第21話 私の価値は

「おらっ、出ろ。」


私達をさらった人の内の一人の男の人が、馬車の後ろから入ってきて怒鳴る。


その声に周りの子達が怯えている。


「早く出ろって言ってんだろ。」


私達が怯えて動かないでいたら、そのことに腹を立てたのか、更に怒鳴る。


そして近くにいた子に近づいていく。


「さっさと立て。」


乱暴に手枷を掴み立ち上がらせる。


「他も立て、早くしないと痛い目にあわすぞ。」


男の人が懐から、ナイフを取り出した。


「ひっ。」


今男の人に手枷を掴まれている子がナイフを見て更に怯える。


「トカゲども、早く立て。」


私達はどうすることも出来ないので、言う通りに立ち上がる。


「最初からそうしろ、付いてこい。」


男の人がそう言って、馬車から降りた。


私達も続いて外に出る。


そこは人の国だった。


辺りの建物はボロボロで、雰囲気が暗い。


私達亜人が人の国に入れるのは、奴隷と奴隷になる予定の亜人だけ。


ここで理解する、私達はこれから奴隷になると。


「いやぁぁ。」


さっき掴まれたことはまた違う子が叫んだ。


その子が暴れて逃げようとするが、今は私達五人で手枷を繋がれているから逃げられない。


むしろ私達が引っ張られる。


「うるさいぞ。」


男の人がナイフを向けるが、見えていないようで、叫ぶのをやめない。


「一人ぐらい見せしめで殺ってもいいよな。」


男の人がしびれを切らしたようで、叫んでいる子に近づく。


「殺っていいわけないだろ。」


男の人の後ろからまた別の男の人が声をかける。


「ちっ、わかってるよ。」


そう言って、ナイフの人が私達の手枷を繋いでいる縄を持つ。


「さっさと来い。」


ナイフの人が縄を引っ張って歩いていく。


しばらく歩くと、小さな建物の前で止まった。


「ここか?」


「そのはずだが、さすがに看板なんてないから確証がない。」


私達をさらった人達は全部で三人、私達を連れてきたナイフを持った頭の悪そうな人、そのナイフの人に指示を出しているちょっと頭の良さそうなひと。


それと、終始無口でずっと私達の後ろにいる人。


無口の人だけ後ろに残って、残りの二人が今建物の前にいる。


「お前も来い。」


ナイフの人が、無口の人を呼ぶ。


無口の人が私達を人目見て、建物の前に行く。


そして二人が無口の人に話しかけている。


(今しかない。)


私は靴を脱いで足の爪を使い手枷を繋いでいる縄を切る。


「おい、なにしてる。」


頭の良さそうな人が気づいてこちらに近づいてくる。


「逃げて。」


私は叫んで他の子達を逃がす。


「逃がすかよ、かはっ。」


ナイフの人が逃げていく子達を追いかけようとしたので、みぞおちに蹴りを入れる。


「行かせない。」


私は一人残り足止めをする。


(五分出来れば大丈夫かな。)


「くそっ、あの手枷、亜人の力を抑えるんじゃないのかよ。」


ナイフの人がみぞおちを押さえながら、叫ぶ。


「そのはずなんだけど、いや、あの足の爪はトカゲじゃないな、まさかとは思うけど竜人か?」


私は竜人だ。


竜人の里を追い出されてトカゲの亜人の迷子と思われ、トカゲの亜人の村に拾われた。


「竜人って、ほんとならレアものじゃん、だったらあんなトカゲなんてほっといてこいつだけ売っても相当な額になるな。」


ナイフの人がそう言いながら立ち上がる。


殺すつもり蹴ったのにあまり効いてない様子だ。


(この手枷が厄介だな。)


いくら子供とはいえ、竜人の蹴りを耐えられる人は滅多にいない。


戦っても少しの足止めしか出来ないから、逃げる方法を模索する。


この手枷は亜人の身体能力を低下させる効果があるようなので、走っても逃げられるかは微妙だ。


(頭を蹴れば脳震盪ぐらいは出来るかな。)


脳震盪させることが出来れば逃げる時間を稼げる。


「よし、俺がやる。」


ナイフの人が私に近づいてくる。


「まて、お前じゃさっきの二の舞だ、サイレント、あいつを捕らえたら報酬増やしてやるからやれ。」


頭の良さそうな人がナイフの人を止めて、サイレントと呼ばれた無口の人に命令を出した。


「…。」


無口の人が頭の良さそうな人に一瞥して私の方に来る。


(強いよね、多分。)


なんとなくだが、周りの二人とは次元が違う気がする。


逃げようとして後ろを向いたら、その時点で負ける。


だからといって攻撃を仕掛けても負けるのがわかる。


(でも。)


私はまだやることがあるから、ここで捕まる訳にはいかない。


「はぁぁ。」


私は歩いて近づいて来る無口の人が私の間合いに入ってきたので、頭に向かって蹴りを入れた。


「だよね。」


無口の人の頭に蹴りが入ったが効いていない。


私の足が無口の人に捕まる。


「そのまま拘束しろ。」


頭の良さそうな人が無口の人に指示を出す。


それを聞いて無口の人が私の手足を掴む。


私はもがいて抜け出そうとするが、拘束が解ける感じがしない。


「よし、そのままついてこい、お前もいつまでも拗ねてないで来い。」


「拗ねてねぇよ。」


指示を受けた無口の人が頭の良さそうな人に近づき、ナイフの人は私を睨みながら渋々といった感じでついていく。


私達四人は小さな建物の中に入った。


建物の中はなにも無かった。


「おい、ほんとにここか?なにもないぞ。」


ナイフの人が辺りを見回しながらそう言う。


「のはずだが、少し探すか、サイレントはそいつを拘束しとけ。」


頭の良さそうな人はそう言うと、ナイフの人と一緒に建物の中を探す。


「ここか。」


五分程探して、頭の良さそうな人が床に手を当てる。


「なにもないぞ。」


「この下に空間があるっぽい。」


頭の良さそうな人が床を叩きながら言う。


「どうやって開けるんだ?」


そこの床は溝もなく、特に開けられる感じもしない。


「魔力かな、多分。」


頭の良さそうな人が床に魔力を流し始めた。


「少し浮いたか、お前も魔法は使えなくても魔力を流すことぐらいは出来るだろ。」


「当たり前だろ。」


ナイフの人が頭の良さそうな人と一緒に床に魔力を流す。


しばらく魔力を流すと床に人が一人通れるくらいのスペースが開いた。


「入るだけで、疲れすぎだろ。」


ナイフの人が息を切らせながら言う。


「とりあえず行くぞ。」


頭の良さそうな人が開いた床を見ながら言う。


ナイフの人を先頭に私達は暗い階段を下りていく。


少しすると先に明かりが見えてきた。


階段を下りきるとそこには、檻に閉じ込められた亜人が大量にいた。


「さすが亜人専門の奴隷商だな。」


奴隷は亜人が一番多いが、人もいる。


ここには亜人だけいないらしいけど。


「らっしゃっしゃい。」


私達が辺りを見ていると、奥から見るからに怪しい人が笑顔で出てきた。


「あんたがここの奴隷商か?」


「そうですよ、その竜人を売りに来たんですかい?」


奴隷商の人が私を一目見て頭の良さそうな人を聞く。


私は今、両手足を無口の人に手で掴まれているから、爪が見えていないから見た目はトカゲの亜人と変わらない。


それなのに奴隷商の人は一目見ただけで私を竜人と見抜いた。


「鑑定ってやつか。」


鑑定、高レベルになると相手を見るだけで相手の種族やスキル、使える魔法などがわかるという魔法だ。


「そそ、これがないと奴隷商はやってけないんで。」


「だろうな、それよりこいつの買取をしてくれ、竜人なんだから相当いくだろ。」


頭の良さそうな人が私を親指で指さす。


「大金貨二枚だな、どうする他に行くか?これ以上の額を出すとこはないと思うが。」


(私の価値は大金貨二枚。)


それが高いのか安いのかはわからないけど、簡単にお金に変えられると思うと複雑な気持ちになる。


「それでいこう、大金貨二枚も貰えりゃ当分遊んで暮らせる。」


頭の良さそうな人が嬉しそうに言う。


「じゃあ、それでいきましょうかね、すご、じゃあ代金取ってきますね。」


奴隷商の人が一瞬だけ表情を変えたが、すぐ元の笑顔に戻り奥に戻っていく。


「まさか亜人一匹で大金貨二枚なんて、ぼろ儲けじゃん。」


ナイフの人が嬉しそうに言う。


「ほんとに、まさかそこまでいくとは思わなかった。」


頭の良さそうな人も嬉しそうだ。


「…。」


無口の人はその光景をなにも言わず見ている。


私はここで奴隷になって誰かに買われておもちゃにされるか、誰にも買われずそのまま死ぬかのどっちかの人生になる。


(私の運命もここまでか。)


私にはまだやらなければいけないことがあるのに、ここで私は終わる。


そう諦めたところに。


「お前らか、俺を苛立たせた原因を作ったのは。」


階段の方から声がした。


私達が後ろを振り向くとそこには、猫の亜人の奴隷と、男の人が立っていた。

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