第5話 初めて処分をしました

「いや、さすがにおかしいでしょ。」


(こいつうるさいな。)


あいつ、今はリンの奴がなにかする度にこんなことを言う。


「私もある程度はあの世界を見てしってるけどあの魔獣のクラスはあの世界で統率のとれた人が三十人ぐらいいてやっと倒せるかってぐらいのレベルなのに、蹴り一発で吹っ飛ばして、ただの魔法弾で絶命なんておかしいでしょ。」


この自称神はよく表情が変わる、今も不思議そうな顔になったり、焦った顔になったりと忙しい。


「お前がそういうステータスにしたんだろ。」


確か最初にステータスをいじるとか言っていた。


「ああそれね、それだって少し高めにしただけであそこまで強いはずはないんだよ。」


確かにカンストとかは出来ないとは言っていたからそこそこなのはわかる。


「なのにあんなに強いなんて…。」


自称神が言葉を失っている。


「センスってか。」


あいつはなにをどうすればいいのかの察しがいい。


前世でも弟から画像が送られてきただけでやるべきことがわかったように。


「確かにそうとしか言えない、リン君のスキルもよくわからないものだったし。」


「なんでお前が知らないんだよ。」


あの世界はこの自称神が作ったと言っていたクセになにも知らない。


「私は世界と概念を作って、人と亜人、魔族を数人、普通の動物を数等作っただけで後は全部世界の中でスキルも出来ていたから私は基本あの世界のことはわからないんだよ。」


「ほんと使えないな。」


自分で作った世界を中の奴に任せたせいで自分じゃなにも出来なくなり、結果的にあいつに全投げ。


「まぁ、人選はいいけどな。」


「え?」


(そもそもの話あいつならあれぐらい普通にやって当たり前だからな。)


自称神が俺の続きの言葉を待っていたが無視して、続きを見る。




俺がスイのところに戻るとスイがとても驚いた顔をしていた。


「どした?」


「いや、あの、魔獣をあんな簡単に倒してしまって頭が上手く回ってない感じです。」


スイが頭を抱えながら言う。


(かわいいな。)


「スイ、これなんだかわかるか?」


考え続けているスイにさっきの石を見せる。


「あ、それは魔石です、魔獣を倒すと魔石が残ってそれは売ると高く買い取って貰えるんですよ。」


(なるほど、そこも普通か。)


異世界ならではな謎ルール、普通の動物は死体が残るのに魔獣は残らないが発動するらしい。


「つまりこれで金銭問題は解決か。」


「そうですね。」


スイがいい笑顔で答えてくれる。


「じゃあ、お説教な。」


「え?」


笑顔とは一転スイの表情が恐怖に変わった。


「すいません、私なにか間違いをしてしまったでしょうか。」


スイは体を震わせながら頭を下げている。


「ああ間違えた、お前さっき正しい呼び名は知らないけど、最期の力を使おうとしたろ。」


多分スイは俺を守ろうと魔獣相手に最期の力を使おうとしていた。


「はい、ご主人様を信じられなかった私に怒ってらっしゃるならなんなりと罰を。」


スイは更に体を震わせる。


「いや、あの状況で信じるなんて出来ないだろ、俺が言いたいのは自分の命を大事にしろってことだ。」


俺は正直他の奴がどうなろうとなんとも思わないけど、スイは奴隷と言うことで俺を裏切らないから俺もある程度はスイのことは信じている。


だからそのスイが自分から命を捨てようとするなら俺はそれを止め、そして怒る。


「でも、今の私に出来ることは命を使ってご主人様を守ることぐらいしか。」


スイが今にも泣き出しそうになりながら言う。


「別にスイが嫌なら安全な場所に着いたら奴隷の契約を解除するつもりだから命を使って俺を守る必要はないぞ。」


俺がスイを奴隷にした理由はあそこで放置する訳にもいかないから意識を戻す為に一時的に契約をした。


「嫌なんてことはありません!私はご主人様といたいです。」


スイが叫んで答える。


「そうか。」


これがほんとに本心ならとても嬉しい、少なくともスイの中では俺は必要ということになる。


「だってご主人様は精神操作の魔法をかけられてた私を助けてくれましたし。」


(ん?)


「なんのことだ、俺はそんなことしてないぞ。」


スイが意識がなかったのは主人が死んだからと聞いた、それに俺は奴隷の契約しかしてないから精神操作魔法を解いたりもしていない。


「でも私に魔力を流してくれたのはご主人様ですよね?」


「そうだけど、それは奴隷の契約をする為で…そういうことか。」


なんとなくわかった、俺はまた騙されたらしい、ただ偶然の一致で契約の方法と精神操作の魔法の解き方が一緒だったらしい。


「まぁ結果的にスイが助かったならいいか。」


(あいつももう死んでるだろうし。)


「ご主人様、今更ですけどありがとうございました。」


スイがまた頭を下げてきた。


「いいよ、もう行こう。」


お礼を言われるのに慣れてないので照れくさくなり俺はしゃがむ。


「はい。」


スイは今度はなにも言わないで背中に乗ってくれた。


「なぁ、もし主人が死んだら奴隷ってどうなるんだ?」


さっき聞いたのが嘘だとわかったので真実をスイに聞いておく。


「もしそれが奴隷がやったことなら奴隷も一緒に死んでしまいます、それ以外なら契約が解除されて放置されます。」


「なるほど。」


(だからスイと契約が出来たのか。)


「じゃあその奴隷は自由になるのか?」


「いえ、奴隷の付ける首輪はご主人様の許可がないと身体能力低下の効果があったり、色々と力が抑えられる効果があるのでこういう魔獣が出る森で放置されたら絶対に死んでしまうのであまりいいとは言えないです。」


「じゃあ、森の出口ならいいのか?」


それならすぐ町なりなんなりにすぐ帰れるから自由になるはずだ。


「いえ、奴隷はご主人様がいないと町や村には入れないので、運良く自分の故郷の近くや、解放軍さんに見つけてもらえればなんとかなる可能性はあります。」


(解放軍か。)


「後ご主人様みたいにいい人に助けてもらうとかですかね。」


(俺は別にいい人ではないけど。)


「わかった、ありがとう。」


話が終わる頃にさっきの馬車が見えてきた。


「粉々じゃん。」


馬車は原形を留めていない。


「ご主人様、あそこに。」


スイが指さした方を見る。


そこには優服そうな男が瓦礫の下敷きになっている。


「生きてんのか?」


俺は近づいて、生きているか見てみる。


「おい、お前、助けろ。」


死にそうになっても上から目線はやめないようだ。


「おい、聞いてるのか。」


おそらく従者の二人が体を張った結果なんだろうけど、こいつを守る意味がわからない。


「スイ、俺が今からやることを黙っててくれるか?」


「私はご主人様の望むことをします、それがどんなことでも。」


スイは理解した上でこう言ってくれている。


(これで、スイが信じられるかどうかが本当にわかる。)


「じゃあ、目を瞑っててくれるか。」


「はい。」


俺はスイを下ろして男に近づく。


「ほらごちゃごちゃ言ってないで助けろ。」


「うるさいよ。」


俺は真顔のまま指先に魔力を込める。


(実験台になれ。)


指先に貯めた魔力の性質を変える。


(必要なのはイメージ。)


指先の魔力をそのものだと思う。


イメージするのは衝撃、火などにすると証拠が残ってしまうから魔獣に殺されたように見えるように衝撃にする。


(多分ゼロ距離魔力弾の方が威力高いけど。)


まずは魔力の性質変換を覚えたい。


さっきのファイヤーアローでなんとなくはわかったからこれで。


「どうかな。」


指先から魔力弾ではない魔力が放出された。


「がはっ。」


男に直撃したら男は完全に動かなくなった。


「こんな感じか、オッケーわかった。」


これでなんとなく魔法の使い方はわかった。


「お前のことは気に入らなかったけど最期は役にたったな。」


(あ、風魔法で吹き飛ばせばもっと事故感あったな。)


と今更なことを思う。


「スイ目はもういいぞ、ちょっと俺はこれの馬を埋めてくる。」


「はい。」


俺は魔法で土を掘り裕福そうな男と近くで死んでいた従者の男と馬を土に埋めた。


俺は馬に手を合わせる。


「ご主人様って動物が好きなんですか?」


後ろにいたスイにそんなことを言われる。


「別に特別好きって訳じゃないけど死んだら手ぐらい合わせるだろ。」


「いえ、人には手を合わせなかったので動物が好きなのかと。」


スイが自分の耳を触りながら悲しそうに言っている。


「俺は基本的に人が嫌いなんだよ。」


俺が出会ってきた人は全員嘘つきだった、だからもう人は信じないと決めた、だけど今回また騙された。


世界が変わっても人は人だとよくわかった。


「私のことも嫌いですか?」


スイが耳としっぽを下げて俯き気味で聞いてくる。


「なんで?スイは嘘つけないんだろ、だったら俺がスイを嫌うことはないぞ。」


この世界に来てから嘘をつかれてしかいないからまだ奴隷が嘘をつけないのを信じきれていない。


だからスイに釘を刺す。


「スイは俺に嘘をつかないよな?」


「はい、奴隷はご主人様に嘘をつくと首輪から電流が流れるのですぐわかりますよ、例えば、私はご主人様のことが嫌いです。」


「おい、馬鹿。」


「くっ、あぁぁ。」


スイの首輪から電気のようなものが流れるのが見える。


少ししたら電気が止まった。


「はぁはぁ。」


スイが息を切らして膝をついた。


「これで信じてもらえました?」


スイが涙を流しながら俺の方を向く。


「当たり前だろ、ごめん。」


俺はスイを抱きしめる。


「ご主人様。」


スイが驚いたような声で言う。


「もう二度とお前を傷つけさせない、絶対に。」


スイのこんな姿を二度と見たくないと心から思った。


「ご主人様、ありがとうございます。」


スイも俺に手を回してくれた。


スイのことで頭がいっぱいで沢山の足音が近づいて来ることに気がつくのに遅れた。


「おい、そこの二人、ここでなにをしている。」


なにか雑音が聞こえる。


「あ?」


いきなり話しかけられて機嫌が悪くなってとても低い声が出てしまった。


「っ、ここでなにをしているか聞いている。」


話しかけてきた奴が一瞬引いたが、また同じ質問をしてくる。


見た感じでは鎧を着ているから騎士かなにかだろう。


「町か村を探してる。」


俺は機嫌が悪いので声が低いままで話す。


「そうか、じゃあここら辺で魔獣か貴族様を見なかったか?」


「貴族はそこに埋めた、魔獣はこれだろ。」


俺はさっき埋めた男達のところを指さしさっきの魔石を見せた。


「っ!魔獣を倒したのか君達二人で。」


正確には俺一人だがいちいち説明するのがめんどくさいので黙っておく。


「そうか、あの人は死んだのか。」


貴族の方にはあまり興味がないようだ。


「ちなみに君達が殺した訳ではないよな。」


なにか魔力の流れを感じたのでその流れを覚えてから返事をする。


「はい、僕はやってません、ただこっちから魔獣が来たので多分。」


「嘘は言ってないみたいだな、ありがとう、魔獣は人類の敵だそれを倒してくれたことに感謝を。」


騎士の男が頭を下げてきた。


(胸を叩くとかじゃないんだ。)


「別に。」


「お礼がしたいからこの先の町まで案内する、ついてきてくれ。」


そう言って騎士の男が歩いて行った。


「ご主人様?」


スイが不思議そうな顔をしている。


それもしょうがない、俺は今とても悪い顔をしているはずたから。

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