第37話 月明かりの下で
先導車に導かれた一台の車両が大規模調査区域に辿り着いた。
Cポイントの広場では、研究者やメカニック、国連軍の兵士までもが集まって歓喜の声を上げている。
車から降りた篠宮良子は、人混みをかき分けるようにしてあかり達が待つ場所へと走った。
「あかり! みんな!」
「良子!」
あかり達の姿を見つけると、篠宮良子は装甲に身を包んだままの彼女達に駆け寄った。
「ごめんね、みんな! 本当にごめん……!」
「良子……そんなこと言わなくていいよ。」
あかりは思わず瞳からこぼれた涙を気にも止めずに呟く。
「そうでござるよ。」
大進と、傍にいる静香も大きく頷く。
土と黒い体液で汚れた頭部装甲を傍に抱えた一真が口を開く。
「……俺たちはそのためにここにいるんだ。」
「みんな、本当にありがとう。」
良子はあかり達一人一人の手を、両手で包むようにして握った。
しばらく目を伏せていた彼女は、突然何かに気がついたように顔を上げる。
辺りを見回す良子に、あかりが声をかける。
「久遠くんなら……。」
あかりの装甲が、先ほどまでいたBポイントの広場を指差す。
良子は少しだけ頷き、駆け出した。
「……良子……?」
あかりは、遠ざかっていく白衣姿の彼女を呆然と見つめていた。
◇
良子は木々に囲まれた研究区域を息を切らしながら駆けていく。
広場への道は
長く薄暗い回廊を抜けた良子の視界が開け、木々に囲まれた広い空間と、その上を覆う満天の星空が姿を現す。
それは星々の天蓋に覆われた、大広間のように見えた。
たどり着いた広間の中央には、白い鎧が一人佇んでいる。
白亜の装甲は満月に照らされ、全身から淡い光を放っているように見えた。
篠宮良子はふらふらと引き寄せられるように彼に近づいていく。
「先生……?」
振り向いた久遠が言うが早いか、篠宮良子は地を蹴り、彼の元に飛び込んでいく。
彼女の長い髪が揺れ、月の光に輝く。
月下で白い鎧が篠宮良子を抱きとめるその姿は、一枚の絵画のように見えた。
「篠宮先生……。」
「久遠くん……!」
「ごめんなさい、先生。僕は……。」
良子は小さく首を振る。
「いいの。あなたが無事でいてくれて本当に……」
彼女はそう呟くと、そっと額を白い装甲にあてた。
辺りは静寂に包まれ、風に揺られた木々の葉が、時折囁くように音を立てている。
長い沈黙の後に、良子は絞り出すように声を出した。
「でも、お願い。」
彼女の細い指が久遠の鎧に触れる。
「もうこんなことはしないで……。」
彼女の消え入るような声に、久遠は何も答えることができずにいた。
白衣を着たままの良子は、細い腕を白い装甲に回し、身体を預けている。
久遠は答える代わりに、鋼鉄の腕を彼女の小さな背中に回し、そっと掌で触れた。
夜空を覆っていた雲はいつしか消えていた。
風は止み、木々を揺らすわずかな音さえ聞こえてこない。
天上で輝く欠けたところのない月が、静かに二人を照らしていた。
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