第4話 魔獣と会ってしまった
「ねぇあの子、今はリン君か、なんなのあれ。」
私はリン君から出てきた黒いリン君に話しかける。
「なんなのとは?」
「いや、おかしくない?私わざと魔法の使い方教えなかったのになんで使えるの?」
私はリン君が少しでも転生を楽しめるように特になにも教えないで転生させた。
なのにリン君は本能的に魔法が使えている。
「お前は俺に負けたんだから聞く権利はない。」
私と彼の勝負の結果は私の惨敗。
最初は拮抗していたけど、それは彼が私の力を見る為に力を抜いていたらしい。
その後は彼が少し本気を出して私は負けた。
だからリン君のことも彼のこともなにも聞けなかった。
今は彼と一緒にリン君の動向を見ている。
「ケチ。」
「はっ、お前が弱いのが悪い、少しはやるようだけど俺と比べるとただの雑魚だったな。」
私はこの空間だと魔力は切れないし、ある程度の攻撃は軽減されるし、死なないしで圧倒的有利だったのに負けた。
「リン君がというよりも君達がおかしいのか。」
「あれと一緒にするな、あんなあまちゃんと俺は違う、あいつは優しすぎる。」
確かに、殺されそうになったのにその相手を殺さないで逃がしていた。
契約魔法をかけていたけどあんな適当にかけただけなら相手は死なない、少し痛みを負うぐらいだ。
「でも、昔に比べたら少しは残忍になれてるみたいだな、前は全てを信じていたのに。」
「なに、教えてくれるの?」
黒い彼はさりげなく色々なことを教えてくれる、意外に優しい。
「ん?違うぞ少しだけ言うとそれが気になってしょうがなくなるだろ。」
前言撤回、最低だった。
「まぁいいや、リン君の動向を見ようか。」
そして二人で世界の様子を見る。
(あの自称神どうせ見てんだろうな。)
そんなことを考えながらスイと共に道を歩く。
さっきの三人組が帰って行った方向にとりあえず歩いている。
帰って行った訳だからそっちに村なり町なりなにかあるはずだ。
「大丈夫か?」
俺は隣を歩くスイに声をかける。
スイは靴を履いていなかったから俺が背負っている。
最初は断られたけど命令にして了承させた。
「はい、すいません私なんかの為に。」
「いや、むしろ嫌じゃないか?嫌なら下ろすけど。」
初対面でいきなり主人になった奴の背中に背負われるなんて普通嫌なはずだ。
ちなみにスイの前の主人はそのままにしておくのもあれかと思い、身分のわかりそうなものをスイに聞き、それだけ持って埋めてきた。
持ってきたのは家紋の入った脇差だ。
その他にもスイには道中で色々この世界の常識を聞いた、魔王のことと勇者のことは知らないそうだ。
俺のことは記憶喪失ということにしておいた。
「嫌だなんて、奴隷相手にこんなことしてくれる人はいないですよ、ただでさえ私は亜人ですし。」
「そういうものか、やっぱり亜人差別はあるのか?」
異世界なら亜人差別があるものなイメージがある。
「はい、亜人は人のお店には入れないですし、そもそも人の居住地に入れないんです、奴隷を除いて。」
スイの声が徐々に弱々しくなる。
「なるほど、逆に人が亜人の居住地に入るのは出来るのか?」
「出来はします、ですけど一人で入ったりすると亜人は人を嫌っているので襲われてしまいます。」
(だろうな。)
「でも、人より亜人の方が強くないのか?」
俺のイメージでは亜人は人の上位互換はイメージがある。
人の体に動物の能力が追加されるのだから人より強いはずだ。
「はい、亜人の方が身体能力は高いです、でも人は圧倒的に数が多くて囲まれたら為す術はないですし、そもそも亜人の子供ばかりをさらっていくので。」
スイの言葉が更に弱くなる。
「スイもさらわれたのか?」
俺は少し踏み込んだ質問をする。
「いいえ、私は生贄です。」
予想外の答えが返ってきた。
「生贄?」
「はい、人が大量に亜人を捕らえようと亜人の集落にきた時に無抵抗で人が選んだ亜人を差し出せば集落の残りの亜人は助けるという人との契約があってそれを亜人の中では生贄と呼んでいて、それに選ばれました。」
(胸糞悪いが、少し引っかかる。)
「それ人の方に得ないよな?亜人に抵抗されないっていうのはあるけど、それも結局数で押し切れば最悪なんとかなりそうだけど。」
人の方も訓練された奴を集めればいくら亜人で身体能力が高いといってもさすがに勝てるはずだ。
「それは亜人の最期の力が怖いんですよ。」
「最期の力?」
「はい、亜人には全員自分の命と引き換えに一騎当千の力を使うことが出来るんです、人はそれを恐れて。」
それだとまた引っかかる。
「なら逆に亜人が生贄で数人渡すぐらいなら戦った方がよくないか?」
最後の手段があるなら戦うのも悪くない手だと思う。
「はい、なので戦う集落もあります、でも昔は勝てたみたいですけど今ではもう絶対に勝てなくなったって母が言っていました。」
「昔と今でなにか変わったのか?」
最期の力を使われる前にやるか、戦いが始まる前に魔法を発動させて戦いが始まったら全員倒しているのか。
でもそれが出来るなら契約を守る必要がない。
「よくはわからないんですけど、へーきって言うのを人が使ってから勝てなくなったって言ってました。」
(兵器か、どの世界も無駄に知識を使うんだな。)
「そうか、でもそんなの使わなくても集落の亜人全員眠らせたりすれば契約もいらないだろうに。」
「そんなの出来ないですよ、集落全員に一斉にかけないと亜人は察知能力も高いですからそこで最期の力使われたら人はおしまいですし。」
(一斉にかけるつもりで言ったんだけどな。)
「もしかして、それってすごいことなのか?」
「少なくとも私は聞いたことがないです。」
少し残念だ、それぐらい普通に使ってみたかった。
「そっか、お、いた。」
俺の目線の先に馬車が止まっていた。
「あぁぁぁ。」
その馬車から叫び声が聞こえる。
(やっぱり死ぬまではいかなかったか。)
おそらくさっき俺がかけた契約魔法が発動している。
その結果死ぬことはなく痛みを負うにとどまっているようだ。
「おい大丈夫か。」
俺は何食わぬ顔で声をかける。
「お前がなにかしたのか、いやそんなことしてる時間はなかったはずだ、頼むなんとかしろ。」
どんな時でも上から目線はやめないようだ。
「礼は?」
無条件で助けてやる筋合いもない。
「お前何様だ、私を誰だと思っている。」
「知らねぇよ、別に俺はお前を助ける道理がないんだよ。」
(そもそも俺がかけた魔法のせいだし。)
「貴様…、わかった、なにかしら礼はしよう、早く。」
(ウザ。)
俺は契約魔法を少しいじった。
「治った。」
裕福そうな男が呆然としている。
「これでいいか?」
俺が聞くと。
「ああ、褒めて遣わす。」
ウザかったけどいちいち気にしてたらめんどくさいので無視する。
「もう帰っていいぞ。」
(ほんとクズだな。)
最初からなにも期待してなかったから俺はスイを背負ったままこの場を去る。
しばらく歩いているとさっきの馬車が追いついてきた。
俺を追い越してそのまま進む。
その際中で裕福そうな男が俺を見て汚い笑いをしていたが無視して進む。
「あの人嫌いです。」
スイが初めて嫌悪を向ける。
「同感。」
スイに同意して進んでいると。
「グォォォ。」
すごい雄叫びが聞こえる。
「なんだ?」
「魔獣の声です。」
スイが慌てた様子で言う。
「魔獣?」
「魔獣は普通の獣が特別変異したものです、力はもとの獣の数十倍でたまに魔法を使う個体もいます。」
一般的な魔獣と一緒なようだ。
「魔獣は危険ですご主人様一人なら逃げられるはずです、お逃げください。」
スイが言い終わると俺の背中から下りようとする。
「ご主人様?」
俺はスイを押さえる力を緩めない。
「スイ、俺はお前を置いて行く気はない、もし俺が死んだらごめんな。」
もし俺だけが死んだらスイはまた虚無の時間を過ごさなければならない。
「私もご主人様と一緒ににいたいです、もしご主人様がいなくなってしまうならその時は私も一緒です。」
スイが腕の力を強めてきた。
「ありがとう。」
スイに感謝を伝えたところで馬車が吹き飛ぶのが見えた。
(さすがに死んだか。)
そんなことを思っていると、魔獣の足音が近づいてくる。
「スイ下りて隠れててくれ。」
俺はスイを下ろし物陰に隠れるように言う。
「ここにいては駄目ですか?」
(死ぬ時は一緒にってか。)
「いいよ、絶対に後ろに攻撃は飛ばさないから。」
言い終えたところで巨大な熊型の魔獣が現れた。
「あれが魔獣、少しでかいな。」
大きさは熊の二倍くらいで黒いモヤが出ている。
「グルァ。」
熊の魔獣が鳴いて俺の方に突っ込んできた。
「ご主人様、短い間ですけどありがとうございました。」
スイがなにかを始めようとした。
「スイ、必要ないちょっと見てろ。」
「え?」
スイが行動を止めたのを確認して魔獣に意識を戻す。
「チュートリアル実戦編か。」
俺は全体に魔力を流す、そして魔力の質を変える。
「こんな感じかな。」
「ご主人様!」
スイの叫び声が聞こえた。
「ぶっつけ本番、身体強化。」
俺は言うのと同時に飛び魔獣の顔にかかと蹴りをした。
魔獣の体が吹き飛ぶ。
「え?」
スイのぽかんとした顔が見える。
(かわいいな。)
俺は着地して、走って魔獣に近づく。
「ゼロ距離発射、ただの魔力弾。」
魔獣の腹部にゼロ距離でただの魔力の塊を撃ち込む。
「ぐろぁ。」
魔獣が最期の雄叫びをあげて動かなくなり体が粒子になって消えてそこに石が落ちた。
「チュートリアル終了。」
手を合わせてから石を持ってスイのところに戻って行った。
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