「俺達も祐作と同じだよな!」
「おう!この国に使えて活躍してやるぜ!」
なるほどなぁ。やっぱりそういう人が多いのか。この国の役に立ちたいとか。
あの一之瀬と出会ってから、そんなことするのはごめん被るって感じだ。
「で、どうなんだよ?やっぱりお前もこの国のためか?」
「え?あぁ、まぁそんな感じかな。」
嘘をついているためか、少し詰まる。
「やっぱりかー。そうだよな!一緒に頑張ろうぜ!」
それを素直に信じてくれた。
「そうだね。」
心が痛てぇ………。この国の為に成りたいとかそんな高尚な目標はないんだよなぁ………。完全に自分の目標のためだ。
「そろそろ時間だから飯食いに行こうぜ!」
「分かった。」
その後は4人で一緒にご飯を食べたが、少し気まずさもあったため美味しい筈なのに味が数段落ちている感じがした。
最初は仲良くなれそうと思ったけど、そうでもなさそう?な気がした。
刀術の稽古の開始は1時半。それまで各自で好きにしている訳なのだが、俺は何も持ってきていないためすることがない。
俺が勝手に思ってるだけだけど、ルームメイトと話すのもなんか気まずい。
そういう訳で俺は一足先に訓練場に足を踏み入れた。
俺と同じ気持ちの人が多いのか、単に意識が高い人が多いのか。訓練場には沢山の人が居た。
筋トレをしている人やランニングをしている人。素振りをしている人は見受けられない。
あれ?そう言えばまだ刀とか貰ってないな。皆も持ってないし、まだ配られていないのだろうか?
少し気になるが、ここまで来たら体が動きたくてうずうずしているので真之介と一緒にやったトレーニングをする。
まずは走り込みだ。とにかく全力で走る。大体500mを本気で走り、少し休憩。それを10回。最初は2回でギブだったがすぐに出来るようになった。
次のトレーニングに移ろうとした時だった。そう言えば人が増えてきたな、というタイミングで教官が現れた。
「静粛に!これから大事は話をする!よく聞くように!」
なんかデジャブを感じる話し方だな。
「今日から貴様らの教官を務めることになったのが私だ!貴様らに名乗る名などないから、私を呼ぶ時は教官とでも呼ぶように!」
やっぱりこういう感じだよなぁ。どこに行っても変わらないらしい。
「どんなクズどもが来ているかと思えば意識が高い者が沢山いるようじゃないか。そんな君達に敬意を表して、まずはランニング10kmを25分で走って来い!」
25分!?前世で言えば世界記録を遥かに上回っているぞ!?そんなん無茶だ………。
「どうした!早く行け!20kmにされたいか!?」
それは不味いと感じた俺達はとにかく全力で走る。この訓練場は一周1kmある。だから、十週分だ。
は?絶望。無理やん。でも走る。そうしないと何されるか分からないからだ。
全力で走って19分は走っただろうか。俺が一番最初に終わったのだが、他に何人かクリア出来た者がいた。
思ったよりも俺の身体能力は高かったらしい。
ギリギリ出来なかった者もいたのだが、それでもかなり凄いはずだ。前世での世界記録並。
良くよく考えたら当たり前の事なのかもしれない。この世界には魔力と言うよく分からない概念がある。
それに恐らくだが、平均身長も前世より遥かに高いだろう。
そんな世界なのだから、この記録も当たり前なのかもしれない。
…………当たり前なのか?
「ふむ。例年よりは使える者が多いようだな。」
そんな化け物が例年いるんだ…………。
「クリア出来なかった者がいる為、連帯責任で全員ランニング30km走れ!」
…………………は?いくら何でもやりすぎだろ!?体がぶっ壊れちゃうよ!?
「なんだ貴様ら?文句でもあるのか?」
やばい。これ以上は死ぬ。
「何もありません!」
何故かみんなと息があったのか、同じことを全く同じタイミングでハモった。
「そうか、ならよし!………早く行け!」
仕方ないので走ろうとすると、更に追い打ちをかけてきた。
「返事が聞こえないなぁ?プラス10kmだ!」
………………やば。40km?無理やん。
「返事ぃーーー!!!!」
「はい!!!」
これもまたハモった。全力でランニングしたため、一時間四十分で完走することが出来た。
そのためか
「貴様は見どころがある。トレーニングを積んで来たのか?」
話しかけられた。今死にそうだから勘弁して欲しい。
しかし、答えないと不味い事になりそうなので答える。
「はい。村で少し教わりました。」
「そうか。良い心掛けだ。その心を忘れぬようにな。」
感心感心と言ったような感じで頷いている。
「ありがとうございます。」
教官に認められた気がして嬉しい。村で訓練してよかった。
それから全員が走り終わるまでに二時間はかかった。
その間に終わった者からプラスでトレーニングを課せられた。
まずは筋トレ。腕立て五百回に腹筋五百回。背筋五百回に腹斜筋とか全ての筋肉を刺激するトレーニング、いや、筋トレをやらされた。
こんなの全身筋肉痛確定である。そもそも全身筋肉痛で済むのもおかしな話なのかもしれない。
感覚が狂ってきた。
真之介にやらされていた時は絶対やりすぎだろ、と思っていたがそうでもなかったらしい。
最初は百回もできなかったが、一年かけてなんとか、四百はできるようにした。
真之介に感謝である。
こんなのいきなりやらされたら多分泣いてた。
実際、周りの奴らは泣きながらトレーニングしている。キツすぎるのだ。
それから8時までやらされた。
休憩しながらなんとか終わらせたのだが、それでもギリだった。
教官には「最初からクリア出来るとは流石に思ってなかったぞ。随分しっかり準備してきたんだな。」と言われた。
俺が「はい。」と答えると、「庶民の中でも貴様のような根性のある者は嫌いではないぞ。」と言われた。
スタートは順調に出来た気がするが、間違いではなさそうだ。
もちろんほとんどの者、というか俺以外の生徒はこのクラスでは誰一人としてクリア出来なかった訳で、部屋に戻るとルームメイトから賞賛された。
さらに、他のクラスにも何人かいたという噂を聞いた。
「凄いなお前!そんなに凄いやつだなんて思ってなかったぞ!」
「あのメニューをクリアするなんて……………信じられん。」
「あれは流石に凄いな。」
そんな言葉に「ありがとう」と答えた。それからはベットに横たわる訳には行かないので椅子に座りながら4人で話した。
やはり、あの時感じたやりずらさは完全に自分のせいだったらしい。
俺が気まずくなるような話が出てこなかったので少しだけ仲良くなることが出来た。
夕食はクラス順に1、2、3、4で、お風呂は3、4、1、2だから、9時からお風呂、10時から夕食を取った。
そこでも色々な人に賞賛されたのは凄い嬉しかった。この世界の人はコミュ力高めの人が多いらしい。
今日の夕食は仲良く食べたので美味しく食べる事が出来た。やっぱりみんなで食べた方が良いね。
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