第7話 諦めなかったらいつかは…
「ほらほらー、名前教えてよー、約束したでしょー。」
自称神が俺のことを煽ってくる。
確かにあいつは俺に一撃与えた、俺がリンの奴が捕まったのを見ていた時の一瞬の隙をついて。
一撃といっても、魔法の雪を降らせていたのを俺が見逃して一つだけ当たってしまっただけだが。
ずっと俺の魔力で雪を弾いていたけど俺がリンに意識を取られた瞬間に魔力を消された。
「わかってるよ。」
でも一撃は一撃、その後に自称神が油断した隙に一撃で伸したので勝負自体は俺の勝ちだ。
「ほらー早く、私もリン君がどうなってるのか気になるんだから。」
多分こいつはリンが捕まったりしてることを知らない。
(知ったらまたうるさくなるんだろうな。)
「まぁいいや、俺の名前はクロガネだ。」
「うわ、厨二くせー。」
(絶対に言うと思った。)
「別に俺が付けた訳じゃねぇよ。」
ついた理由は知らないけど俺のことをそう呼ぶ奴がいたからそう呼ばれるようになった。
「クロガネね、わかった今度からそう呼ぶね。」
自称神がすごいにやけづらで言ってくる。
(ウザっ。)
「それよりいいのか、あいつのこと見なくて。」
俺はそう言ってリンの奴の映るモニターみたいなものを親指で指さす。
「そうだった、今はどうなっ。」
自称神の言葉が止まる。
顔を見るととても驚いた顔をしていた。
「なんで捕まってんの?やばくね。」
そう俺に聞いてくる。
「なんで、か、薬で眠らされたから、やばいかどうかは知らん。」
俺は今のあいつがどの程度出来るかは知らない、だからあれがやばいかどうかはわからない。
「結ばれてるあれ、多分魔力封じてるよね、リン君って魔力重視のステータスだからあれ解く方法ないよ?」
「俺に聞くなよ、まぁどうなるかは見てればわかるよ、でもあの亜人の方見てる方がおもしろいと思うけど。」
(あいつはスイを守れるのか見たいしな。)
「わかった、じゃあ見るのはスイちゃんにする。」
そう言って画面が変わる。
(なんかここだけこの空間に比べてアナログな気がする。)
そんなことを思いながらあいつらのこれからを見る。
「おい、起きろ。」
私はとても怖い声で起こされた。
目を開けるとさっきまで森の中のテントにいたはずなのに今は見覚えのない地下室のような場所に拘束されている。
そして目の前には知らない男の人が四人いる。
「起きたか、気分はどうだ、まぁ話すことが出来ればそれでいいが。」
男の人の内の一人で周りの人とは違って優しそうな顔をしている。
私を起こした怖い声とは違う声だ。
「ご主人様はどこに?」
私は辺りを見回してご主人様がいないことに気づきその男の人を聞く。
「あー、あの人はうちの隊長が相手してるよ、まぁ隊長がこっちに来る頃には死んでるだろうけど。」
男の人は淡々と私に告げる。
なんとなくだけどこの人達はさっきの騎士さん達な気がする、さっきの野営の準備の時に聞こえた声の中にこの人に似た声がいたと思う。
「ご主人様が。」
あまり驚かない、私はご主人様を信じると決めたから。
「あれ?もう少し動揺するかと思ったのに。」
男の人が不思議そうな顔をする。
「まぁいいです、じゃあ本題であなたは魔石を持っていますか?」
(魔石、ご主人様が倒した魔獣の?)
「持ってないです。」
あの魔石はご主人様が持っている、そもそも私に持たせる意味がない。
「そうですか、私は紳士なのでいくら亜人でも女の子の身体調査はしたくないんですよね。」
そう言いながら男の人が近づいてくる。
そして私の目の前に着いたところで、私の髪を乱暴に掴んだ。
「でも、奴隷なら関係ないですよね。」
「あっ。」
痛い。
髪を掴まれると思い出してしまう、前のご主人様のことを。
そして男の人が私の服を手を伸ばしたところで。
「おい、なにしてる、まだそれに手を出していいとは言ってないぞ。」
入口の方からまた新しい人が入ってきた。
「隊長。」
私を掴んでいた男の人が慌てて髪から手を離して隊長と呼ばれた人を方を向く。
「私は待てって言ったよな、後でやるから魔石を持ってないことが確認されるまでは待てと。」
隊長さんはすごい落ち着いているように見えるけど、どこか怖い。
「でも、こいつは持ってないと言ったので身体調査をしようと。」
私を掴んでいた男の人が額に汗を流しながら答えている。
「お前はやりすぎるから私を待てと言ったよな。」
隊長さんが静かに近づいてくる。
「それは、はい。」
男の人はすごい量の汗を流している。
「まぁでもしょうがないよな、お前は亜人を使うのが好きだから。」
隊長さんが男の人の肩に手を置きながら言う。
「はい、亜人は人と違って体力もありますし、多少のキズならすぐ治るので少しハードなことをしても死にはしないですから、それで精神を削っていって最後に殺してくれと言ってきたら死ねないようにしてしばらく放置する、そしてまた少し使った後に今度は腹を空かせた獣の巣に捨てる、散々死にたがってたのにその時になると私に助けてくれと言う、それを無視した時のあの亜人の顔を見るのが最高なんですよ。」
(酷い。)
男の人は興奮しながら長々と話す。
隊長さんもなにも言わないで聞いている。
「おい。」
「はい、なんです?」
隊長さんがとても怖い声を出す。
男の人はそれに気づいていない。
「誰がそんなくだらないことを聞きたいと言った?」
「あっ。」
そこで男の人は隊長さんが怒っていることに気づく。
「なあっ。」
隊長さんが男の人を壁に投げ飛ばす。
「かっ。」
男の人が血を吐く。
「お前のくだらない性癖なんて俺は興味ないんだよ。」
隊長さんが男の人に近づく。
「ひっ、すいません、私は。」
「言い訳はいい、魔獣を殺しに来て隊の誰も死なないのはいいことだが、一人ぐらいは死んでもしょうがないよな。」
そして隊長さんが男の人の頭に手を置く。
「すいま。」
そこまで言って男の人の頭が消えた。
そしてすぐ頭が出てきた。
「まったく無駄な仕事を増やして。」
隊長さんが今度は私に近づく。
「いや、悪いな時間を取った、で、お前は魔石を持ってないと。」
隊長さんは何事もなかったように私に話しかけてくる。
「は、はい。」
この人は怖い、正直話したくない。
でも聞きたいことがある。
「あの、ご主人様は?」
さっきの人はこの人が来たらご主人様が死んでいると言っていた。
だったらこの人ならご主人様が今どこにいるか知っているかもしれない。
知ったところでなにも出来ないけどそれでも。
「さぁな、そろそろ死ぬ頃じゃないか?私の部下十人にサンドバッグにされてるから。」
(じゃあ、まだ生きてる可能性が。)
ご主人様なら、魔獣をあんな簡単に倒してしまうご主人様ならきっと。
「まぁ、それだけじゃなくてお前達のテントに仕掛けた薬は眠らせるだけじゃなくて後から効いてくるタイプの毒なんだよ、亜人には効きにくいけど人だったらそろそろ死ぬ頃だ。」
(え?)
私はそれを聞いて呆然とする、戦いなら多分ここの誰よりもご主人様が強いはずだけど毒なら対策のしようがない。
「でも、お前が魔石を私に渡すならこの解毒薬をあの男に飲ませてもいい、ついでにお前達がトゥレイスに来ないことを契約魔法で契約するなら解放してもいい。」
(魔石さえ渡せば。)
でも、それは出来ない、私はそもそも魔石を持っていないから。
もう私にはどうしようもない、やっと信じることの出来る人に拾ってもらったのに、私はその人に何一つお返しも出来ずに死んでしまう。
「どういうことだ?なんでお前も持ってない、隠した?いやそれでもわかるはずだ。」
隊長さんがいきなり独り言を言い出した。
「確実に持っているはずだ、あいつが懐にしまってからは一度も出してないはずだから。」
隊長さんが私をチラリと見る。
「質問します、あなたは魔石の在り処を知っていますか?」
「知らないです。」
私はもう頭が回っていない、ご主人様が死んでしまうそれだけしか考えられない。
「知ってはいるけど、私達と同じか。」
隊長さんはなぜかなにも言ってないのに一人で納得してしまう。
「くそが、魔石がなかったら俺の立場が。」
隊長さんは気が動転すると一人称が私から俺になるようだ。
隊長さんが私の方を睨む。
「魔石を持ってないならあなたはいらないですよね。」
隊長さんがすごく冷たい目になる。
(私も殺されるんだ。)
最期にご主人様に会いたかった。
(いや、私はご主人様を信じるって約束したんだから、死ぬその時までご主人様を信じて諦めない。)
「へー、目に生気が戻ったね、でもどうしようもないよ、私の八つ当たりの相手になっ。」
どん。
「がっ。」「ぐっ。」
入口がいきなり爆発した。
入口に立っていた三人の内二人が飛んできた。
「な、なん、がっ。」
最後の一人も喋っている途中で飛んできた。
「なんだ。」
隊長さんが入口の方に叫ぶ。
入口に人影が見える。
(諦めないでよかった。)
私の頬に涙が伝う。
「約束通りお前を殺しに来た。」
ご主人様がとても怖い顔をして入ってくる。
「へー、よく逃げてこれたね、ほんと使えない奴らだよ。」
隊長さんはあまり驚いた様子はない。
「スイ、なにもされてないか?」
「!」
ご主人様がいつの間にか私の隣にいた。
隊長さんがやっと驚いた。
「はい。」
ご主人様が私の拘束を解いてくれた。
「へー、なかなかやるじゃんでも、私には勝てな、かはっ。」
ご主人様の拳が隊長さんのみぞおちに入る。
「黙れ、お前と話をしにきた訳じゃない、俺はお前を殺しに来ただけだ。」
とても怒っているのにご主人様は怖くない、ずっと一緒にいたいと思えるくらいだ。
そしてご主人様と隊長さんの戦いが始まる。
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