第10話 頭を撫でさせてもらった

(あいつはなんなんだよ。)


魔獣討伐とカライト様の暗殺が行われるという情報があり、この森に私達盾が送られた。


そして森に着いたら抱き合っている不審な二人がいた。


声をかけたら魔獣は殺し、貴族様は魔獣に殺されたと言う。


近くにカライト様とは違う家の紋章の入った馬車の破片があり、それはカライト様の暗殺を行おうとした貴族様なのがわかり、とりあえずはこの二人から他の情報を得ようと行動を共にした。


二人は旅の途中で、この森を抜けようとしたところで魔獣に出会ったから殺したと言う。


正直信じられなかった、今回の魔獣の情報は熊だと言われたから冒険者ではなく私達盾が送られたのに、それをたった二人でなんて。


熊の魔獣は普通の軍なら三十人ぐらいの数がいてやっと倒せるレベルで、私達盾なら十人ぐらい必要になる。


でも、盾には隊長一人に一つの兵器が与えられている、それを使えば一人でも魔獣ぐらいなら倒せる。


だから正直な話では私一人いれば魔獣討伐はどうにかなった、でも部下を連れてきたのは兵器はコストパフォーマンスが悪いからあまり使いたくないからだ。


私の魔力量では、十分が限界だ、だから貴族様のいざこざが後にまわると厄介なことになるから部下を連れてきた。


そのせいで収納魔法のキャパシティがオーバーしてしまったから兵器は部下に運ばせた。


そして私はあの男がどうも信じられなかったので、テントに薬を充満させ男達を入れた。


その後、男を尋問したがカライト様のことは特に知らないようだったから、あの亜人の方に行った。


その亜人に手を出そうとしていた部下を殺して、亜人も魔石のことを知らないと言うので八つ当たりをしようとした。


そこまではよかった。


あの男が来るまでは。


入口を見張っていた部下は一撃でやられ、私もなにも出来ないでやられそうになり、兵器を使うにまで至った。


もしもの為に収納魔法を空にして兵器を入れてきたがそれも意味をなさなかった。


最期にあいつに一矢報いたかったので、亜人と重なったところを槍でついたがあの男には届かなかった、でもそれであいつの絶望した顔が見れればそれでよかった。


結果男を怒らせるだけだったけど、少しはあいつに嫌がらせが出来たなら満足だ。


一つ心残りがあるとすれば、あいつが怒りに任せてトゥレイスを滅ぼさないかが不安ではある。


あの国には、私以上に強い奴が後四人はいるが、多分手も足も出ないだろう。


私はもうなにも出来ないので後はもう成り行きに任せることにした。


私はもう耳も聞こえず、体も動かせない。


あの男には薬が効いていてもう死んでいるはずなのになぜか普通に動いている、それもおかしい。


今はぼやけながらに見える景色を見ている。


あの男がなにもない空間に話しかけているのが見える。


(やっと薬が効いて幻覚でも見だしたか?)


あの薬にそんな効果はなかったはずだけど、なにかの間違いで起こっているならそれでいい。


(もう終わりかな。)


私は目を瞑り最期の時を待つ。


(なんだ?)


最期の時を待っていたら、だんだん傷が癒えてくる感じがする。


少し感覚も戻ってきて耳も聞こえるようになってきた。


「これで、応急処置はいいですかね、わかります?」


目を開けると亜人とさっきの男が立っていた。


「なんで。」


意味がわからなかった、俺の傷を治してもこいつらになんの得もないはずだ。


「そもそも私達はあなた達がなにもしなければこんなことをしたくなかったんですよ、だからあなただけでも治して終わりにしようかなって。」


亜人が笑顔でそんなことを言う、一応嘘は言ってないようだ。


「そうですね、あなた達には勝てないのはわかったので、見逃してくれるのなら私はもうなにもしません、その代わりにトゥレイスにも手は出さないでください。」


私に条件を出す義理はないが、一縷の望みにかけて頼む。


「もちろんですよ、私達はなにもされなければなにもしません。」


「それならよかった、ところで君は自分の傷も自分で治せるのですか?」


この亜人の傷は癒えている、血の後もない。


「…、はい。」


一瞬、謎の間があったがとりあえずはそういうことにする。


(嘘は言ってないんだよな。)


「じゃあもう、私達には関わらないでくださいね、ご主人様は怒らせると怖いですから。」


亜人はとてもいい笑顔で怖いことを言う。


「わかってる、私はもう行きます、それでは。」


私は体を水に変えて、この部屋の抜け道から外に出た。


(あいつらには関わってはいけないことを国に伝えなくては。)


体を元に戻し国への道を進む。


(それを伝えたら、私は処分かな。)


魔獣は倒せず、カライト様も助けられず、挙句兵器も壊され部下も全滅。


「色々と間違えたな。」


と、今更後悔しながら歩く。




「行ったか。」


「はい。」


俺はスイに話しかける。


「これでよかったのか?」


「はい、これで普通に国に入れますし、国の中でなにか仕掛けられることも多分ないと思います。」


これまでのことは全部スイの考えを実行した結果だ。


最後にスイを抱き寄せた時にスイに軽く説明を受けた。


スイには能力を引き出す力があるようで、俺の能力を最初に抱き寄せた時に引き出したようだった。


その能力、魔法は幻惑魔法。


それをアマリに使ってスイが嘘を言ってもばれないようにするという。


だけど、幻惑魔法を使えることだけ聞いて俺はアマリを殺しに行ってしまって、スイが追いかけてきて間に入ってしまった。


その結果、スイに傷を負わせてしまった。


結果アマリを半殺しにして、後少しでスイの考えを無駄にするところだった。


スイには他人限定の回復魔法が使えるようで、それを俺が使えるようにしてスイを治した。


そして倒れているアマリに幻惑魔法をかけスイの姿を消した。


その状態でこれからのことを聞いた。


幻惑魔法でもう一人のスイを作り、それをアマリと話させ、本物のスイが話す。


そして、お互いウィンウィンな交渉をすると。


結果成功した。


「でも、結果的にあいつって死ぬよな。」


これだけの失態をして、ただで済む訳がない、殺されるかよくても相当な罰が課されるだろう。


「そうですね、それも狙いの一つですし。」


スイが人差し指を口元に当てながら言う。


「と言うと?」


「ご主人様、失礼なことを言いますけど、殺すだけではなにも解決しませんよ、ここで殺したら一つの国を敵にまわすことになりますし、そこから他の国も敵になる可能性もあります。」


確かにその通りだ、あいつが国の中でどれだけの地位なのかはわからないけど、そいつを殺したのが俺だとばれた場合、難癖を付けて俺に関わってきただろう。


そしてその国を滅ぼした場合、他の国にも俺のことが伝わってなにか仕掛けてくる可能性もある。


「だから、あの人はここで殺さない方がよかったんです。」


スイが胸を張りながらドヤ顔で言う。


(かわいい。)


「それに、ここで殺すより後で処罰されて殺される方が精神的に辛いかなって、まさにウィンウィンってやつです。」


スイがとてもいい笑顔で言う。


少し思っていたが、スイはいい性格をしている。


人を陥れることをなんとも思わないで出来る。


それに、あまり恐怖を感じないようだ、目の前で人が死んでも悲鳴どころか表情も変わらない。


変わるのは、頭を触ろうとする時だけ。


「スイって、頭を撫でられるの嫌いなのか?」


聞くのが憚られるが、これは聞いておきたい。


「はい、というよりかは、前のご主人様が私の頭を撫でた後に抱き寄せて、抱き枕にしたのが少しトラウマで。」


(結構ライトなやつだな。)


もっと深刻なやつかと思ったが、軽めのやつで安心した。


「じゃあ俺がスイを抱き寄せたのは嫌だったか、ごめん。」


さっきの戦いの中で、スイを抱き抱えて守っていたのは我慢させていたのかもしれない。


「いえ、初対面だと怖いだけでご主人様なら同衾までなら。」


スイが恥ずかしがりながらそんなことを言うが、別にそんなことをする気はない。


「ならよかったよ。」


「同衾まででいいんですか?」


「そっちじゃない。」


スイは少しズレているのかもしれない、それか奴隷の常識が染み付いているのかもしれない。


「そうですか。」


なぜかスイがしょんぼりとする。


「それより、早く出よう。」


もうここにいる理由はないのでさっさと出たい。


「はい、あ、体は大丈夫ですか?」


「ん?ああ別になにも攻撃受けてないし。」


俺は攻撃をなにも受けてないから心配されることはないはずだ。


「違くて、薬の効果は消えてますか?」


「なんのことだ?」


(薬の効果なんてとっくに切れているはずだが。)


「あ、聞いてないですか?あの薬って人には早く効く毒みたいなものらしいですよ。」


「へー。」


特に体に異変はない。


「一応解毒の魔法をかけておいたんですけど、効いてよかったです。」


(出来る子すぎて怖い。)


あの一瞬で毒なのがわかり俺に解毒の魔法をかけたらしい。


「ご主人様にかけただけで私にはかけられなかったですけど。」


「自分を優先しろよ。」


俺を助けてスイが死んだんじゃ報われない。


「ご主人様が信じろって言ったので、ご主人様が助けてくれるって信じて、ご主人様に魔法をかけました」


「そっか、ありがとう。」


俺は恐る恐るスイの頭に手を伸ばす。


するとスイが俺の手を取り自分の頭に俺の手を乗せた。


「大丈夫か?」


スイの表情が見えない、拒絶されたらもう一生スイの頭を撫でることは出来ないだろう。


「えへへ。」


スイはとろけた顔をしている。


(かわいいかよ。)


抱きしめたい気持ちを抑えながらスイの頭をしばらく撫でた。


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