第34話 攻防戦
「みんな、ここから退避して!」
南ひろ子の声が一帯に響くと、Bポイントで作業を行なっていたメカニック達が一斉に退避を始める。
一真と大進が誘導する次元獣は、すでにBポイントから目視できる距離まで迫っていた。
双眼鏡やタブレットを手にした研究員達が夢中で話し込んでいる。
「あんなに巨大なのに、これだけの動きができるのか、次元獣ってやつは。」
「恐竜に近い身体構造にも見えるな。学会がまた荒れるぞ。」
「あんた達も早く逃げな! もう、これだから学者ってのは……」
南は呆れ顔でため息をつく。
結局、全てのメカニックと研究員が調査区域に残っていた。
「さてと……。もう少しの辛抱だね。あかり。」
南の傍では、緊急冷却ユニットに繋がれて座っているあかりの機体があった。
「ありがとうございます。南さんも退避してください。」
「ああ。あとは頼んだよ。制御装置と機体の冷却はほぼ終わっているから、あとはサブシステムの再起動が終わるまで、動くんじゃないよ。」
あかりが頷くと、南は大きな掌で彼女の肩を叩き、力強い笑みを見せた。
「五浦教授も早く退避してください。」
静香が装甲に覆われた手を伸ばす。
「随分安定したみたいね。落ち着いて対処して。」
五浦は腕部の装甲にそっと手を触れた。
「あなたなら大丈夫。」
「五浦先生はいつもそう言ってくれますね。」
静香が微笑む。
「いつもそう思っているからよ。」
五浦は優しく微笑み返した。
フィールド回線に良子の通信が入る。
「みんな聞こえる? 今、増援が行くわ。数分で到着するはずよ。」
「良子、増援ってまさか、国連軍……?」
「……うちの新兵器よ。」
「新兵器? ひょっとして……大鳥博士が前に話してた、テスト中の高出力兵器のこと?」
「ということは、誰かが持って来てくれるのでしょうか。」
巨竜と戦う一真と大進が通信で入ってくる。
「この状況をなんとかできるなら、誰でも構わんな。」
「うむ。ありがたいでござる!」
巨大な竜は、すでにBポイントに迫ろうとしていた。
(まだなの……?)
あかりはディスプレイのステータスモニターを見ながら小さく呟く。
サブシステムの再起動が終わらないうちは、機体の能力は半減したままであり、
再起動をキャンセルすれば、また冷却装置で一からやり直しだ。
彼女は無言で唇を噛む。
初めてディメンジョン・アーマーを身につけたのはまだ小学生の頃だった。
「外装型歩行補助器」という名称だった未完成の頃から、メンバーの誰よりも長い時間を共に過ごしてきた。
幼い頃からの病気のために走れなかった身体が初めて地を馳け、飛べなかった身体が宙を舞った瞬間のひとつひとつを覚えている。
それが今は動くことさえままならない。
「これじゃ、あの頃と同じじゃない……。」
機体を自在に駆って戦う一真と大進の姿を映すモニターが、僅かに滲んで見えた。
「あかり、大丈夫でござるか。」
Bポイントに駆け込んできた大進が声をかける。
「……うん。もうすぐ動けるようになる。ごめん、負担をかけて。」
「いい運動になるでござるよ。もうひと頑張りでござるな。」
金属製バイザー越しなのに、大進の力強い笑顔が見えるようだ。
そうしているうちに、一真もあかり達の元に戻ってきていた。
いつもは涼しい顔で立ち振る舞う彼が、肩で息をしている。
AポイントからここまでLD型と距離を取りながら戦い続けてきた彼は、見るからに消耗していた。
土埃で汚れた薄灰色の機体のあちこちに、次元獣の黒い体液が付着している。
「……やれやれ、頑丈なやつだ。
一真はたまらず片膝をつき、荒く息を切らしている。
「……一真、その……ごめん。」
あかりが小声で呟き、黙り込む。
「……。お前の馬鹿力があったからこそできた部位破壊だ。」
「は?」
「それに、ディメンジョン・アーマーにクールタイムが必要な奴など、この世でお前くらいだからな。」
怪訝な顔をしているあかりに、大進が笑顔で近づく。
「あかりが最初に奴の足を破壊していたから、ここまで誘導する余裕ができたのでござるよ。それに。」
大進が続ける。
「演算装置が焼けるほどディメンジョン・アーマーを使いこなせるのは、世界広しといえども、あかりくらいでござるからな。」
大柄な大進の手があかりの肩をそっと叩く。
目を丸くして一真を見ていたあかりが呟く。
「……あんた、ゲームのやり過ぎなのよ。何言ってるのか全然わかんないじゃない。」
一真は無言で立ち上がり、膝についた土を払う。
「ありがと。気合いが入ったわ。」
あかりはそう言って金属製の拳を握りしめる。
一真はあかりに目を向けると、ほんの少しだけ口元に笑みを見せた。
その時、地響きと共に巨竜の雄叫びがBポイントの広場に響きわたる。
紫色の巨体は周囲の樹木を薙ぎ倒しながら、広場の入り口に到達しようとしていた。
「今だ、大進!」
「おう!」
大進は足元のフットスイッチを力強く踏み締める。
地上に仕掛けられた電磁捕獲装置から、六本の放電ユニットが空高く舞い上がるようにして伸びていく。
一瞬にして巨竜をとり囲んだかと思うと、地上と空からの強力な放電が鳥籠のように巨体を包み込んだ。
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