第3話 依頼人は騎士団長様(1)
普段、垂らしている水色の髪は後ろで三つ編みに。パッチリとした大きな緑色の瞳は、眼鏡でそっと隠す。
そう、今日の私は探偵風に変装をしていた。
というのは間違いで、モディカ公園にマクギニス伯爵家の者が、堂々と歩くわけにもいかないために、変装しているのだ。念のために、帽子もかぶって。
騎士団長様に会うには、ちょっと失礼な装いだとは思ったんだけど、きちんと説明すれば分かってくれるはず。
なにせこちらは依頼を受ける立場。
ううん。後々文句を言うような、せこい真似を“忠犬”ともあろう騎士団長様がするはずはないわ。多分……絶対……。
でも、犬ってすぐに吠えるのよね。突然、大きな声で。騎士団長様もそうなのかしら。ちょっと怖いわ。
しかし、すでにモディカ公園に来ていたため、引き返すことはできない。私が立ち止まると、前を歩く案内役の白猫が振り向いた。
「ねぇ、騎士団長様ってやっぱり怖いお方?」
私はしゃがんで白猫に話しかけた。猫憑きだからといって、猫と話せるわけじゃない。勿論、ピナを通してなら、会話することはできるけど。
だから、ちょっとした仕草や鳴き方で、喜怒哀楽くらいは読み取れた。
「そっか、分からないか。変なことを聞いてごめんね」
傾げる頭に手を乗せて、撫で撫でしてあげる。目を細める白猫の表情に、私の心も自然と落ち着いた。
「凄いな。会話ができるのか」
「ひゃっ!」
そんな和やかな場面に突然、後ろから声をかけられたものだから、私は思わず小さな悲鳴をあげた。
咄嗟に口元を手で覆ったせいだろうか。私はバランスを崩し、横に倒れかけた。
「危ない!」
私は後ろにいた人物に腕を掴まれ、辛うじて地面に当たることはなかった。ホッとした途端、そのまま腕を強く引っ張られ、立ち上がったところまでは良かった。
ち、近い。近過ぎます!
目の前に、
「あ、ありがとうございます。えっと、その……」
「いや、こちらこそ済まない。けして驚かせるつもりはなかったんだ。だからその、なんだ。来てくれて感謝する、マクギニス嬢」
私は思わず顔を上げた。するとそこには、黒髪に水色の瞳をした背の高い男性が立っていた。
さっきは一瞬、引いてしまったけれど、モディカ公園に似合わない、この
「俺はカーティス・グルーバーだ」
「こ、近衛騎士団長様!?」
ヒィー! ま、待って。心の準備というものが……!
こっそりと遠くから見て、それから接触するつもりだったのに。こんな不意打ち。
思わず私はどこか隠れる場所を探した。身を隠したい、本能がそう言っていた。けれど、それではあまりにも騎士団長様に失礼だ。
どうしたら、と思った時、逃げずにいた白猫が、足にすり寄って来た。まるで、自分もここにいる、と自己主張しているように感じて、私は咄嗟に抱き上げた。
そのまま白猫の体に顔を埋める。「にゃー」の一言に、私はハッとなって、騎士団長様を見据えた。白猫を抱いたまま。
「初めまして、ルフィナ・マクギニスです」
案の定、騎士団長様はクククッと押し殺すようにして笑っている。
「随分とマクギニス伯爵とは違った令嬢なのだな、君は」
「た、確かに母とは性格は違いますが、これはその、人見知りが激しいだけですので、気になさらないで下さい。けして、騎士団長様が不快だとか、そういう意味ではありませんわ」
「そうか。それは失礼した」
騎士団長様はそう言ったけど、私はなぜか
お母様とは違う、それがどういう意味なのか、分からなかったから? それとも、笑われたことに、まだ腹を立てているのだろうか。
「騎士団長様も悪いんですのよ。毎日、いらっしゃった所にいないで、話しかけてきたのですから」
「すまない。今日は猫たちが、どこかそわそわしているように感じて行ってみると、マクギニス嬢が猫に話しかけていたものだから」
「待って下さい。それはつまり、一目で私だと見抜いたということですか?」
一応、変装したつもりだったんだけど、分かってしまうものなのかしら。
完全に私だと認識できないのは困るから、髪の色などは変えなかったんだけど。でも……っ!
「始めは眼鏡をかけているから、マクギニス伯爵かと思ったのだが、それにしては……可愛いと思ってな」
今の間は、幼いと言おうとしていませんでしたか? それを可愛いという言葉で誤魔化しましたよね。嬉しくありませんわよ。
「そうですか。二十五歳の騎士団長様にとって、十九の私は、確かに幼く見えるのでしょう」
「マクギニス嬢。俺はそんなつもりで言ったわけじゃないんだが」
「分かっていますわ。これはただの小娘の
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