第8話 圧倒しすぎてしまった
「なにあの『ヒーローは遅れてやってくる』みたいなの、狙ったの?」
リン君が捕まった理由を見て少し腹が立ったけど、スイちゃんを助けに来たところでスカッとした。
「狙ってたらクズだろ、あの亜人に絶対の信頼を持たせる為にそこまでやるとか、あいつならやらない。」
クロガネ君はリン君のことをよくわかっている、私もリン君のことは紙で見たから少しはわかっている、あの子は根がいい子だから自分が信じると決めた子は見捨てない。
(そのせいで一回いじめを受けたらしいけど。)
それもやり返して逆に不登校にしたみたいだけど。
「その悟ったみたいな目やめろ、うざい。」
クロガネ君に睨まれた。
「でも、リン君あの世界に行って三時間も経ってないのになんであんな戦い慣れてるの?」
クロガネ君に勝てる気がしないのでさりげなくリン君のことを聞く。
「別に適当だろ、今はキレてるからただ相手の嫌がるところに攻撃してるだけだろうし。」
核心に迫ることは教えてくれなかったけどもっとすごいことを聞いた気がする。
「センスがすごいな。」
リン君にあげたスキル『自然体』能力は常に自分であり続ける。
今聞いてもよくわからない、でもこれがなにかしらリン君のあの戦闘センスに関係してる気がする。
「そういえば、あいつ他にスキルないのか?」
クロガネ君が私に初めて自分から質問してくる。
「ん、あーそっかもしかしたらあるかもしれないのか、見てみる。」
リン君のあの世界での紙を見る。
これにはリン君があの世界に行ってからのことや、ステータスが書いてある。
「なんで最初に見なかったんだよ。」
「忘れてた。」
クロガネ君に呆れながら聞かれたので正直に返したらもっと呆れられた。
正直リン君が予想外すぎて呆気に取られた。
とりあえず私は紙を見る。
「!やば、ステータス、魔力以外平均値じゃん。」
やっぱり魔力だけしか高くない、なのにあの強さはスキルのせいだ。
「スキルはと、『自然体』と『効率的』?なにこれ。」
スキルはそもそもがもっとわかりやすい名前のはずなのにリン君は変なものばかり付いている。
「『自然体』だけでも変なのに『効率的』って。」
「それが言葉通りの効果なら、あいつは目で相手の弱いところ探して効率的に攻撃をするってことだろ、スキルがその人間の内面から作られるなら納得だろ。」
クロガネ君が説明してくれたけどよくわからない。
「ようは、あいつの目はスキルの副産物で、魔法覚えるのが早かったのは効率よくするスキルのおかげってことだよ。」
私が不思議そうな顔をしていたら、クロガネ君が苛立ちながらも説明してくれた。
(根は優しいよね。)
言ったらもうなにも言ってくれなそうだから言わないけど。
「そういう、じゃあ『自然体』は?」
説明ついでに聞いてみる。
「さぁな、そっちはあいつが選んだスキルだからあいつとは関係ないものだし、それよりさっさとあいつがどうやってたどり着いたか見ろよ。」
クロガネ君はもう話は終わりとモニターに視線を向ける。
「わかった、じゃあ一緒に見ようか。」
「しばらく静かにしてろよ、うるさくて集中出来ない。」
クロガネ君がモニターを見ながら私に言う。
「わかったよ、じゃあ始めよう。」
そしてリン君が捕まっている画に変わる。
(殺す、絶対に殺す。)
リーダーの男が出ていった扉を睨みながらあいつへの殺意をぶつける。
「おー怖、隊長も恨まれたな。」
近づいてきた十人の部下の内のチャラついた感じの男が口を開く。
「まぁ、お前がいくら隊長を恨んでもお前はここで死ぬんだがな。」
チャラそうな男は俺の目の前まで近づく。
「お前も焦ってんだろ、その拘束具は魔力を使えなくするからお前じゃ解けないだろ、お前、見た目的に魔法使いっぽいし。」
この男はベラベラとよく喋る。
「でも、魔獣を倒せるくらいだから相当やるんだろうってその拘束具も持ってきた五本の内の四本も使ってるんだぞ、だからお前が魔法を使えることはないから諦めろ。」
言いたいことは終わったのか、男は少し離れる。
「でも、念には念だ、お前は魔法で確実に遠距離で殺す。」
そうして周りの五人とその男の合計六人で俺に手を向ける。
「合わせろ、サンダーボルト。」
男に合わせて他の五人も他の属性、火、水、風、土、氷の魔法を撃ってきた。
どーん
そして俺に直撃する。
「呆気ないな。」
「助かるよ。」
「!」
俺は一言礼を言って男達に近づく。
「なんで、無傷なんだよ。」
俺には多少の土煙がついているだけで傷は一切ない。
「悪いけど俺にそんな弱い魔法は当たらないから、漏れ出る魔力で相殺するみたいで。」
俺は今の攻撃で少し落ち着いたみたいだ。
(まぁ、あいつを見たらどうなるかわからないけど。)
「は?相殺とか出来る訳ないだろ、そもそもお前の魔力は封じてあったんだぞ。」
さっきの男がキレている。
「縄抜けなんて初歩の初歩だろ。」
俺は前世でいじめを受けていた時、縄で縛られたことがあったのでその時に縄抜けを覚えた。
(まぁ、縄抜けがやってみたくてわざとやらせたんだが。)
「でも、久しぶりで結構時間がかかったけどな。」
縄抜けが出来たのは魔法を食らう直前だった。
「ありえないだろ、囲め、前に近接、後ろから魔法をぶち込め。」
「作戦って相手に聞こえちゃ駄目なんじゃないのか?」
「うるさい黙れ、やれ。」
男の号令で前衛の男達四人が俺に向かってきた。
「悪いけどいちいち相手する時間ないから。」
俺は実験も兼ねてさっき見た六属性の魔法を同時展開して周りに放つ。
「は?」
どーん
さっきの比ではない量の土煙があがる。
「室内でやることじゃなかったな。」
なんだか少し空気が薄くなった気がする。
「よし、ものは試し。」
俺はさっき覚えた収納魔法を使ってみる。
辺りの土煙を収納していく。
部屋内の土煙を全て収納して辺りを見る。
(上出来。)
さっきのチャラそうな男以外は多分死んだ。
「かはっ、なんなんだよあいつ。」
「おい。」
俺はその男に話しかける。
「な、なんだ。」
男は恐怖の目を俺に向ける。
「お前の隊長?はどこ行った。」
あいつを思い出すだけで腹が立つ。
「ひっ、この部屋を出て左に行、がはっ。」
男が嘘をついたので衝撃魔法を死なない程度に撃つ。
「一ついいこと教えてやる、俺はあいつと同じ魔法が使えるから嘘はわかるからな。」
この魔法は便利だ、相手の心の揺らぎが見える。
嘘をつくと普通は少なからず動揺するその揺らぎを見るとこが出来る。
でも、これの駄目なところは相手がそれを嘘だと思ってないとわからないこと。
だからあいつは俺の嘘に気づけなかった。
「おい、黙るなよ、そうだこうしよう、多分俺を連れてったらあいつに殺されるんだろ?だったら俺を連れてってくれたらあいつから守ってやるよ、で、連れてかないならお前をここで手足ちぎって放置する、どっちがいい?」
俺はできるだけ優しく聞く。
優しく聞いたのに男は顔を青くしている。
「お前は隊長に勝てるのか?」
(揺らいだ。)
「ああ、勝てる。」
そもそも負ける気で挑むことはしない。
でも、正直わからない、あいつはこいつらとは毛色が違う。
「わかった。」
男はゆっくりと立ち上がり、歩き出した。
俺は男について行き曲がり角で違う道を選ぶ度に生傷を増やしていった。
そして、だいたい二分くらい歩いたところの部屋の前で止まった。
「ここか?」
「ああ、俺はもういいだろ。」
男は満身創痍なので壁に背を預けている。
「ああ、もういい。」
俺は男の体と首を二つに分ける。
「助かったよ、ありがとう。」
俺はこいつらを許す気はない、こいつはここまで連れてきたからすぐ殺したけど、ほんとはもっと残酷に殺したかった。
(俺ってこんなんだったか?)
少なくとも死ぬ前まではもっと普通だったはずだ。
ただちょっと嫌いな人間の人生を少し狂わせたぐらいだ。
(この世界だと人が簡単に死ぬからか。)
まぁそんなことはどうでもいい。
俺は壁に手を当てて中の様子を探る、ことが出来ればよかったけどすぐ出来ないなら諦める。
俺は扉を開けて中に入る、目の前に三人いたので火と水を土で囲んで両手で二人にぶつける。
触れた瞬間に土が爆ぜ二人を吹き飛ばす。
そしてすぐもう一人にも同じことをする。
(適当にやったけど上手くいくもんだな。)
そんなことを思っていると、隊長と呼ばれていた男がスイになにかしようとしていた。
俺はそれを見た瞬間に今まで忘れてた怒りの感情がまた湧き出てきた。
その後スイの隣に身体強化をして飛び、隊長の男のみぞおちを殴った。
「スイ、俺から離れるなよ。」
俺は膝を折ってスイの目線に合わせてスイに言う。
「はい、もう離れません。」
そう言って俺の手を握ってきた。
「背中ががら空きですよ。」
隊長が俺に斬りかかってきた。
手にはスイの前の主人の持っていた脇差を持っていた。
「黙れ。」
俺は振り向きざまにかかと蹴りを男の脇腹にいれた。
「ぐぁ。」
脇差が俺の足元に落ちる。
「くそが、少し本気を出してやるよ、はっ。」
男の手から水のムチが出てきた、それを俺の足に目掛けて打ってくる。
俺はそれに対して雷の魔法で対抗する。
「くそ。」
雷が触れる直前に男はムチを引いた。
「なら、はぁぁ、はっ。」
今度は大量の水が俺に向かって飛んでくる。
(ここに雷撃ったら俺にも来るよな、なら。)
俺は大量の炎を魔法で撃ち込む。
俺の使う魔法はまだその属性を出すぐらいしか出来ない、一応は最初に見たファイヤーアローと、さっきみたサンダーボルトなどは使えるけど俺にダメージを与えられない魔法なんて使って効果があるとは思えないから単純な俺の魔力をぶつける。
炎と水は相殺された。
「くそ、だったら。」
また同じ魔法を撃ってきた。
「芸のない。」
俺は同じように大量の炎をぶつける。
「そう来るか。」
魔法を撃った瞬間に走り出し俺の真隣に接近していた。
「死ね。」
男が腕を伸ばして俺に触ろうとした瞬間に、俺は空いている手で衝撃魔法を撃つ。
「な。」
男は壁に衝突する。
「無詠唱まではまだわかるが、魔法の同時展開だと。」
「なにを驚く、お前もやってたろ。」
もう俺の心は冷めている、想像以上の弱さで、つまらない。
「俺がやったのは魔法を撃って展開を終わらせてからまた新しく魔法を展開しただけだ、それだって出来るのはトゥレイスでも五人しかいないのに。」
(無詠唱がすごいんじゃなかったのか?)
最初にスイを襲っていた貴族の従者が無詠唱は国で一人いるかいないかと言っていたからすごいことなのかと思ったけど。
それ以上のことが出来るのが五人もいるらしい。
「でも、二個目の魔法って収納魔法だろ、なにする気だったんだよ。」
「ご主人様、多分あれです。」
スイが俺の服を引き、一つの死体を指さす。
「なるほど、頭を収納して出す、それで死ぬんだ。」
一番簡単な殺し方な気がする。
「ふー、わかりました、私じゃあなたに勝てない、だからズルをしますね。」
男が収納魔法を発動して中から兵器を取り出した。
(やっぱり、しまえたんだ。)
あの男は心の揺らぎが少なく嘘がわかりにくい、だからなんとなくは俺らになにかしようとしてたのはわかってた。
だけど、もう少し後かと思っていたからこんなことになってしまった。
(まだ俺は人を信じようと思っているのか?)
そんなことを考えているうちに兵器が全て出てきていた。
「本来は魔獣を殺す為に持ってきたものですけど、あなたが魔石を持っているなら同じことですよね。」
そして男は兵器にかかっている布を取る。
兵器と言うのは布越しでもなんとなくはわかったけど、ロボットだ。
一人用の二メートルぐらいのロボットがそこにある。
「承認しろ、我が名はアマリ。」
(アマリって言うんだ。)
とても興味がないのでどうでもいいけど、名前を言ったらコックピット部分が開いた。
「これで終わりだ。」
アマリがコックピットに入り俺に言ってくる。
(かっこつかねぇー。)
そんなことを思い、第二ラウンドに挑む。
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