第3話

 達也と紗月は腕を組みながら昇降口から出ていった。途中クラスメイトからじっと見つめられるようなこともあったが、大して騒がれない。達也たちが仲のいい姉弟だということはほぼ全校生徒が知っていることだからだ。


「達也、なんかデートみたいだよね」

「姉さん、くっつき過ぎだよ。手に……当たってる」

「このくらいで……顔を真っ赤にして……達也は可愛いね」


 校門から出ると一際寒い風が吹いて、紗月がたたらを踏んだ。

 それを支える達也。

 二人の顔は吐息がかかる程近い距離にあった。

 姉さんとの心の距離もこんなに近ければいいのにと達也は思ってしまう。


 ――いつからだろうか。恋心に目覚めたのは。


「達也……苦しいよ。早く立ち上がらせて」

「ごめん……考え事をしてたんだ」

「今日の達也は、朝から変だったもんね。朝食食べないで出かけちゃうし」


 それは紗月のせいだとは口が裂けても言えない。二度と紗月の傷が広がらないように、薄っぺらい仮面を被らなくてはいけない。そうこれは罰なのだ。遠い星に手を伸ばそうとして海に落ちる者のように、分を弁えぬ者への罰。


「達也……どんなクレープが食べたい? やっぱり大好きなバニラ?」

「いや……チョコバナナ味にしようかな」

「達也……やっぱ今日変だよ。熱でも出てるんじゃないの?」


 そう言ってキスでもされるんじゃないかというくらいの勢いで額と額をくっつけられる。達也は思わず、距離をとってしまう。車のクラクションが鳴り危ない位置にいたようだ。


「ねえ……やっぱり今日の達也は変だよ。あれこれ何?」

「え……知らないけど……チョコレート?」


 転びそうになった時鞄から落ちたもののようだ。手紙がついており、「竜胆達也君、一年の頃から好きでした」と書いてある。差出人は、教室を掃除していた時に一緒だった地味な女子の名前だ。


「なな、なんだ……達也もチョコもらってたんだね。しかも本命のチョコ。あーあ……達也への愛をいっぱい入れて作った義理チョコも必要ないか」

「義理だろうと本命だろうと紗月姉さんのチョコはもらうよ」

「え……でも。その子への返事は?」

「もちろん断るに決まっているだろう」


 紗月は、油絵具が混ざりあったようなグチャグチャな感情の色を見せていた。


「私のこと……もしかして……まだ忘れられないの?」

「忘れられないよ……」


「バカ」


 紗月は走り去ってしまった。追いかける勇気が沸かない。その程度の気持ちなのかと達也は自分を攻めたてた。


「紗月姉さん……忘れられるわけ……ないじゃないか」

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