縁起のいい蜘蛛
佐々木 煤
三題噺 「蜘蛛」「名前」「時刻表」
「いってきまーす」
今日も朝早くに家を出る。一時間に一本のバスを逃すと、二時間目に到着してしまう。やっとの思いで合格した都市部の高校だから文句は言えない。けどもう少しバスの本数が増えればいいのにな。
林道を10分歩くと、寂れたバス停がぽつんと立っている。遅刻するのが怖くて15分前にはバス停に着くようにしている。朝の静かな時間が私は好きだ。
「もし、もし」
一人のはずなのに、どこかから声が聞こえる。周りを見渡しても道路と木々とバス停しかない。
「すみません、ここです。ここ。」
声の方をよく見ると、バス停の時刻表に蜘蛛が一匹張り付いていた。田舎だから、虫には慣れているけど、話す虫は初めてだ。どこかにスピーカーでもあるのかな。目があると蜘蛛は嬉しそうに話し始めた。
「どうも、ぼくは見ての通り蜘蛛です。蜘蛛というのは少し特殊な生き物でして、見た目の話じゃありませんよ。まず、他の動物の言語がわかるんです、会話ができるように話すこともできる。なぜかっていうと、名前をつけてもらうためです。名前がついて初めて一人前の蜘蛛になれるんです。」
身振り手振り話す様をまじまじと見る。蜘蛛って情緒豊かに話すんだな。
「ちゃんと聞いてます?人っていうのは会話に相づちを打つんじゃないんですか」
しかもちゃんと常識が備わっている。
「聞いてます、聞いています。名前が欲しいってことですよね。」
「そうです!ここで待っていたら人が来るってミミズに聞いたもんで。」
私の行動ってミミズに筒抜けなんだ…!ここは蜘蛛の話に乗るのも楽しそうだ。
「どんな名前がいいんですか?」
「そりゃあ、勇ましくて格好の良い名前でお願いします!」
勇ましくてかっこいい。今読んでいる本にそんな人がいた。
「スサノオなんてどうでしょうか?神様のひとりで正義感あふれる、厄払いの神様なんですよ」
蜘蛛は足を四方八方に揺らして喜んだ。
「それはいい!神様と同じ名前をもらえるなんて、思ってもみなかった!お嬢さん、どうもありがとう!!」
蜘蛛はバス停から糸を垂らしてどこかに消えていた。
それ以来、私に何かあったわけじゃないけどバス停を見るたびに思い出す。
縁起のいい蜘蛛 佐々木 煤 @sususasa15
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