第4話
達也は、家族内ラインに、夕食は外で食べるとメッセージを送った。既読は一個だけ付く。紗月のものだとしか考えられない。達也の両親は医者と弁護士だ。時間は幾らあっても足りない仕事だ。悠長にラインなど弄っている暇はない。
「パエリアが食べたいな。紗月姉さんが昔作ってくれたっけ」
そう呟くと達也はサイゼリヤに入ろうとした。不意に声をかけられる。知り合いかと思ったら、よりにもよって、あのチョコレートを渡してきた張本人――三木原結衣だった。だが、印象が違う。もっと地味だったと思うのだが、眼鏡がない。紙もツインテールにしてある。少し化粧もしているようだが、素体がいいらしいことがはっきり分かった。
「達也君、夕食一緒に食べませんか?」
「え……でも――俺、彼女とか欲しくないし……」
「(お姉さんが好きなんですよね)」
心臓が爆音を上げて脈が速くなる。汗も全身から噴き出て、寒気がする。頭もクラクラして転んでしまいそうになった。
なぜ、その秘密を知っているんだ。紗月とのあの日のことは誰にもバレない。
「いつも……お姉さんを見てるのを知っていました。あんな目をするの恋焦がれた人しかいないですから。かくいう私もそういう目で達也君のこと一年生の頃から見てたんですけどね」
「どうしたら……黙っていてくれるんだ?」
「じゃあ、一ヶ月だけ彼女にしてください。相性が悪いと思ったらそのまま自然消滅でもいいですから」
一ヶ月だけの彼女だと……バカなことを言う。達也は三木原結衣の瞳を見て、その考えを捨てた。この瞳に映る色は覚えがある。あの時の姉さんと同じだ。魔眼とはこういうものを指すのだろうと嫌という程知っている。
「じゃあ、達也君。最初はサイゼリヤで、パエリアを食べましょう」
「どうしたんですか?」
邪心のなさげな無垢な瞳で三木原結衣は達也を見つめてくる。達也は己の考え過ぎだと結論づけて、店内に二人で入った。
「私……こういうお店入ったこと初めてなんです」
「み、三木原さんは……友達が少ないのかな?」
「それもありますけど……両親が親バカなのでミシュランに載るような店しか入るなと言われているんです」
三木原という単語がやけにすんなり入ると思ったら、大手財閥の会長の苗字じゃないかと達也は驚く。
「達也君、パエリア冷めちゃいますよ。お、結構美味しいですね」
「ああ……そうだな……はははは」
「今度は……遊園地とかに行きませんか?」
「え? でも……俺は――」
その言葉を遮って三木原が声を上げる。
「生徒会長の姉を不純な目で見ているってバレたら大変ですよね?」
達也は拒否権が自分にはないのだと悟った。
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