妹は激怒する

 俺はリビングで朝昼兼用予定の朝食を食べているところだ。妹の舞は、今頃俺の部屋にあるパソコンの履歴をチェックしているはずだ。


舞の奴、何であんな風にこじれてしまったのか? 舞の素っ気ない反応に嫌気がさして、会話するのを止めた俺にも原因がある?


今の俺では、舞を変えさせる自信はない。だったら、舞が履歴チェックに飽きるのを待つしかないか。これなら、舞を傷つける心配はない。


『女心と秋の空』ということわざがあるぐらいだからな。期待はできるはずだ。



 舞が2階から降りてきて、俺がいるリビングに来た。


「兄さん。パソコンの履歴、チェックしたよ。ありがとう」


舞はそう言いながら、朝食中の俺の前に座った。

両手で頬杖をつきながら、俺を眺めている。


「そうか。…俺のパソコンの履歴なんて見て楽しいか?」

嫌味ではなく本音だ。


「楽しいよ。…できれば、もっと妹系の動画を観てくれると嬉しいけど」

舞は笑顔で答える。


兄が妹系を好んでいたら、普通の妹は嫌がるのでは?

舞の考えは、俺には理解できそうにない。



 さっき、舞は俺にこう言った。


―――


「中学生の時は兄さんのことが嫌いだったけど、高1になってからは兄さんが魅力的に見えてきて…。些細な事まで知りたくなっちゃうの」


―――


嫌いから魅力的になったきっかけは、俺が捨て猫にエサをあげた事だ。

じゃあ、最初のになった理由はなんだ?


訊いていいことなんだろうか?


「兄さん。さっきから私を見てどうしたの?」

舞が頬をちょっと赤くして訊いてくる。


「舞。お前、中学生の時は俺のことが嫌いだったんだろ? 何でなんだ?」


「あれぐらいの時期、兄さんがかっこよく見えて顔を直視できなかった。兄じゃなくて、1人の異性として見ていたから。そんな状態だったから、会話がおぼつかなかったの。

兄さんはそんな私に会話しなくなったよね。だから嫌いになったんだよ」


つまり、素っ気ない反応はのせいだったのか。俺はそれをと勘違いした。舞はそれに不満を持ったから、俺を嫌いになったのか。


「私も悪いかもしれないけど、兄さんも悪いよ。小さい頃から仲良し兄妹なんだから、根気よく話しかけてほしかったな」


そんな事わかんねーよ。まったく。



 朝食を食べ終わった俺は立ち上がってから食器を持った。


「兄さん。今日の予定は?」

笑顔で訊いてくる舞。


「今日は特に予定ないな。夏休みの宿題をなるべくやるつもりだ」


「そっか。疲れたら、妹系の動画で発散してね♪」

舞は立ち上がって、リビングから出て行った。


俺は食器を流しに持って行って、さっさと洗う。

その後は自室に戻り、夏休みの宿題とゲームを並行した。



 夕食を済ませ、風呂に入る俺。

風呂から出て自室に戻ると、舞が俺のパソコンをいじっていた。


「兄さん。妹系の動画、観てないの?」

残念そうに言う舞。どこまで本気なんだ?


「今日は気分じゃなかっただけだ」


「ふ~ん。我慢しなくていいのに」


本当のことを言ったのに、信じてもらえなかったようだ。



突然、机の上のスマホの着信音が鳴る。舞がいる時に鳴るなよ。

俺は急いで確認する。舞ものぞき込んでくる。


メッセージの差出人は、椎名しいなさんだ。


【やっほ~。倉知くらちくん、元気~? 実は明日、倉知くんが住んでるあたりに友達と遊びに行くつもりなんだけど、倉知くんも遊ばない?】


この内容はマズイ。俺は慌てて舞を観る。


「兄さん…。椎名さんとはただのクラスメートでしょ? 何で遊びに誘われるの?

ていうか、椎名さん。うちの住所知ってるんだ?」


舞が激怒している。何とか抑えなくては。


「住所は知らないよ。○○駅付近に住んでると言っただけだ。遊びに誘われたのは、さっき言った通り、椎名さんがフレンドリーな性格だからだよ」


「…恋愛感情はないんだよね?」

舞が確認してくる。


「ない」

良い人だとは思うけど、それ以上の感想は思い付かない。


「だったら断って」


「何でだよ?」


「兄さんがいつ椎名さんに恋愛感情を抱くかわからないから。私は兄さんしか見てないから、兄さんも私だけ見てほしい」


ワガママすぎるだろ。履歴のチェックなら我慢できるが、人間関係にまで口出しされるのはストレスがたまるな。


だがそれを言ったら、今度こそ舞は俺を嫌って会話はなくなるだろうな。

さて、舞の要望に応えるべきか否か?

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