君がいなくなって100日目
艶太
100日目
君がいなくなった。交通事故。デートの約束の日。なんてことはなく、僕の見ていない場所で君は死んだ。
悲しさは底知れず。しかし、今日は君が死んで100日目。体が君のいない生活に慣れていく。それが一番悲しくて、切なかった。
君は僕のつくるホットケーキがすこぶる好きだった。普通の、ありふれたホットケーキ。君はそれが好きだったみたいだね。特別に作ってあげよう。
「できたよ」
返事はない。無意味だった。いや、意味はある。僕の昼食ができた。君の代わりにいただくとするよ。
君は映画館が好きだったね。僕は閉鎖空間が苦手だからあまり好きじゃなかったけど、君は一回だけ、と言うから付き合ってあげたら、何回も付き合わされたね。君とお揃いのネックレスをつけて、映画館へ向かう。なんてことない映画だった。感情豊かな君がいたら、こんななんてことない映画にも涙するんだろうか。想像しながら、映画館をあとにした。
君は買い物を行くとき、僕に全部持たせたね。重かった。君がよく行っていた店へ行ってみる。なにも買うものはなかった。ぶらがるものは、何もない。前に君と来た時は、両手が塞がっていたのに。
君は猫が好きだったね。交通事故に遭った日。君は猫が好きだったから。車道に飛び出した猫を、助けて、君は。猫が好きだったから。助けた。僕は。君を助けられなかった。いつもそばにいたのに。その瞬間はなぜ。君は。なぜ猫が好きだったんだ。なぜ助けたんだ。今君が交通事故に遭った場所に来てるよ。猫が通らないだろうか。君は、猫が好きだったから。通らない。僕が猫が好きじゃないからだろうか。
君がいない100日は、なんてことない100日だったよ。食べて、寝て、君のことを考えて。なんてことないのに、胸が苦しくなるんだ。なんでだろうね。
僕は、一歩。車道へ歩き出した。
君は。 赤が好きだったね。
君がいなくなって100日目 艶太 @emunun
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