第20話 買い物をしました。

冒険者ギルドを出た俺とスイはとりあえず服を買いに行った。


スイは無駄に高そうな服を着ていたけどボロボロだった為、一刻も早く変えたかった。


「スイ、なにか着たい服あるか?」


俺はスイと共に服を見ているが、善し悪しがわからないから、スイに選んでもらうことにした。


「ご主人様が選んだ服がいいです。」


スイが即答で答えた。


最初スイは自分の服を買うことに否定的だったけど、なにかを考えた後に了承した。


「さっき考えてたのってそれか?」


「はい、ご主人様が選んだ服がいいなって。」


スイがまっすぐこっちを見ながら真剣な表情で言ってきた。


(困った。)


スイに似合う服を選ぶのは俺には出来ない。


どれが似合うのかがわからないから。


俺はとりあえず辺りを見回す。


(やっぱりわからん。)


どれも似合うような気はするが、それより。


(視線がウザイな。)


店員がさっきからこっちを見てきている。


その目を無視してスイを見る。


そこで気づく。


「スイ、尻尾あるからワンピースとか、スカートしか履けないじゃん。」


スイは今スカートを履いている。


亜人は人の国に入れないから、基本的には亜人の服は置いてない。


「亜人の奴隷用の服を売っている場所もありますよ。」


素直にそっちを探すのがいいと思うけど、正直品質を期待出来ない。


なのでまた服を探す。


「よし、諦めた。」


俺は上下で選べる気がしなかったので、ワンピースタイプの服から、なんとなくスイに紫のイメージがあったから、ダークパープルのワンピースを手に取った。


「これでいいか?」


スイに見せて確認を取る。


「はい、ありがとうございます。」


スイが笑顔で答えてくれた。


(いい子だな。)


俺はその服と寝間着のネグリジェ、それと俺の寝間着、それと全身を覆えるローブを買った。


ここでスイを着替えさせたかったけど、店員の目がウザかったから店を出た。


とりあえず俺とスイはローブを羽織った。


「ご主人様は幻惑魔法で私が亜人っていうのと奴隷っていうの誤魔化したりはしないんですか?」


俺がなにか食べれるものを探していたら、スイが話しかけてきた。


「スイはそっちの方がいいか?俺はスイにありのままでいてほしいっていうエゴがあるからやってないけど、スイがいいならやるぞ。」


「ご主人様がそう言ってくれるのはとても嬉しいですけど、そうすれば視線を向けられることも減りますし、なにより普通にお店に入れますから、私はそっちの方がいいと思います。」


それはわかるがそもそもの問題がある。


「わかったけど、幻惑魔法って俺にはかからないから、ちゃんとかかってるのかがわからないし、幻惑魔法は相手にかければいいのかスイにかければ全員に見えるのかがわからないんだよな。」


俺はまだ魔法というものを詳しく知らない。


だから仕様確認が必要になる。


「じゃあやってみましょうよ、私の耳と尻尾、後首輪を出来ますか?」


「やってみる。」


俺とスイは路地裏に行き魔法を試す。


幻惑魔法はイメージした人やものを相手に見せる魔法だ。


だからスイにかけても意味はないと思う。


使うなら幻覚魔法だと思う。


俺はとりあえずスイの耳と尻尾、首輪の周辺に幻惑魔法をかけてみた。


「どうかな。」


「私には見えますね。」


(だよな。)


スイに見える時点で期待薄だが、俺とスイは路地裏を出て、道を歩く。


視線は変わらないので効果はないようだ。


「やっぱりこの国の奴ら全員にかけないと変わらないか。」


俺はこっちを見ながら歩いてくる奴に幻惑魔法をかけてみた。


「!」


そいつが驚いた顔をしていたから多分成功した。


(やっぱり、相手にかけないとか。)


俺はとりあえず二十メートルを基準にして、周囲の人に幻惑魔法をかけた。


「これで落ち着くかな、」


魔法をかけた瞬間に何人か驚いた奴がいたが、無視してそのまま進む。


俺はまた、なにか食べ物を探す。


「あれはケバブサンドじゃないか。」


異世界といえば串焼きなどのものがあると思ったが、まさかのケバブサンド。


俺は外で食べるのは好きではないけど、とりあえずなにか腹に入れておきたい。


「スイ、昼ご飯あれでいいか?」


俺は屋台を指さしてスイに聞く。


「はい、でもあんないいもの、なんかバチが当たりそうです。」


スイが笑いながら言う。


俺は前世でもケバブは食べたことがない。


だからか、俺も少しいいものなイメージがある。


「食べるのは最後になるだろうから味わっとけ。」


俺はあまり外食が好きではないので、外食は今回で最後にする予定だ。


宿を除き。


「ご主人様はお料理が得意なんですか?」


スイが察したのか、疑問をぶつけてくる。


「いや、やったことはある程度だな。」


前世で一回やったが、別に食べれないものが出来た訳でもない。


「スイは出来るか?」


スイが料理を出来るならスイに任せたい。


「奴隷になる前はやってました、なってからは一度もしてないです。」


「じゃあ、二人でやるか。」


少なくともスイの方が料理が上手いだろうから、俺が教わる形になるだろう。


「はい、一緒にやりましょう。」


スイが嬉しそうに耳と尻尾を動かしている。


俺は微笑ましいと思いながら、ケバブサンドを二つ買い、スイと一緒に食べた。


その後、俺達は旅の準備の為に色々な雑貨と食料を揃えた。


買ったものは全て収納魔法に入れた。


どうやら収納魔法の中はどうやら時間が止まっているらしいから、生ものも入れておけば大丈夫みたいだ。


「ご主人様、明日以降はなにをするんですか?」


買い物に漏れがないか考えていたら、スイが話しかけてきた。


「とりあえず明日はギルド長の言ってたのをやりに行く、その後は三日四日ぐらいしたらこの国出ようかな。」


少しの間は実績を集めようと思っていたが、いきなりAランクになったから、わざわざ集める必要がなくなった。


だからもうこの国にいる必要がない。


「わかりました。」


「どうしたんだ?」


スイがなにか言いたげだったので、スイになにかあったのか聞く。


「この国を出たら私の故郷の集落に行くんですか?」


「まぁとりあえずの目標はそこだな、遠いなら中継で他のところに寄るだろうけど。」


俺の最終目標は勇者の封印を解くことだが、勇者の情報がどこかにいることしかわかってないからその情報集めをしないといけない。


「なんだ、今になってやめたくなったか?」


「いえ、その。」


スイが煮え切らない返事をする。


「ほんとどした。」


「嫌わないですか? 」


「もちろん。」


俺がスイを嫌うことはない、嘘をつかない限りは。


「じゃあいいます、復讐が楽しみで。」


スイの表情から熱が消えてとても冷たい表情になる。


(いいなこの表情。)


スイはいつも、暖かく、かわいい表情をしているからか、この冷たい、クールな表情のギャップがすごい。


「…ご主人様、やっぱり嫌いに。」


俺が黙ってスイの表情に見入っていたら、スイが心配そうな表情になりながら聞いてきた。


「ごめん違う、スイのまた違う表情が見れて、見入ってた。」


俺は包み隠さず正直にスイに告げる。


そしたらスイの顔が真っ赤になった。


「ご主人様のバカ。」


小さい声でそんなことを言うが、ただかわいいしかない。


俺はとりあえずスイの頭を撫でた。


「もうやることなさそうだから、宿戻るか。」


とりあえず歩いていたが、買い忘れはなさそうなので宿に戻ることにする。


「は、はい。」


少し顔がとろけていたスイが、いつもの表情に戻して返事をする。


そして俺とスイが宿に戻ろうとしたら。


「誰かー、助けてくださいー。」


近くの路地裏の方で助けを呼ぶ声が聞こえた。


無視しようと思ったけど、サーチをしたら、人とは違う魔力の流れを感じたので少し気になった。


スイの方を見ると、どうするのかという目を向けてきた。


「亜人っぽいから行くか。」


これが知らない人なら別に、他の誰かに任せるけど、亜人という話なら別だ。


俺とスイは声のした路地裏へ足を向ける。

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