第12話 トゥレイスに着いたのに…

(かわいいです。)


今は私の隣にいるご主人様の寝顔を眺めている。


起きている時はかっこいいご主人様だけど、寝顔はかわいい。


思い切ってご主人様に私の思いを伝えて、それをご主人様が手伝ってくれると言われて嬉しくなり、ご主人様の胸で泣いていた。


そして涙が止まった時にご主人様を見たらご主人様が寝ていた。


今はそのご主人様の寝顔を一時間程眺めている。


(このままご主人様にキスなんかしたらご主人様に嫌われちゃうかな?)


ご主人様の無防備な顔を見ていたらいけない気持ちになってきた。


でもご主人様に嫌われたくないから寝顔を眺めるまでで止まっている。


私は今まで周りの人に恵まれてこなかった、両親は私のことが嫌いだったようで最低限のことだけして、私を放置していた。


そして結局私は生贄に出された。


生贄に出された先が前のご主人様、あの人は逆に私に変な愛情を向けてきた。


毎日私に違う服を着させて、夜は私を抱き枕にしていた。


寝付きが悪いようで、私を抱き枕として奴隷にしたようだ。


最初はそれだけだったからよかった、でもしばらくしたら私のことを意図的に触るようになってきた。


服もだんだん布の面積が減っていって、辱めを受けた。


その時には故郷への復讐を考えていたのであまり気にしてはいなかったけど、前のご主人様のことも嫌いだった。


そして前のご主人様のところに私を連れていこうとしたお貴族様がやってきた。


そのお貴族様は来る度に私に下卑た視線を向けてきた。


そしてご主人様がそのお貴族様と共にこの森を抜けた先にある国、ハマルに行くことになった。


ハマルは商売の国だ、なのでご主人様とお貴族様は新しい商売を始めようとハマルに向かった。


そしてその途中で馬車が止まり私は精神操作の魔法を受けた。


その後のことはわからない、意識が戻るとご主人様がいて、前のご主人様は亡くなっていた。


その時に私はなにも感じなかった、ただ服が乱れていて髪もボサボサになっていたから意識がない間になにかをされたのかもしれない。


(多分貞操は守られてるとは思うけど。)


ご主人様に言っても私が知らないから首輪も反応しないだろうから判断のしようがない。


(わからないからそれが嫌って言ってご主人様に頼めば…。)


私は右手でご主人様の服を掴んで、左手を顎に当て考える。


そんなことを考えていたら外が明るくなってきた。


「スイ?」


ずっとどう迫ろうか考えていたらご主人様が起きてしまった。


「おはようございます、ご主人様。」


私は今起きた風にして目を擦る。


「おはよう、おやすみ。」


ご主人様がまた眠りについた。


どうやら朝が弱いようだ。


(ご主人様の寝顔眺めてたのバレるところだった。)


ご主人様に嫌われたくないからバレて嫌われたくない。


(少しでも寝よ。)


私はご主人様がまた起きるまで寝ることにした。


「スイ、起きてるか?なんか来た。」


ご主人様が起きて私に問いかける、なにかが罠になにかかかったようだ。


「はい、確かに足音がします。」


足音が聞こえる、これは。


「カニですかね。」


「カニ?」


ご主人様が不思議そうな顔をしている。


「カニって森にいるのか?」


「え?はい。」


カニは森にいるものなのでなにも不思議に思わないけど、ご主人様はなぜか不思議にしている。


「そうか、カニって危ないか?」


「襲ってくることはほとんどないです、むしろ襲われる側ですね。」


カニは美味しいのでよく狩られている、カニは基本的に襲ってはこないけど、たまに襲ってくる個体もいる。


「こいつは襲ってくる奴みたいだな。」


確かにこのカニは周りのテントを壊して回っている。


「今日の朝ごはんはカニか、あんま好きじゃないんだよな。」


(?)


「ご主人様ってカニが危険かどうかは知らないけど食べたことはあるんですか?」


カニが襲ってこないのは結構常識だと思っていたけど、ご主人様は記憶喪失だから知らないのかと思ったけどカニを食べた記憶はあるらしい。


「いつか話す。」


「はい。」


ご主人様が今は話せないと言うなら私は話せる時がくるまで待つ。


「ちょっと見てくる、待っててな。」


ご主人様が起き上がり私の頭を撫でながら言った。


「はい。」


ご主人様に撫でられるのは好きだ、出来ればずっとやってもらいたい。


だけどご主人様は撫でるのを終わらせテントを出ていった。


「残念。」


私が悲しがっていると、ご主人様が帰ってきた。


「襲ってきたから倒したけど俺処理出来なかった。」


「ふふっ。」


私はつい笑ってしまった。


ご主人様が以外に天然だったので、かわいいと思い笑ってしまった。


「ごめんなさい。」


「いいよ、スイの笑顔はかわいいから。」


顔が熱くなる。


「うー。」


ご主人様に文句を言おうとしたら、声にならない声しか出せなかった。


「それもかわいい、じゃあカニも売るか、朝ごはんは昨日の黒パンかな。」


ご主人様は変わらず私にかわいいと言う。


私はもうご主人様と目が合わせられない。


「うー。」


私はまだ声が出せないのでご主人様に抱きついた。


「スイ、どした。」


ご主人様のことがまたわかった、鈍感だ。


「ご主人様、大好きです。」


私はご主人様に自分の思いを伝えた。


「そっか、ありがとう。」


ご主人様が笑って返してくれたけど多分わかってない。


「鈍感さんめ。」


ご主人様に聞こえない声で言う。


「ん?」


「いえ、なんでも、今日はこの森抜けましょう。」


私は急に恥ずかしくなってきたので誤魔化す為に話を変える。


「そうだな。」


ご主人様が私から離れてカニを収納した。


その後に私達はパンを食べて終えてから歩き始めた。


「道なりに進んでるけど道合ってんのか?」


ご主人様がすごい今更なことを気にしだした。


「多分合ってると思います、分かれ道がきたらわからないですけど。」


私もこの森は来たことがないので道はわからない。


「まぁ最悪は魔法でなんとかなるのか。」


ご主人様はサーチの魔法が使えるからそもそも道に迷うことがなかった。


「ご主人様はトゥレイスに着いたら冒険者になるんですか?」


冒険者の登録をすれば冒険者ギルドで依頼が受けられ、お金稼ぎが少し楽になる。


それに身分の証明にもなる。


今のご主人様は身分を証明するものがなにもないだろうからちょうどいいと思う。


「その国で登録だけして他の国に行ってもいいんだろ?」


「はい、少しは実績残しておいておくと次の国で楽になると思いますけど。」


冒険証にはこなした依頼が記録されるので、ある程度は実践を残しておいた方がいい。


「そうだな、じゃあそうするか。」


「はい、あ、見えました。」


そんな話をしていたらトゥレイスの城壁が見えてきた。


「ほんとだ。」


ご主人様が壁の上の方を見る。


「あれなに?」


ご主人様が壁の上を指さした。


「え?」


私がご主人様の指さした先を見たら、そこに誰かが立っていた。


「わからないです。」


まだ輪郭しか見えないからなんとも言えないけど、あんなことをする人は知らない。


「まぁ関係ないよな。」


ご主人様が気にしない様子でそのまま進む。


私もその後に続く。


そしてトゥレイスまで五十メートルぐらいになったところで。


「めんどくさいな。」


ご主人様がいきなりそんなことを言う。


「え?」


私がご主人様の方を見ると立ち止まったご主人様が上を見ている。


「よぉーいしょ。」


さっき壁の上で立っていたと思う男の人が飛び降りてきた。


「よう、お前らがアマリをやった奴らか?そうだよな、なんかやばそうだし。」


どうやらアマリさんの知り合いのようだ。


「知らん。」


ご主人様はしらを切るようだ。


「あいつはお前らに関わらない方がいいとか言ってたけど、あんな雑魚に勝ったぐらいでトゥレイスが舐められるのも嫌だから、俺と戦え。」


「嫌だけど、めんどくさい。」


ご主人様はそう言って歩き出した。


「確かその亜人に手を出すとお前は本気出すんだよな?」


そう言って私に近づいてきて拳を振り上げた。


「そいやっ。」


地面がえぐれた。


「お前に構ってやる時間はないんだよ。」


ご主人様が私をお姫様抱っこして助けてくれた。


「早いな、でも早いだけじゃその子は守れないよ。」


そう言ってまた私達に走って近づいてきた。


「そいやっ。」


今度は飛び蹴りをしてきた。


「じゃあな。」


ご主人様はそれを軽く避けてまた歩き出した。


ご主人様が手を出さないのは多分、私が言ったことを考えているのだと思う。


ここで手を出したらトゥレイスに入れなくなる可能性があるからご主人様はなにも出来ない。


「なんで避けられんだ?おい待てよ。」


また走って追いかけてくる。


「うざい。」


ご主人様も走って逃げる。


そして壁に着いた。


「止まれ。」


門番さんに止められた。


「くらえぇー。」


後ろからまた飛び蹴りをしてきた。


「ご主人様…。」


ご主人様の考えていることがなんとなくわかってしまって、言葉を失ってしまった。


「俺は悪くないからいいだろ。」


ご主人様がそんな言い訳をしているが、この後のことを考えると少し憂鬱になる。

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