第10話

遂にこの日が来た。今日というこの日をどれだけ待ち侘びた事だろうか。


この日のために真之介のキツいトレーニングを耐えてきた。


俺が筋トレとか好きじゃなかったらとっくに心が折れてたと思う。


「正悟や。制服とか部屋割りとか刀とか、そういう大事なことは学院で説明されるからの。心配せずに行ってくるのじゃよ。元気が一番なのじゃから、きつくなったら何時でも帰ってくるのじゃよ。」


「分かった。ありがとう。村長も元気でね。」


「私も三年後には絶対に学院に行くから!それまで待っててね!」


「ははっ、ありがとう。待ってるよ。体調には気をつけるんだぞ。」


「分かってるよ!」


「正悟、学院では色々な事がたくさんあると思う。そこで沢山経験を積んでいい男になって帰ってこいよ!」


「任せてよ、父さん。絶対にいい男になるさ。」


「私から言うことはないわ。元気にしてくれればそれでいいのよ。」


「ありがとう、母さん。」


このゆかり村で特に関わりの強い人達との別れの言葉を言い終わった。


いよいよ、本当に大和学院へと近づいたと思うと、胸が高まる。


「正悟。お前は凄い。二年間だけしか行ってないが、間違いなくお前は目標を達成できると俺は思ってる。だから、応援してるぞ!」


俺はこの人だけにはあの時の事を言っている。


剣聖に憧れたこと。俺はその剣聖みたいになりたい事を。


長い間一緒にトレーニングしたためか今では親友みたいになっている。


かなり年は離れてるけど、やっぱり年齢なんて関係ないんだなって思った。


「まぁ二年間で逃げ帰るような事がないようにするさ!任せてや!立派になって帰ってくるよ!」


「お前!本当に言うようになったなぁ!がんばれよ!」


「おう!」


最近真之介と会話してると麗奈が、なんというか、怖い視線で見つめて来ることがある。めっちゃ怖い。


今もそんなに目で見られてる。彼女曰く、「私もそんな風になりたい!二人だけずるい!」との事だ。


迎えに来ている馬車に乗ると、御者が話しかけてきた。


「別れの挨拶はもう済んだのか?」


俺は自信を持って答える。


「はい!」


「そうか。」


御者からはその一言だけしか返ってこなかったが、少し微笑んでいるようにも見えた。


馬車が出発して、俺はゆかり村の人達が見えなくなるまで手を振った。


しばらくして、見えなくなった辺りで御者の人が話しかけてくる。どうやら配慮してくれたみたいだな。


「今年はここ付近ではお前しか居ないんだ。例年なら20人くらい居るんだけどな。それで全国から1000人くらいが集まる。」


…………ん?今なんて言った?1000?俺の聞き間違いか?


「1000……?」


「そう。1000人くらい。」


ケロッとした顔でとんでもない事を言ってきた。


「まじかよ!?多いにも程があるだろ!?」


「三年になって卒業するのはだいたい200〜300って言われてるけどな。」


少な!?それだけ厳しいってことか?本当に厳しいんだな。


「随分少ないな。」


「正規に武家に士官して貰える程の武士になるのはその中でも20に満たないらしいぞ。」


えっと、つまり千分の二十、パーセントで表すと2パーセントって事か?


「更に仕官してもらえるかどうかっていう関門もあるからな。厳しいなんてもんじゃないぞ。まぁ、その分高給取りになるがな。」


「本当に厳しいんですね…………。」


もしかして学院の代表に選ばれてたあの人たちってやばい人達?それを軽く倒してた当主の人ってどれだけ………?


「庶民がその武士になったことは一度もない。いや、正確には、武士として名乗る資格はあるけど仕官された事は一度もない、だな。さらに庶民がその武士になるためには三年生までに資質を認められなければならない、というものもある。」


「それは………ヤバいな。」


「やばい。だから、あんちゃんや。俺はあんたに歴史を覆して欲しいんだぜ。あんたなら出来る、そんな気がしてるんだ。」


「ははっ、ありがとう。」


「おー?信じてないな?俺が何年御者やってると思ってんだ?その中には有名になった奴も居たさ。それを当てた事だってある。そんな俺が言ってんだぞ?」


あんまりにも自信満々に言うからそうなのかも、と思わされてしまった。


「それは凄いな。自信が出てきたよ。ありがとう。」


「わかりゃいいんだよ。」


後で聞いた話だが、武士と剣士は違うらしい。武士(侍とも言う)は大和国が定める技を習得して、学院を卒業して資格を得た者を言うらしい。


剣士はそれ以外の剣を持って戦う、まぁ一般的な人達らしい。


武士は剣士とは一線を画す強さを持つらしいから、どこに行っても重宝されるようだ。


それから、大和に進んでいくが御者の人が色々話してくれたので退屈しなかった。


なんか、最近将軍の息子が魔族とされる者達への差別を緩和するための政策を打ち出したらしい。


なんでも、江戸時代で言う、穢多非人とされた身分のようなものを作ったようだ。


でも、階級が一番低いだけで、ちゃんと人権的なものはしっかり擁護されているみたいなのが凄い。


まぁ魔族がどんな存在なのか分からないからなんとも言えないけど、そう言うのは学院でしっかり教わるから安心しておけ、との事だった。


ここに来て少し気づいたのは、前に馬車に乗った時よりも全然体が大丈夫という事だ。


恐らく真之介のトレーニングが効いているのだろう。


まるで疲れない。全然体が痛くならないから絶望感を感じることも無い。


良かった。ストレスで禿げちゃう所だったよ。


話に集中できるし楽しく進む事が出来そうだ。


夜も御者と仲良くなったので沢山話せて良かった。


二人しかいないから気まずいとかもなく、焚き火を囲いながら話をするのはとても風情があり、リラックス出来る。


それから約一週間。


一年ぶりに見た大和は大きく変わった所はなく、豊かに発展している、正に江戸の風景を彷彿とさせる場所だ。


前回よりも少し奥に進むと、一際大きな建物が見えてくる。


江戸の風景に似合わず、現代風というかお城のようなその建物の中心にはデカデカと「大和刀術学院」と書いてあった。


正式名称は大和刀術学院と言うらしい。今まで大和学院だと思ってた。


その場所はとても広いにも関わらず、大量の人でごった返していた。


「じゃあな!がんばれよ!」


「ありがとう!元気で!」

 

御者との別れもすみ、少し不安になりながら皆が向かっていく場所へ自分も向かう。


あ!!名前聞くの忘れてた…………まぁいいか。


………いいのか?せっかく仲良くなったけど、またいつか会える気がするし大丈夫な気がする。


今はそれ所では無い。


その人混みに紛れて進んでいくと、指示が聞こえて来た。


「庶民はこっちへ行ってくださーーーい!!!」


大声で叫んでいる。わかりやすいのはありがたいけどなんか棘を感じる。


言われた通りの方へ行くと持っと広い場所に出た。


約1000人が一度に入れる程に広く、仲の良い人達でのグループができていた。


俺は一人しか居ないため、ここでもまた強い不安感が俺を襲う。


得体の知れない不安感なのでどうすることも出来ない。


しばらくして会場がそろそろ満杯になるかと思われた時に怒声が響く。


「静粛に!!!!!!」


その一言で周囲の喧騒が嘘かのように消えた。かく言う俺もびっくりした。


「これから、大事な説明を行う!庶民の貴様らにもわかりやすいように教えてやるから感謝しろ!


まずは制服についてだが、この説明が終わった後、この会場を退出する時に部屋番号を受け取れ!


その部屋に制服が置いてある。食事は何回かに分けて行われること等、それら全て部屋に置いてある紙に書いてあるからしっかりと読むように!


あと、この大和学院には武家の方もご入学されている!会うことは無いため、大丈夫だとは思うが決して失礼のないようにな!


話は以上だ!速やかに退出したまえ!」


随分上からな説明ではあったがこの世界ではこれが普通なのだろう。


大分この世界に慣れたからだろうか。


前世ならばムカついていたであろうが、全然ムカつかない。これが慣れと言うやつか?


てか、それだとサイズが合わなかった時とかどうするんだろう?気になるなぁ。


10分程した辺りで退出するチャンスがあったので紙を受け取って退出する。


流石に男子と女子では分けられているようで、「男子はこっち、女子はこっちの紙を取って行って」と言っていた。


部屋番号は…………777。まさかのラッキーセブンである。ちょっと嬉しい。


そもそも自分の部屋がある階を見つけるのがかなり大変だったが、何とか見つけることが出来た。


その部屋番号が書かれている部屋に入るともう既に他の三人の人達は来ていた。


「俺は祐作」「俺は一(はじめ)」 「俺は渉」


「よろしくな。」


「正悟だ。よろしく。」


そんな簡単な自己紹介を済ませて自分の紙を取る。本当に大事な全ての事が書かれていた。


制服はなんと、その人に合わせてサイズが変化する仕様のものだった。


なるほど。俺の疑問は前世特有のものだったのかもしれない。


自分は八クラスで夕食は250人ずつで四番目で、お風呂は二番目の順番であるらしい。30分事に交代となっている。


流石にこの人数だから単純な感じではあるが、しっかりと考えられた割り振りでもあった。


その後夕食もお風呂も済ませ、すぐに就寝となったのだが、思ったよりもルームメイトと仲良くなれそうな感じがしたので良かった。


なんて言うか、気が合う、そんな感じだ。

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