第9話

約半月ぶりにこの村に帰ってきた。


その時にいの一番に俺に話しかけてきてくれた子が居たのだが、やばい。全く名前が思い出せない。


とりあえず可愛いいと言うことだけは分かる。それにデカい。何がとは口にしないが。


「正悟!おかえり!御前試合どうだった!?」


「あー、めっちゃ凄かったよ。」


「大和ってどんな所だった!?」


「凄い発展してたけど、人が冷たかったかな。」


「そうなんだー!美味しいご飯とか食べたのー!?」


「食べたよ。」


なんだ、この子。凄いグイグイ話しかけてくるな。


「これこれ、麗奈。正悟が困っとるじゃろう。」


「えー、言いじゃん!半月も話せなかったんだから!」


「そうは言ってものう………。」


あ、この子は麗奈って言うのか。この人が麗奈ちゃんの親なのかな?それにしては随分高齢な気もしなくもないが…………


「俺は大丈夫ですよ。」


「そうなのかい?ならまぁ良いじゃろう。すまんなぁ、儂のせいで我儘に育ってしもうた。」


「全然大丈夫ですよ。」


俺がそう答えると「そうかい。」と言って家の中に入って行った。


「正悟!久しぶりにいっぱい話しましょうよ!」


麗奈ちゃんの目はキラキラに輝いていた。


「分かった分かった。」


これは逃れられそうにない。俺はこの目を知っている。


「相変わらずだなぁ、麗奈ちゃんは。正悟、しっかりと相手してやれよ。」


「ふふっ、そうね。将来が楽しみね。」


ん?やっぱりそういうことなのか?この子もまた正悟の事を好きなのか?それとも幼なじみとかいう関係とか?


仮に前者だとすると、やっぱり申し訳ない気持ちになるな。


それから少し森の奥に入った川の側に連れていかれた。


「こうやって二人で話すのもなんか久しぶりな気がするね」

 

「そうだね。」


「……………………………。」


「……………………………。」


やばい。話題がない。俺この子のこと全然知らないし。


この世界に来てまだ日が浅いから何を話せばいいか全く分からない。


「正悟、なんか、変わったね。」


めちゃくちゃ心臓がドキッとする。このドキドキは心臓に悪いやつのドキドキだな。


「そ、そうかな?」


「うん。前の正悟だったらもっと話してくれたもん。なんか、大人になった?っていうか、とにかく変わったね。」


それはまぁ、中身がまるで違うからな。最初の頃は記憶があったんだけど、この急展開ですっぽりと抜けてしまった。


「そっか。それは君に取っていい方かな?」


聞かない方が良い。だけど、気になってしまったので聞く。


「…………私は前の正悟の方が好き。今の正悟も嫌いじゃないけど、前みたいに一緒に笑って欲しい。」


前の正悟はどうやら明るい性格だったみたいだな。


俺も笑わせてあげたいとは思うけど、何を話せばいいのか全く分からないから話せない。


「そっか。ごめんね。」


「うんうん。大丈夫。大和はそんなに凄いところだったの?」


「凄いっちゃ、凄い所だね。人が冷たいけど。」


「ふふっ、また言ってる。そんなに冷たかったの?」


「うん、それはもうめっちゃ冷たかったよ。トイレに行きたいのに話しかけても立ち止まりもせずに無視されちゃうから、危うく漏らすところだったよ。」


「なにそれ、酷いね。」


「本当だよ。なんであんなに無視されたのか不思議でならないね。」


「そうだね。」


「………………………。」


「………………………。」


また会話がなくなってしまった。


気まずいったらありはしない。なんで、記憶がないんだよ!今更ながら記憶が無いことに苛立ってきた。


まてよ?話せることと言えば学院に行くこととかあるな。なんで思いつかなかったんだ?


「俺、学院に行くことにしたんだよね。」


「え!?それ本当!?」


今までと違って本当に驚いたような、素の感じだ。


「え?そうだけど………?」


そんなに驚くことなのか?


「いつから!?」


「来年から……。」


「じゃあ会えなくなっちゃうの!?」


ああ、そっちか。会えなくなるのが寂しいのか。


「まぁそういうことになるのかな。」


「そんな………。正悟はいかないと思ってたのに………。」


「……ごめん。」


本当に好かれてたんだな。前の正悟ってやつは。


「…………も行く。」


「え?」


「私も行く!」


「え?」


「三年後まで待っててね!絶対私も行くから!」


「あ、あぁ、分かったよ。」

 

そんな彼女の勢いに気圧されてしまった。

 

それからはまた村に戻った。


結局彼女と仲良くなることは出来なかったけど多少の情報は得られたので良しとしよう。


今まで知らなかったが、この村はゆかり村と言うらしい。随分可愛い名前である。


最初に会ったあのお爺さんはこの村の村長みたいだった。村に戻って話しかけられる。


「正悟、お主、学院に行くのは本当なのかい?」


「はい。行きたいと思ってます。」


「そうかい。学院では庶民の立ち位置は厳しいものとなるじゃろう。それを分かっているのかい?」


「わかってます。」


「…………そうかい。来年からで良いのじゃな?」


「はい。」


「じゃあ、願書を出しておくよ。」


「え、ありがとうございます。」


「ふむ。敬語の方は問題なさそうじゃな。」


なるほど。村単位で出す感じなのかな?良かった。


また、大和まで行かなければならないのかと思ってたから。


あの地獄はもう味わいたくない。


「それじゃ、少しでも鍛えておくんだね。相当厳しいみたいじゃよ。前にも一人行ったのじゃけど、二年で帰ってきたわい。そいつに少しでも教えて貰いな。」


「分かりました。ありがとうございます。」


「今は敬語なんて使わなくて構わないわい。そんなの使うの誰もおらんよ。」


「分かった。」


それから二年で帰ってきた人の元に行って、少しでも鍛えてもらうことにした。


「俺は真之介ってんだ。よろしくな。」


「正悟だ。よろしく。」


「まぁ、村長から聞いたと思うが俺は逃げてきたタチだ。鍛えるぐらいしか教えらんねぇ。それでもいいか?」


「大丈夫だ。」


「よし!じゃあやるぞ!」


「え!?今から!?」


「当たり前だ!」


今はだいぶ暗いのに…………。先が長そうだ。


その日から真之介に鍛えてもらった。二年行ってたという事もあり、割と本格的なトレーニングをさせられた。


そもそも真之介自体がかなり筋骨隆々としている。


だからかなりキツめのトレーニングなので一年が過ぎる頃にはかなり肉体が仕上がった。


ボディービルダー並ではないが、細マッチョ程細くもない。本当にちょうどいいバランスの取れた肉体に成長した。


たまに父さんが「正悟が居なくなったから畑仕事が大変だ。」と文句を言われたりもした。


麗奈とはその間に仲良くなることが出来た。


最初はかなりぎこちなく、周りの人から「お前ら、何かあったのか?」と言われていたが、少しずつ俺の素の部分で仲良くなれたのでそれはとても嬉しい。


前がどれだけ仲良かったか分からないが、少なくとも前よりも良いという評価を得ることができたからまぁ悪くは無いのだろう。


後は学院に入ってのし上がるだけだ。

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