第6話 捕まってしまった

「あれ気づいてないよね、リン君。」


「なにを。」


俺と自称神は少しスペースをあけてリンの奴を見ている。


「スイちゃんすごい顔真っ赤じゃん、あれもう好きになってる顔だよね。」

めんどくさい話だった。


「知らん。」


俺は男女の色恋にはもう関わらないと決めたので流す。


「酷、まぁいいや、それよりあれって嘘発見器の簡易版みたいな魔法だよね、なんでバレなかったの?」


また自称神のなんでが始まった。


「現にやってないだろあっちは。」


「?」


リンの奴は俺と僕で性格だけじゃなくて思想も変わる。


俺と言っているリンがあの貴族を殺したけど、僕と言ったリンは殺していないようはそういうことだ。


「リン君って多重人格なの?」


「いや少し違う、あいつの元は僕の方だけど自己防衛の為に俺の人格を自分で作っただけだ。」


(正確には出来ちゃったってのが正しいけど。)


「それを意図的に使い分けてるって?それでも記憶は変えられないでしょ、あの魔法って多分相手の心の揺らめきを見るみたいな魔法だと思うし。」


「出来るぞ、あいつなら。」


あいつは生まれつきなのか記憶を覚えたり忘れたりを自由に出来る。


「何者?リン君って。」


自称神がこっちを向いて聞いてきた。


「俺はあいつの二年しかしらないし、そもそも教えてほしいなら俺に勝ってからにしろ。」


まだこの自称神は俺に一撃すら与えてない。


「だって君もチート級なんだもん、この空間で私に勝てるとかおかしいでしょ。」


「いや、お前が強くなるだけなら別に関係ないだろ、俺にデバフぐらいかけろ。」


かけてたのかもしれないけど気になるものはなかった。


「じゃあラウンドツーだ、今度は攻撃当てて名前を教えてもらう。」


「目標が低いな、そんなんじゃ一生勝てないぞ。」


(こいつの一生は死なないだろうからずっとになるけど。)


「今度は舐めてかからないから。」


そう言って構えをとったので俺は立ち上がって自然体で待つ。


そしてラウンドツーが始まった。




俺とスイは騎士の後に続き森を歩く。


騎士は全員で十五人だ三人で前衛をして、後衛に三人、八人で大きな荷物を持っている。


そして俺に話しかけてきたリーダーっぽい奴で十五人だ。


(あれが兵器ってやつか。)


騎士達はあの魔獣を倒しに来たそうでその為にこの兵器を持ってきたそうだ。


「それにしても、どうやってあの魔獣を?」


リーダーの騎士が俺に話しかけてきた。


「元から弱っていたので大したことはしてないですよ。」


どうやら魔獣をソロで倒すのは異様なことのようなので嘘をついて切り替える。


「なるほど、なにかで弱って気が動転して暴れていたんでしょうか?」


「どうでしょう。」


そんなことを聞かれても困る、あれがほんとに弱ってた可能性もあるし弱ってなかったかもしれない、基準がわからないから判断が出来ない。


「ところで奴隷を連れてここになにを?」


リーダーの騎士がスイを見て聞いてくる。


「旅の途中です。」


俺の今やっていることは多分大まかに言えば旅になるから嘘は言っていない。


「なるほど、でもそれにしては荷物が少なくないですか?」


痛いところをつかれた、だがそれぐらいでは動揺はしない。


「実は魔獣に襲われた時に荷物を全て無くしてしまって。」


言った後に切り替える。


「なるほどそれは不幸でしたね、でもその魔石を売れば無くしたものを買い直すくらいは出来ますし。」


この魔石一つで家が建つらしい。


平民の道具ならだいたい高くて銀貨五枚ぐらいらしいので大抵は揃う。


この世界の金の数え方は日本と同じで銅貨十枚で銀貨一枚、銀貨十枚で金貨一枚、金貨十枚で大金貨一枚となっていくようだ。


こういう一般常識は歩きながらスイに教えてもらった。


「それよりもう暗くなりそうなのでそろそろ野営の準備をしましょう。」


この森は相当広いのかもう二時間近く歩いているけど未だに出られない。


「あ、もちろん準備は私達が全てやりますよ、見張りも。」


そう言って周りの騎士達も準備を始めた。


どこに野営の道具を入れてるのかと思ったらリーダーの騎士の人がなにもない空間から野営道具を取り出した。


「収納魔法ってやつですか。」


とてもいい魔法だ、旅にうってつけの魔法だ。


「はい、でも大きいものは入らなくてアレとかは入らないんですよ。」


そう言って布の被った兵器を指さす。


「でも、野営道具が入るなら便利じゃないですか。」


俺はそう言って魔力の流れを見ておく。


「そうですね、じゃあ準備を始めるのでお二人は少しのんびりしていてください。」


そう言ってリーダーの騎士は他の騎士と一緒に野営の準備を始めた。


「スイ、座るか?」


「はい、そろそろご主人様の負担になりますし。」


そんなことはないけどスイに罪悪感を覚えさせるのも悪いのでスイを下ろす。


「スイ、一つだけ約束出来るか?」


「私はご主人様の言うことならどんなことでも。」


スイが俺の方にわざわざ座り直してくれた。


「ありがとう、じゃあこれからどんなことがあっても俺を信じて諦めないでくれ。」


「?はい、もちろんです。」


スイが不思議そうな顔をして了承してくれた。


「ありがとう。」


俺はスイにお礼を言って二人でのんびり野営の準備が終わるのを待つ。


しばらくして準備が終わり、リーダーの騎士に呼ばれたのでスイと共について行った。


「まず、ここがお二人のテントです、ご自由にお使いください。」


そこには前世でもよく見た三角タイプのテントがあった、大きさ的に三人は入れそうだ。


「でも僕達が使ったら足りなくなるんじゃ。」


現にテントの数は五個しかなく、俺達が使ったらギリギリになるか三人入れなくなる。


「大丈夫です、見張りと入れ替わりで使うので。」


確かにそれなら数は足りる。


「それならありがたく。」


「はい、それと夕飯ですけど後一時間ぐらいしたら出来るので、また呼びに来ます。」


そう言ってリーダーの騎士が帰って行った。


「入るか。」


俺は背中のスイに話しかける。


「はい。」


中に入ると独特な匂いがした。


テントなんて初めてなのでこれが普通なのかもしれないけど。


(一時間あるならその間にスイに色々聞けるかな。)


そんなことを思ってスイの方を見ると。


スイの目がとろけている。


(エロいんだよ。)


とてもなまめかしい。


俺もなんか変な感じになる。


「いや、そういうことだよな。」


スイはその場に倒れる。


「ごめんなスイ、待っててくれ。」


そう言って俺の意識も途絶える。


目が覚めると真っ暗な地下室のようなところに監禁されていた、手足を結ばれ椅子に固定されている。


どうやらあのテントになにかの薬かなにかを撒かれていたようだ。


俺とスイは眠らされどこかに連れてこられたみたいだ。


でも近くにスイの気配はしない、するのは。


「お目覚めですか。」


最近よく聞いた声が部屋に反響する。


「どうしました?顔が怖いですよ。」


薄ぼんやりとした明かりで近づいてきてやっと顔が見えた。


「スイはどこだ。」


リーダーの騎士が俺の前に立っている。


俺は怒りを隠さずスイの居場所を聞く。


「どこでしょうね、私と一つ取り引きをしてくれたら教えてあげてもいいですよ。」


リーダーの騎士がにやけながら言ってくる。


(殺す。)


今明確に殺意が芽生えた。


「おお怖い、まぁ取り引き内容ですけど、あなたの持つ魔石をください。」


リーダーの騎士が手を差し出しながら言ってくる。


「いえね、私達は騎士などではなくあの森を抜けた先にあるトゥレイスという国の盾という組織で、国を守ることが私達の役目なんですよ。」


森を抜けた先の国の名前ぐらいはスイから聞いているけどそんな組織があることは聞いていない。


「だから私達は国からの命であなたの殺した魔獣を殺しに、その為に兵器まで持たされて。」


(話が見えない、魔獣が死んだのならそれで帰ればいい。)


「魔獣が死んだのならそのまま帰ればいいとか思ってます?それだとあなたという不安要素が残る、魔獣をたったの二人だけで殺すことの出来る奴がトゥレイスに来ようとしている、そんなの止めるでしょ。」


言いたいことはわかる、確かに俺はこの世界からしたらおかしいのかもしれない、けどそれは俺には関係ない。


「それに、さっき魔石を探すついでに身体検査をしたら魔石の代わりにこんなものが。」


そう言ってスイの前の主人の遺品である脇差を見せてきた。


「これはカライト家の家紋だ、これをなぜあなたが持っている。」


「拾った。」


正直こいつとは話したくないけどもしスイになにかあったら困るのでとりあえず言うことを聞く。


「嘘は言ってないな、じゃあ最後に魔石はどこだ。」


(こいつらは貴族に興味がないようだ。)


「お前らは俺の持ち物を確認したんだろ。」


確かに俺は今魔石を持ってはいない。


「あの亜人の奴隷に渡してるならそれはそれでいい、私はそちらに行く、うちの組織には亜人が大好きな人がいてね、壊れるまで遊んで捨てるのがいいみたいで、だからあの亜人から魔石を回収したらその人に渡しますね、可哀想に。」


「調子に乗るなよ、お前は絶対に殺す、なにがあっても殺す、覚えとけ。」


俺は盾のリーダーを睨みつけながら静かにキレる。


「怖い怖い、お前達見張ってろ。」


後ろで控えていた十人の部下に命令する。


「別になにしてもいいから、殺してもいいよ。」


そう言ってリーダーの男は部屋を出ていった。


(絶対に殺す。)


俺は今まで出したことのない程の殺気が盛れた。

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