第16話 宿を決めました
「結局どっちなんだ?」
俺は隣でモニターを食い入るように見ている自称神に声をかける。
「なにが?」
「魔王についてだよ、お前が嘘をついてのか、あいつが嘘をついたか知らないか。」
別にどうでもいいことだが、なんとなく聞いてみる。
「それね、多分知らないんだと思うよ、私はあの世界に干渉は出来ないけど、全てを見れるからわかるんだよ。」
自称神が人差し指を立てて、俺に言ってくる。
(俺が聞いたことだけどウザイな。)
「じゃあほんとに魔王がなにかしらしてるのか?」
「うん、なにをしてるのかはわからないけど。」
(わかんねぇのかよ。)
この自称神はあの世界のことをなにも知らない、そのくせ魔王のことはわかると言う。
だからどうも胡散臭い。
(まぁいいや。)
考えたところで俺には関係ないことなので、考えるのをやめた。
「結局さ、勇者って言われて封印された子を助けたいのがリン君をあの世界に送った理由だから、ぶっちゃけ魔王とかどうでもいいんだよね。」
自称神がすごいことを言う。
あの世界の行く末にはもう興味がないらしい。
(ほんと成り行きに任せるんだな。)
「私には私でやることあるし。」
そう言って自称神が俺のことを見てくる。
「なんだよ。」
「別に、どうやって勝とうかなって。」
まだ俺に勝つ気でいるようだ。
「あっそ。」
今現在でこいつに負ける要素がないので、モニターに意識を戻した。
「トゥレイスへようこそ。」
トゥレイスに入り、辺りを少し見回していると、ルーサイトが両手を広げてそう言う。
「なんだか普通だな。」
パッと見た感じは、ファンタジーの王道のような感じだ。
レンガ造りの家が並び、入り口からまっすぐ行った先には城がある。
おそらく、真ん中に城があり、東西南北に入り口があるのだと思う。
「普通ですか、それは他の国に似ているということですか?」
ルーサイトは俺が記憶喪失の設定なのを知らないから、普通と言われたらそう思うのだろう。
知っているスイは不思議そうな顔をしている。
「いや、どんな国なのか想像しながら森を歩いてたから、その想像通りだなーって。」
普通は、思わず声に出てしまったことなので無理やり誤魔化す。
「なるほど、では案内をしましょうか?」
ルーサイトはそう言うが、別にこの国に興味はないので、冒険者ギルドの場所と換金所、後は宿がわかればそれでいい。
スイがわかるなら聞く必要もないだろうし。
「スイは俺の行きたいところの場所はわかるか?」
「宿はわからないです。」
スイには行きたい場所を詳しくは言ってないのに、理解してくれて助かる。
「じゃあ宿の場所だけ頼む。」
あまり俺達の居場所を知られたくはないが、この国にいる間はどこにいてもバレる気がするからしょうがない。
「わかりました、貴族街も私が口利きすれば入れますけどどうします?」
(貴族街か。)
この国は、城が一番高い位置にあり、その周辺に小綺麗な家が並んでいる。
多分そこが貴族街と呼ばれる場所なのだと思う。
そして俺達が今いる場所と貴族街は壁で仕切られている。
「いやここら辺がいい。」
貴族なんて、ただめんどくさいだけの存在がいる場所には行きたくない。
「わかりました、では冒険者ギルドの近くでいいところがあるのでそこにしましょう。」
「助かる。」
俺がそう言うと、ルーサイトが歩き出した。
日の昇ってきた方角が東なら、俺達が入ってきた門は南門になる。
そこから西門の方へ向かって行く。
その間は街並みを見ていたが、俗に言う貧民街のようなところはなかった。
治安はいいのかもしれない。
そしてしばらく歩いていくと、ルーサイトが止まった。
「ここです。」
ルーサイトが右手で宿を示した。
「アヤメか?」
文字は日本語ではないが、ちゃんと読める。
外観は入り口の隣に花壇があり、他はよくある民家といった感じだ。
(落ち着くな。)
派手でもなく、ちょうどいい感じで見た目だけならここがいいと思える。
「お気に召しました?」
「ああ、ありがとう。」
「初めてちゃんとお礼を言ってくれましたね。」
もう関わることもないだろうと、初めてちゃんとお礼を言った。
「最後だからな、それより俺は、少しの間はこの国にいるから手を出すなよ。」
ルベウスは独断専行だったから許したが、次来たら許す気はない。
「もちろん、私達はなにもしませんよ。」
少し気になる言い方だが、なにかしてきたら返り討ちにするだけだから、別に気にしないことにした。
「では、私はこれで。」
そう言ってルーサイトは姿を消した。
「転移魔法か。」
ルーサイトは地味にすごい魔法を使っている気がする。
相手の動きを止める魔法や転移魔法。
それと少しの属性魔法。
「あいつって何気すごい奴なのか?」
考えてもしょうがないから俺はスイと共に宿に入る。
「おっ、いらっしゃい。」
宿に入ると十代後半ぐらいな見た目の、元気っ子な女の人がいた。
宿に入ってから気づいたが、俺はまだ金を持っていなかった。
「どうも。」
「宿泊ですか?食事付きで一日銅貨五枚です。」
それが安いのか高いのかはわからないけど、とりあえずは一文無しなので少し困っている。
「ご主人様。」
スイが俺の袖を掴んで呼ぶ。
「ここ、奴隷や亜人が大丈夫じゃなかった場合って…。」
スイが不安気に耳打ちしてきた。
俺はまだこの世界の常識がわかっていないけど、奴隷や亜人は差別を受けていることを頭に入れておかないといけない。
「あのー。」
宿の人が不思議そうな顔をして声をかけてきた。
「あ、すいません、ここの宿は奴隷や亜人は大丈夫ですか?」
ルーサイトは俺とスイの仲がいいのは知っているから、それを考慮して宿を選んでくれていれば嬉しかったが、それを聞くことも出来なかったので、次からは気をつける。
「んー、私やお母さんはいいんですけど、前に亜人の奴隷さんを連れた冒険者の人を泊めたら色々と言われたので…。」
(遠回しに断られたか。)
スイを見るとしょぼんとしていた。
「そうですか、初対面の人に迷惑はかけたくないので、他をあたります。」
俺とスイは宿を出ようと振り返る。
「違います違います、言われるのはお客様の方で、私達は別に大丈夫ですよ。」
宿の人が帰ろうとした俺達に駆け寄ってきてそう言う。
「でも、言われはするんですよね、あなた達も。」
俺は自分のせいで相手に迷惑がかかるのは嫌だ、その場合、相手になにも言えなくなるから。
「大丈夫ですよ、うちはお客様なら平等に見るので。」
(なら、か。)
笑顔で言っているけど、つまりは奴隷や亜人差別をするならお客じゃないと言っているようだ。
「そうですか、ではお願いしてもいいですか、後でまた来るので。」
なにかしら言われたら、その時はなんとかすればいいからと、ここの宿に決めた。
「はい、お待ちしてます。」
宿の人にそう言われ、俺とスイは宿を出た。
「いい人でしたね。」
宿を出るとスイが笑顔でそう言う。
「そうだな。」
言っていたことに嘘偽りはないと思う、でもまだ全てを信じることは出来ない。
(いい人は信用出来ないんだよな。)
いい人というのは簡単に自分の心を騙すことが出来る。
この魔法がどこまで見抜くことが出来るのかわからないから、いくらいい人でも信じることが出来ない。
(それに、ほんとにいい人っていうのが一番苦手だ。)
ファンタジーでいい人は一番最初になにかされるから、あまり関わりたくない。
「ご主人様?」
「ん?」
俺がずっと一人で考え事をしていたのを不思議に思ったのか、スイが袖を引きながら俺を呼ぶ。
「どうしたんですか?」
「別に、とりあえず行こ。」
俺は説明するのがめんどくさかったので誤魔化して歩き出す。
「ご主人様、こっちです。」
スイが俺の歩き出した方と逆の方を指さす。
俺は基本二択を外す。
決して方向音痴ではない。
「はい。」
俺はスイの後をついて行く。
がたっ、がたっ
また小石でも踏んだのか、馬車が揺れる。
周りの子達はうずくまってしまっている。
私達は人に捕まり、これから奴隷商に売られる。
「トカゲの亜人なんて売れんのか?」
私達をさらった人の内の一人が喋り出す。
「今更なんだよ、こいつらが群れから外れるとこが多いからって狙ったんだろ。」
私達五人はよく森で遊んでいた。
そのタイミングを狙われてさらわれてしまった。
いきなりのことで私達はなにも出来ずに、力を封じる手枷をつけられた。
(絶対に許さない。)
今までは人になんの関心もなかったけど、今回のことで人への復讐心が湧いた。
(どんなことをしても、こいつらを殺す。)
私は初めて殺意を心に灯し、その気を待つことにした。
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