第22話 亜人の子を助けましたが

路地裏に行くと、トカゲ?の亜人の女の子四人が、チンピラ風な男三人に囲まれている。


亜人の子の内の一人が気絶している。


残りの三人は気絶している子の後ろにうずくまっている。


(普通逆だろ。)


チンピラどもは笑いながらその光景を見ている。


(どっちもウザイな。)


俺はそんなことを思いながらその光景を眺める。


「ご主人様、せっかく来たんですから助けましょ、その後のことはその後考えましょ。」


俺がめんどくさいと思い始めたのを気づいたのか、助けることを促す。


「スイ、ご主人様禁止な、今は奴隷じゃないんだから。」


スイには今、幻惑魔法を使って耳と尻尾、首輪を見えなくしているから、ご主人様だと少し変だからやめさせる。


「そっか、じゃあなんて呼べばいいですか?」


「好きに呼んでいいって言われると困るよな、呼び捨てとかでいいんじゃないか?」


スイが呼びたい呼び方があるならそれでいいが、いきなりそんなことを言われても決められないと思う。


「私にとってはご主人様なので呼び捨ては…、様も変ですし、さんは他人行儀ですし。」


俺の呼び方を本気で考えているようで、スイが自分の世界に入る。


「考えといてくれ。」


俺はスイにそう言うと、さっきからこっちを見ているチンピラと亜人に視線を移す。


「おい、聞いてんのか。」


チンピラの一人、鼻ピアスが俺達に向かって叫んでいる。


(なにか言ってたのか、なにも聞いてなかった。)


俺はスイのことで頭がいっぱいになっていたので、周りになんの意識もしてなかった。


「怖くてなにも出来ないならさっさと帰れ。」


チンピラの一人、スキンヘッドが俺達を手で払う。


(すごい小物感がするな。)


やってることや言ってることが異世界とは思えない程普通だ。


前世なら怖いや、関わりたくないなど、思うのだろうが、なにも感じない。


「聞いてんのか?ビッてんなら隣の女を置いてここからかえ、がは。」


近づいて来たチンピラの一人、サングラスが、スイに触れようとしたので、反射的に蹴り飛ばした。


「な。」


鼻ピアスが驚いた顔をしている。


「なにしてんだ、こらっ。」


スキンヘッドが激高して俺に殴りかかろうとしてきた。


「黙れよ。」


「かはっ。」


俺は近づいて来たスキンヘッドも蹴り飛ばして、サングラスにぶつける。


「おいおい、マジかよ。」


鼻ピアスが、サングラスとスキンヘッドを見ながら引きつった笑いをしている。


「うちの子に触れようとしたんだ、殺されてもしょうがないよな。」


俺は倒れているサングラスとスキンヘッドに手を向ける。


「ちょいちょいちょい、待てって、お前だって知ってんだろ、亜人が人様の国に入ったらなにをされてもしょうがないってこと。」


そんなことは知らない、スイからは亜人が人の国に入れないことしか聞いてない。


「知るか、それにそいつらに興味はない、お前らがうちの子に触れようとしたからそうなったって言ってんだろ。」


話ほ終わりなので、手に魔力を込める。


「くそっ、こいつら売って小遣い稼ぎしようとしただけなのに。」


鼻ピアスが折りたたみ式のナイフを取り出して、スイに投げつけた。


カッ


「は?」


鼻ピアスが驚いている。


スイは常に俺の魔力で守っている。


「わかったお前から殺す。」


スイに攻撃を仕掛ける、それだけで死ぬに値する。


今までのアマリやルベウスなどは、今思うと確かに殺したらめんどくさいことになると思うが、こいつらみたいなただのチンピラなら殺しても別に問題はないだろうと思う。


「とりあえず死ね。」


「リンお兄さんはどうですか?失礼なら考え直します、けど。」


「スイがそう呼びたいのならそれでいいよ。」


俺は鼻ピアスに向けていた殺意を消してスイの相手をする。


スイはずっと俺の呼び方を考えていたようだ。


(リンお兄さんて、やばいな。)


前世で弟はいたが、お兄さんなどの兄関連の名前なんて言われたことがないからか、スイが言うからか、なんか嬉しい。


「それより、私が考え事してる間にやっちゃったんですね。」


スイが倒れているサングラスとスキンヘッドを見て、薄笑いをする。


「別にこいつらなら殺しても問題はないだろ?」


俺の復讐の師匠であるスイに殺してもいいか尋ねる。


「そうですね、というかバレなければ大丈夫ですよ、前は絶対にバレるから止めただけで。」


前世と違って、こういうチンピラの死をいちいち調べることなんてしないと思う。


「そうか、バレなきゃいいんだな。」


俺は笑顔で鼻ピアスに近づいた。


「おい、待て、何する気だ。」


鼻ピアスが後ずさりながら冷や汗をかく。


「なにって、殺すんだよ。」


俺は鼻ピアスに手を向けて少し考える。


(普通に魔法を撃っても血が残るよな、どうやろ。)


殺すことは簡単でも後処理まで考えるとやり方がまた変わる。


(やってみるか。)


俺は一つの魔法を想像する。


魔力の発動先は相手の心臓。


心臓の周囲に魔力を集中させ、手と連動させる。


「じゃあな。」


「何する気なん、かはっ。」


俺は鼻ピアスの心臓を握りつぶした。


(処分終了かな。)


俺はサングラスとスキンヘッドにも同じ魔法を使う。


そしてその三つの死体を収納する。


(後で適当に埋めよ。)


さすがにここに放置だと、色々とまずいのはわかるから、後で森にでも埋めるつもりだ。


「リンお兄ちゃん、あの子達が微動だにしないのって。」


スイが亜人の子達を指さしながら言う。


「そう、幻惑魔法かけてる、騒がれてもめんどくさいし。」


俺はサングラスが近づいて来た時ぐらいに亜人の子達に幻惑魔法をかけた。


理由は二つ、騒がれたくなかったのと、証拠隠滅。


「記憶操作使えばよかったけど、それだと思い出す可能性もあるからな。」


幻惑魔法なら、俺がなにをしたのかはわからないから、魔法をかけられた痕跡があっても、なにをしたかまではわからない。


「なるほど。」


「とりあえず、あいつらどうする?」


俺は亜人の子達の方を見ながら言う。


「話を聞きましょう、見た感じさらわれた後みたいですし。」


亜人達は手枷がついている。


服などは少し汚れてはいるが、普通に見えるから、まだ奴隷という訳ではないようだ。


俺とスイは亜人の子達に近づく。


「お前ら、どうしてここに?」


亜人の子達は怯えている様子だったので、目線を合わせてできるだけ優しく問いかける。


「わ、私達森で遊んでたらいきなり人が来てさらわれて、でも逃げて来て。」


亜人の子の一人が頑張って喋っている。


「この子は?」


俺は倒れている亜人を指さす。


「私達は人に見つからないようにって路地裏を進んでたんですけど、さっきの人達に見つかって、その時に殴られて気絶してしまって。」


(その後ろに隠れてたと。)


俺は少しだけ苛立つが、心を落ち着かせる。


「でも、よく逃げられたな、見た感じその手枷力を封じる系のやつだろ。」


手枷を見ると、魔力の流れがおかしい。


あの手枷は、魔力の流れをおかしくして、本来の力を出せなくするタイプのやつだと思う。


「それは…、頑張って。」


(嘘つくなよ。)


今、心が揺れた。


「一人見捨てたか?」


「!」


亜人の子達がわかりやすく動揺する。


(当たりかよ。)


「違うんです、そもそもあの子がいけないんです、あの子が村に来たから、私達は大人に遊んであげろって言われて仕方なく遊んでたら、今回さらわれて。」


亜人の子が言い訳じみたことを早口で言う。


「その子は迷子かなにかだったのか?」


「いえ、竜人の里を追い出された可哀想な子ってお父さんが言ってました。」


(竜人か。)


「竜人の里から私達の村に置いといてくれって言われて、竜人には逆らえないから仕方なくあの子を置いておくしかなかったんですよ。」


亜人の子が少しずつ言い方に元気がでてくる。


「そのせいで私達がこんな目にあって、だからあの子が私達を逃がすのは当たり前なんですよ、全部あの子がいけないんですから。」


(苛立つな。)


こういう奴は前世にもいた。


自分の言っていることに間違いはないと心の底から思っている奴。


自分の見ているものが全てだと思っている奴。


相手の気持ちより自分の気持ちを優先させる奴。


全て俺が嫌いな奴だ。


「だから。」


「もういい、その子の優しさに免じてお前らを村の方角に適当転移させるから方角だけ教えろ。」


もうこいつと話したくない。


前世のことを思い出すのは嫌だ。


「優しさ?だからあの子の、ひっ、すいません、あっちです。」


余計なことを話し出したので、俺が睨みつけると怯えながら北西を指さす。


「わかった、最後にお前らはどっちから逃げて来た?」


俺は優しくする理由を失ったので、声のトーンを落として脅しながら聞く。


「あ、あっちです。」


亜人の子が震えながら、南西を指さす。


「わかった、じゃあな。」


俺は北西に限定してサーチにし、似ている魔力を探す。


(これかな。)


だいたい五キロぐらい離れた場所にこの亜人と似た魔力の反応があったので、そこの近くの森に飛ばした。


「スイ、行くぞ。」


「はい。」


俺はスイとともに南西に向かって歩き出す。


(ちょっと八つ当たりしよ。)


俺は会ったこともない元凶に今の苛立ちをぶつけると心に決めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る