第15話 やっと森を抜けました
「終わったか。」
ルベウスとルーサイトの戦闘が終了して、ルベウスは動かなくなった。
多分まだ息はある、でもしばらく放置したらそのうち死ぬの思う。
「まったくあなたも人が悪い、ルベウスに腹が立ったからと言って、ルベウスの一番心を崩す方法を選ぶなんて。」
ルーサイトが俺に近づきながら言ってくる。
俺はルベウスのことを一切許していない。
理由は単純、スイに攻撃を仕掛けたこと。
スイにも心配されたけど、今回はちゃんと出来た。
今回俺は直接ルベウスに手を出していないからトゥレイスに対してはなにもしていない、尚且つルベウスのメンタルを壊しながらルベウスを殺す一歩手前まで仲間内で勝手にやってくれた。
「正しい処分の仕方を考えただけだ、ほんとは最後に俺が裏切るみたいな展開にしようと思ったけど、勝手にやっちゃったし。」
ルベウスに復讐の機会を与えて、俺に助けを求めてきたら見捨てるというシナリオも考えていたけど、その必要がなくなった。
「まぁいいや、それよりルベウスが死ぬから代わりにあなたが盾に入りません?報酬は地位とある程度の自由でどうです?」
「断る。」
俺には勇者の封印を解くという目的があり、スイにも故郷への復讐という目的がある。
だから一箇所に留まる気はない。
(それ以上に、こいつの下につきたくない。)
「それは残念、ではトゥレイスに入りましょうか、と、その前に。」
ルーサイトが膝をついている門番に近づき。
「どっちがいい?」
と、聞いている。
「消去でお願いします。」
「私も。」
「わかった、物わかりがよくて助かるよ。」
ルーサイトが門番の頭に手を触れて魔法を発動した。
(なんだ?)
「完了、通してくれる?後あれ片付けといて。」
門番から手を離すとルベウスを指さして指示を出す。
「はい、賊ですか?」
(なにを言ってんだ?)
さっき門番からルベウスの名前を聞いたのに、その門番がルベウスのことを知らない様子で話している。
「そ、まだ生きてるから止め刺しとくね。」
ルーサイトはそう言ってルベウスに雷の槍を投げた。
意識を失っていた為ルベウスはなにも言わずに死んだ。
(そういうことか。)
門番の反応からさっきかけた魔法は記憶操作の魔法だと思う。
そしてさっき聞いたのは、記憶を消すか、死ぬかどっちにするかの選択なのだろう。
「ところでルーサイト様、その男と亜人はなんですか?」
門番の一人はルベウスの死体の片付けをしに行き、もう一人が俺を睨みながらルーサイトに聞く。
「スカウト中の子だよ、そんな口聞くなよ、怒らせたらトゥレイスが滅びるぐらいには強いから。」
「ルーサイト様より、ということですか?」
門番が驚いた様子でルーサイトに聞く。
「そ、ほんとやばいから。」
「し、失礼しました。」
門番が俺に頭を下げてきた。
「いや別に。」
謝られても困る、別にこいつに謝られたって興味がない。
「じゃあ、行きましょうか、トゥレイスでは私結構顔が利くので。」
「盾って表立って行動してんのか?」
なんだか勝手に裏から国を守っている、みたいな組織だと思っていたから門番がこいつらの名前を知っていた時も少し驚いた。
「まぁそれなりに、魔獣退治や魔物退治で冒険者が手に負えないのを私達盾が相手するので。」
要するに冒険者のレベルだと、熊の魔獣は倒せないけど、盾なら倒せるからアマリが来たということらしい。
それよりも。
「魔物もいるのか。」
魔物といえばファンタジーの定番だ。
この森ではなにも出会わなかったけど、まだ俺の知らないものがまだまだあるようだ。
「はい、冒険者が相手するのはゴブリンやオークなど低級なものが多いですね、ネームドや龍種、固有種なんかは冒険者では倒せるのが滅多にいないので私達盾に回ってきますね。」
つまり冒険者は、盾の手が回らないところの相手をするようだ。
「ネームドになると私達でも辛いですけど、魔族になると下級でやっと勝てるか勝てないかになりますね。」
(魔族。)
魔族なら魔王と繋がって、勇者の情報が得られるかもしれない。
「魔族がいるなら、魔王もいるのか?」
とりあえず聞いてみる。
「いますよ、七人、どういうのかはわからないですけど。」
(多いな。)
「勇者とかはいるのか?」
「どこかで生まれたのは聞きましたけどわからないですね、今は魔族とは不戦協定で関わりもないですし。」
(変だよな。)
あの自称神は勇者に魔王を殺させようとしていた、でもそんなことをしたら不戦協定が破れて戦争になる。
それに魔王は暴れているとも言っていた。
(三択かな。)
ルーサイトが嘘を言っているか、自称神が嘘を言っているか、秘密裏に魔族が動いているか。
ルーサイトには心の揺れがないから嘘を言っているはずはないが、なぜか信用が出来ない。
(魔法が効いてる気がしないんだよな。)
「他になにか聞きたいことはあります?」
「じゃあ最後に、お前達は俺達と敵対する気はあるか?」
また俺に構ってこられると迷惑なので、ついやり返してしまう可能性があるからそれだけ確認しておきたい。
「あなたはなにもしなければなにもしないんですよね。」
「もちろん、別に興味ないし。」
興味がないと言うのはもちろん、この国があろうがなかろうがどっちでもいいということだ。
「それなら私達は手を出しません、ただトゥレイスに不利益になることをするなら全力で対処はしますけど。」
言質は取った、これで俺達になにかあれば俺はこの国を消すことが出来る。
誰に許される訳でもないが。
「いいよ、俺も抵抗するけど。」
ルーサイトと睨み合う。
「ご主人様、門番さんが可哀想です。」
ずっと黙っていたスイが俺の袖をつまんで言う。
門番を見ると怯えていた。
「なんで?」
「ご主人様達は圧が強いんですよ、あっちの門番さんは遠いのに失神してますよ。」
ルベウスを回収していた門番を見ると、確かに倒れている。
「やりすぎましたかね。」
「貧弱すぎるだろ。」
スイみたいな、いたいけな少女でも耐えられるのに、失神するのはさすがに弱い。
「私はご主人様のことが大好きですから。」
スイが笑顔でそう言ってくれるが、説明になってない気がする。
とりあえずスイの頭を撫でておく。
「仲がよろしいようで。」
ルーサイトが唯一見える口元を綻ばせる。
「奴隷でしかも亜人にそこまで普通に対応する人初めて見ましたよ。」
「そうなのか。」
俺にとってスイはこの世界で唯一無条件で信用できる存在だから、ぞんざいに扱う理由がない。
「はい、ではほんとに入りましょう、そろそろ商人などの人が来て邪魔になるので。」
確かに、入ると言ってから随分と話してしまった。
「わかった。」
ルーサイトが先に入っていったので後に続こうとして立ち止まって、振り返りルベウスを見てから門をくぐった。
(やっと森を抜けられた。)
転生してから約一日かかって森を抜けることが出来た。
森一つ抜けるのにこんなに時間がかかっていて、勇者の封印を解くまでにはどれぐらいかかるのかと少し憂鬱な気分になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます