第52話 集結
フレールが思っていた以上に早く、リメルナに向けて行軍してきた。
クラウスは、父や議会の長老、軍の上層部を説き伏せて、出立して来たのだ。
これだけの軍勢を率いるのは、初めてで、クラウスは、馬上で高揚していた。
リメルナより、フレールの軍勢に対し迎えの使者がきた。
「フレールのクラウス王子とお見受けする。ここから、リメルナの宮殿まで、わたくしワルターの娘、リーセがご案内いたします。」
人形のような美しい娘が、馬上より挨拶をしてきた。
男のような出で立ちに、クラウスは呆然とした。
「いい女だな。」
キャスの一言で、クラウスは我にかえった。
「失礼だぞ。」
キャスに一喝すると、リーセに近づいた。
本当に、人形のように無表情で、美しかった。
クラウスは、出迎えの礼を述べた。
キャスに失礼だと言っておきながら、クラウスは馬上から、リーセを見つめずには要られなかった。
「あなたも戦うのか?」
クラウスは、戦場に出てほしくないと思いながら聞いた。
「わたくしは、軍人です。当然、戦場に赴きます。」
リーセは、感情のない返答をした。
「失礼。フレールでは、女性が戦場に行くことはないので。」
クラウスは、彼女が機嫌を損ねたと感じ詫びた。
「お気になさらずに。女性が戦いに出ない国がたくさん有ることは、父ワルターから聞いています。父にも反対はされました。でも、認めてくださいましたので、恥じない戦いをするつもりです。」
彼女は、少しだけ微笑んだように思えた。
リーセは、クラウスが素直に詫びたことで、クラウスの第一印象を良くした。
クラウスは、その微笑みが欲しいと思った。
「この戦いが終わったら、あなたを私の妻にする。絶対生き残ってほしい。」
クラウスは、王子だ。
手に入らないものはない。
クラウスは、リーセに想い人がいようがいまいが考えずに伝えた。
リーセには、想い人はいなかった。
ワルターが父親のため、近づく者が少なかったし、好きになる男の基準も高かったのかもしれなかった。
リーセは、どう対処すれば良いのか分からなかった。
クラウスは、押し黙るリーセを不思議に思い。もっと言葉にすべきかと口を開いた。
「あなたに恋をしたのです。美しいあなたに。あなたの微笑みを私だけのものにしたい。」
リーセの頬は、見る見るうちに赤く染まっていく。
初めての愛の告白に動揺していた。
しかも、人前で。
キャスは、やれやれと聞いていた。
クラウスには、政略結婚の話しが度々あったが、中途半端では、相手に失礼だと全部断ってきた。
周りの者は、政略結婚なのだから、気持ちなど関係無く早く世継ぎを作って欲しかったが、頑なに拒んできた。
相手の感情のことは別として、クラウスが誠実だということは、確かだった。
リーセの動揺とは裏腹に、クラウスは、伝えることを伝えたので、満足してリーセに従った。
キャスは、この展開がどうなるのか楽しみだった。
ワルターと言う男。
先だっての東側との戦いには、リメルナに傭兵を出してもらったが、東側から追われる身なので、参戦していなかった。
噂には聞いていたがたぶんクラウスは知らないだろう。
各諸国から、恐れられている男の娘に恋していることを。
キャスは、戦いを前に不謹慎だと思うが、周りから恐れ知らずと思われている王子と周りから恐れられている男がどう対話するのか楽しみだった。
エメラルも、リメルナに行軍して来た。
こちらの出迎えは、第三王子のミムだった。
何しろ、母親であるアイーシャが、自ら軍を率いていた。
本来は、アイーシャの弟が来るはずだったが、エメラルは、アイーシャが多くの女性兵士を連れて来ていた。
リメルナのリーセの男装に驚いていたクラウスは、エメラルの素肌を晒すような軍服など見たら、卒倒するだろう。
キャスが、エメラルに入り浸りなのは、この強い女たちに夢中だからといっていい。
エメラルの女たちは、開放的で、愛情表現も豊かで臆することなく、愛し合える。
キャスは、たくさんのエメラルの女たちを追いかけ、愛し合った。
その結果、一目惚れした女から、相手をしてもらえないでいる。
彼女の名前は、ララ。
エメラルの大胆な軍服が、少し不釣り合いに見える可愛らしい女だった。
今回もアイーシャに従って、従軍していた。
何度、声をかけても素っ気ない彼女に今は夢中で、クラウスのことを笑えなかった。
女性ばかりの軍のなか、ミムが若い従者を連れて母親のアイーシャを出迎えた。
大きな輿が地上に下げられる。
アイーシャは、ミムが輿に近づくと、両手を広げた。
ミムは、少し照れながらもアイーシャのハグに応じた。
母親は、子供がいくつになっても子供扱いなのだろう。
リメルナに、戦いのため、各国が集結し始めた。
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