第7話

「これにて一回戦の試合を終了致します。準決勝は選手の体力も考慮し、三時間後の午後二時からとします。」


早すぎるでしょ…………………でも、かっこいい!!!


そしてまず間違いなく魔法とかそれに似た物がある世界に転生したらしい。確信が得られた!


あぁ、俺もあんな風になりたい………!!


「凄かったな!」


父ちゃんの顔は晴れやかになっていた。


「うん!早すぎるし、まるで何してるか分からなかったけど、かっこよかった!」


男子なら一度は妄想して憧れるような、そんな非現実的な光景を目の当たりにして興奮しないはずがあろうか、いやない。


「あら、正悟がそんなに興奮するなんて珍しいわね。」


母さんも微笑みながら喋りかけてくる。


「そうだな。これがこの国を担っている方たちの凄さだな。」


「………大和学院って庶民は入れないよね…?」


そういう世界には身分の壁とかがありそうなものだから、この世界で庶民と分類されそうな俺は多分入れないよな………。


「いや、確か学院の費用は全て庶民は無料だったはずだぞ?」


やっぱりそうだよな。庶民が無料で入れる訳っ…………て無料!?


「む、無料!?そんなことがあるの!?」


「結構有名な話だと思うんだがな。ただ、差別が酷かったり、武家よりも進級が大変とか言う話はよく聞くぞ。」


「あー、やっぱりそうだよね………。」


やはり普通に比べて厳しいものとなるようだ。


「なんだ?行きたいのか?」


「…………………うん。」


「……そうか。やっぱりな。」


妙に納得した顔で頷いている。


「?」


「何となくお前はそうな気がしていたんだ。」


「……ダメかな?」


「いや?応援するぞ?」


あまりに呆気からんと言われたため一瞬、戸惑ってしまった。


「……え……?いいの!?」


マジかっ!!行けるなら絶対に行きたい!!!


「まぁな。出来ればこのまま俺の跡を継いで欲しい。子供もお前しかいないしな。それに、庶民が技を出来るようになるにはら、三年生までに資格を得ないといけない。かなり難しいだろう。だけど、俺はお前の好きなようにして欲しいんだ。これは母さんとも話し合った結果だ。」


「そうね。本当は行って欲しくない。でも、正悟の道を狭める事はしたくないの。」


「学院には何歳で入れるの?」


「15からじゃなかったか?」


「あれ、俺って何歳だっけ?」


「今年で15だから、入るなら来年からだな。」


「じゃあ来年から行きたい!!」


「簡単な道じゃないぞ?」


「うん、分かってる。」


「そうか。分かった。頑張れよ!」


「うん!!ありがとう!」


来年から入れるのか………めっちゃ嬉しいな!早くあんなかっこいい事ができるようになりたい!


そもそも学院の制服もかっこいいし。軍服のような、和服のような、ちょっと違うような、でもめちゃくちゃかっこいいことに変わりはない。


先程の試合をみて、興奮したせいか酷く空腹感を覚える。


外を見回すと祭りの屋台のような出店が多く見られる。


匂いが風に乗ってここまで飛んでくるので余計にお腹が減る。


「なんにも食べないの?」


「そうだな………。うちにはあれを買えるだけのお金はない。済まないな、正悟。楽しませてやれなくて。」


申し訳なさそうな顔をして父ちゃんが答える。


流石に庶民階級である俺たちには都会で買い物するような余裕はないみたいだ。


都会と田舎で経済格差が大きいのはどこの世界でも変わらないらしい。


「ちょっと散歩でも行くか?」


突然父ちゃんが提案する。


「それはいいわね!少し歩きましょうよ!」


母さんがそれに賛同した。


「えー、めんどくさいなぁー。」


「いいから、行くぞ。」


拒否権はなかった。


「わかったよ。」


家族で散歩……………前世でもまずやらなかったことだ。前世なら何を言われようとも断っていただろう。


仮にしていたとしても、もう覚えてない。


正直、俺はこの人達に自分の親であるという感覚はない。


だから、なんとか受け入れることが出来た。


それにしても何故急に散歩なんて誘ってきたのだろうか?


普通に座ってたかった。


外の屋台を見るとどうしても食べたくなってしまう。


お祭りの日に屋台で買って食べるご飯は格別に上手い。


それを思い出してさらに腹が減る。


「もうお前と一緒にここに来ることもないだろうからな。思い出として残しておきたいんだ。」


しみじみとした顔で父ちゃんが言う。


「あぁ、そういう事ね。」


最後の思い出作りのような感じか。


「来年から正悟がいなくなるなんて、寂しくなるわ。」


「……ごめん。」


「はっはっはっ!お前が帰ってくる頃には弟か妹が出来てるかもな!」


「ちょっと!あなた!恥ずかしいわよ!」


母さんの顔がこれでもか、と言うほど赤面している。


「俺は妹が欲しいかな。」


「おう!任せとけ!」


「ちょっと、正悟まで!」


そう言って母さんは俯いている。その顔は少し笑っていた。


どうやら満更でもないらしい。


でも、大和はどちらかと言うと洋風な服を着ている、というかほとんどが洋風な服を着ている人達ばかりなため、めっちゃ目立つ。恥ずかしい。


「あら、平民。こんな所を歩いてどうしたのかしら?」


!?…………この声は、一之瀬?だったか?相変わらず巻き髪が似合ってねぇ………。


「これは、一之瀬様。今は家族で散歩をしている所です。」


努めて冷静に答える。変に反応するよりは良いだろう。


「ふーん。あなた達にお金があるようには見えないけど?」


分かっているだろうに、薄ら笑いながら聞いてくる。


「本当に散歩をしているだけです。」


「散歩をしているだけ?このような場所で何も買えないなんて、平民も大変ねぇ。そこの男。この平民の親族なのでしょう?何か買って差し上げてはいかが?」


「大変申し訳ございません、一之瀬様。私共のような平民にはそのような余裕がないのです。」


「ふん!これだから、平民は汚らわしいのですわ。どうせ、わたくしたちのような人に乞食をしようとしていたのでしょう?」


「め、滅相もございません。」


やっぱり、この一之瀬って人はかなり性格が悪いよな。


てか、間違いなく目をつけられているような気がするんだけど、俺の間違いかな?間違いであってほしいな?


「仕方ありませんわね。なにかご馳走してあげて宜しくてよ、平民。」

 

「よ、よろしいのですか?」


まって、意外に良い人?


「その代わり、一生私の下僕として無様に生きなさい。そうすればよろしいですわ。」


おっふ……………。やっぱりとんでもない性悪女だった。少しでも期待した俺が馬鹿だった……。


今までの行動を見て優しいなんてありえないからな。


「その、申し訳ありません。遠慮させていただきます。」


「あら?わたくしの慈悲を無下にするというのかしら?」


………やばい。なんか分からないけどやばいって気配をビンビン感じる。


「えっと、その、」


「すみれ、もういいだろう。こんな平民に構うなど時間の無駄だ。」


「それもそうですわね、お父様。良かったわね、平民。命拾いできて。」


それからすぐにその場を立ち去って言った。


あれだけの事があったからには目立たない訳もなく、注目され、下手に出ていたのを見られたのが酷く恥ずかしく感じた。


それでも、俺に対する同情の視線はなく、何も買えないなら出ていけ、と言わんばかりの視線を感じる。


非常に居心地が悪い。


「…………戻ろうか。」

「……そうだね。」

「…そうね。」


つくづくこの世界は平民というか、なんというか、お金が無い人?田舎者?への差別意識が強いということを感じさせられるな。


そのせいで酷く気分が落ち込んだ。


競技場に戻って来て、父さんが喋り始める。


「大和がこんなにも差別的な場所だとは思ってもなかったよ。ごめんな、、」


俺はなんにも答える事ができなかった。それは母さんも同じだったらしい。


「それにしても、正悟。よく敬語を使えるな。教えた覚えはなかったんだけどな。」


感心した、と言うような顔で聞いてくる。


「あぁ、何となく、わかるんだよね。」


実際はそうでは無いが、そう答えるしかない。


「そうか。でも良かったよ。正悟が敬語を使えるお陰で多分俺たちは今生きているからな。」


「確かに。」


「先祖代々に渡って敬語が教えられてきた意味がやっとわかったな。自分の身を守る為だっらしい。」


「……そうね。」


正直、大和には幻滅してしまった。


もっと居心地の良い所だと思っていたけど、そうでもなかったらしい。


俺が社会的に低い身分だから、というのもあるのかもしれないが、そういう面では前世よりも酷いものだ。


「学院には行くのか?」


「………………。」


あの一件のせいで少し返答に詰まる。


かっこいいし、自分もああなりたいと思う。


だけど、底知れない不安が俺を襲う。


幸か不幸か俺は前世ではいじめらる、という経験はない。


けど、今までの一之瀬と言う人物の態度を見て、考えが変わってしまった。


世の中にはそういう悪意を持つ人間がいる、という事を認識してしまったからだ。


「私は、やっぱり正悟に行って欲しくない。もし、学院で正悟になにかあったら、私は、多分、耐えられないわ。」


「………………………………。」


母さんの語尾が掠れていくのを感じた時、申し訳ない気持ちになった。


俺はこの人達にあまり思い入れという思い入れはない。


これだけ自分の事を思ってくれている人達に、自分が本当の子供では無い、ということを隠しているというのが本当に申し訳ない気持ちにさせる。


この人達が心配しているのは俺であって、俺でない。


これだけの愛情を貰っているのは赤の他人なのだ。


だから、せめてもの罪滅ぼしに、俺はこの人達に本当の子供がするはずだった以上の親孝行をしたいと思う。


「…………俺は行くよ。」


俺がそう答えた瞬間、母さんが父さんの胸で泣き始めてしまった。胸が締め付けれられる。


その代わり、絶対にこの人達にはいい思いをさせて上げたい。


「これより準決勝のオーダーを発表します!


八雲 桜(当主) 対 宝生 椿(当主)


四条 楓(当主) 対 橘 雷(当主)


準決勝からは当主の方たちも技の使用が認められます。また、それ以外のルールは第一回戦と変わりません。では、皆さん!準決勝をお楽しみください! 」


試合の進行は俺たちの気分とは関係なしに進んでいく。

 

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