四杯目 酒の味は酒次第(1)
王都のはずれ、裏街通りの酒場は昼夜を問わず冒険者達で賑う。
店が閉まっているところを見た者はいない。
冒険者達が集い、旅立ち、運が良ければ帰ってくる。
ここは英雄亭。
死者を
*
コーン。
青年の頭と木の杯が奏でるハーモニー。
振り返らずともあの男が会心の笑みを浮かべているのがわかる。
無視しようとした青年を女店員が睨んだ。
その目が命じている。
さっさと行け。
青年は自分が雇われている理由を思い出し、あきらめて酒の準備を始めた。
「今の音はなかなかよかっただろう? ここ最近で一番の出来だ」
男は満面の笑みで青年を迎えた。
「オレに同意を求めるな。ったく、毎回毎回飽きずによくもまあ」
青年は疲れた顔でテーブルに杯を置く。
「飽きる? おまえは何もわかってないな」
「わかりたくない」
青年の声は男の耳にかすりもしない。
「できれば真上から落としたいが、天井があるのでそうもいかん。特におまえが遠くにいるとどうしても角度が浅くなる。そんな時はスナップを強く効かせて――」
「他の客に当たったらどうするんだよ! こっちの身にもなれ」
青年の文句などどこ吹く風。殴ってやりたい。
酔っぱらった冒険者であふれる英雄亭で、客に杯をぶつけたらどうなるかなんて考えたくもない。
さっきは危うく近くにいた男に当たるところだった。
青年はとばっちりを受けそうになった男の様子をそっとうかがった。
普段は人のいないカウンターの端の、ほっそりとした小柄な男。中年に片足を突っ込んでいるが、両足をつっ込むのも時間の問題だろう。
幸い暴れだす心配はなさそうだ。喜ぶでも悲しむでもなく、寂しそうに背中を丸めて酒をチビチビ舐めている。
青年はその顔に見覚えがあることに気付いた。
いつも仲間と陽気に飲んでいる常連だ。
店内を見渡すと、いた。小柄な男の仲間だ。入口に近いテーブルで、声は聞こえないが明るい雰囲気は伝わってくる。
「なんで今日は一人で飲んでるんだろ?」
「ようやく客の顔を覚えられるようになったか。ファイターなんかやめて
男の嫌味を青年はこめかみに血管を浮かせつつ、かろうじて受け流す。
男は目だけ動かして青年の視線を追う。
それきり何も言わず、杯に口をつけた。
「何かわかったのか!?」
「少しは自分で考えてみろ」
青年は小柄な男とその仲間を交互に見る。
「わからん」
「おまえの頭に詰まっているのはスライムか」
「そんなこと言われてもなぁ」
途方にくれる青年を見かねて男が助け舟をだす。
「あのパーティはそろそろ下層へ行きたがっていた」
「それで?」
「しかし下層へ行くには火力に不安があるとも言っていた」
「それで?」
ちゃんと考えているのか? 男は疑いの目を青年に向ける。
「小柄な男は専業シーフ。戦闘では役立たずだ」
「それ――」
男が冷ややかな目で睨んでいることに気付き、青年は言いかけて止めた。仕方なくまじめに考えてみる。
「シーフの代わりにメイジを入れれば攻撃力は上がるけど、罠や
そのとき青年に神が舞い降りた。
「そうか、あの人は
男は驚いた。まともな答えが返ってくるとは思ってもいなかった。
「少しは冒険者のことがわかってきたみたいだな。それで火力不足は解決する」
「
得意満面鼻高々。
「しかしあいつが一人で飲んでいる理由にはならん」
青年に舞い降りた神は思ったより使えなかった。
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