第51話 頭 リカルド

「乾杯だなんて、呑気な!」

 ハヴィが呆れる。


「俺も賛成。乾杯!」

 チコも、グラスを掲げ酒を飲み干す。


「あんたは、飲みたいだけでしょ!役立たず!」


「俺は、役に立つ男だぜ。昨日だって、酒樽をたくさん食堂に運んだぜ!」

 チコは、力こぶを作って、笑顔を見せる。


「それは、あんたが飲み尽くしたからでしょ。当たり前。」

 ハヴィは、ため息を吐く。



「だいたい何が問題なんだ?」

 あまり興味なさそうに酒を注ぎながら、リカルドが聞く。


 今さらと思いながら、リカルドに封じの石の話しを伝えた。


「それは、厄介だな。人間もたち悪いが、異形じゃあな。」

 鼻で笑いながら、酒を飲む。


「しかし、たかが石っころだろう。本当に封じてたのか?ガキどもが簡単に持って来るぐらいなんだから。なぁ、ゴビ。」


「えぇ、かしら。軽い石っころでさぁ。」

 ゴビも、さも大したことではないと言わんばかりに頷いている。


「盗んだの?」

 ハヴィが素っ頓狂な声をあげる。


「バカ言え!俺は、石っころに興味ねぇ。なぁ、ゴビ。」


「はい。偶然、ガキが持って来ただけでさぁ。 腹が減っているから、金と交換してくれって。キレイな緑色の石でさぁ。」

 ゴビは、身ぶり手振りをつけながら話しだした。


かしらに頼まれて、キッセンベリに集金に行った帰りに出くわして、それで、可哀想だから集金した金をみんなやって、食いもんを買えって言ってやったんでさぁ。」


「お前、ちゃんとかしらに金渡したって言ったじゃないか。」

 ガビがびっくりして、口を挟む。


「兄弟で腹すかせて、うろちょろしてるの見たら、…なんだか昔を思い出してさぁ。」

 ゴビが悲しそうに答える。


「いや、あれって、お前、いくらガキに渡したと思ってんだ。キッセンベリの奴が、逃げるために勝った馬2頭分の金だぞ!」

 ガビが驚愕の声をあげる。


「金やったこと言ったら、ガビが怒ると思って、かしらに言ったら、そい言う理由なら仕方ないって言ってくれたぞ。」


「…おい、話しがズレてるぞ。」

 ワルターが面倒くさそうに、話しに割って入る。


「何の話しだっけ?」

 ゴビが頭を傾げる。


「石!封じの石!」

 ガビが思い出し、そうだそうだと二人で大きく頷く。


「封じの石は、かしらに渡したんでさぁ。」


 皆の視線が、リカルドに向く。


「俺は、石っころには興味ねぇって言ったろう!」


「その石っころどうしたの?」

 ハヴィがイライラしながら問い詰める。


 リカルドは、前のめりになる。

「面白れぃことに、フレールが叶い石って石っころを探してるって、噂を聞いたんだ。」


「あんた、まさか!」


「売った!」

 リカルドは、当たりとばかりにテーブルを軽く叩いた。


「えーーー!」→テオグラート

「ロクでなし!」→ハヴィ

「アホらしい。」→ワルター

「面白れぃ!笑う!」→チコ

「バカだねぇ。」→イザベラ

「………」→親族、その他一同



「ギルに、売ってやるから、交渉に連れて来いって言ったら、フレールの奴ら、すっ飛んで来たぜ!」

 リカルドは、楽しそうに笑った。


「色が違うんだから、すぐバレるでしょうが!」

 ハヴィの声がどんどん大きくなっていく。


かしらが持ってたの赤い石だったぜ。」

 ギルは、ニヤニヤしている。


「俺、そう言えば、緑色の石を赤い石にコーティングしたな。」

 ジギーが、大して興味なさそうに酒を飲む。


「叶い石だと思えば、叶い石だろう。」

 リカルドは、楽しそうに笑った。


「ロクでなし!」

 ハヴィは呆れるばかりだ。


 テオグラートは、食い入り気味に身を乗り出している。


 リルは、呆気にとられている。


「フレールは、本当に騙されたのかね。」

 レオは、まさかと思った。


「フレールは、色々あって、国王への不信感がひどかったから、藁をも掴む思いで飛び付いたのさ。」

 ギルは、楽しそうに酒を飲む。


「まぁ、半信半疑だろうな。東側との戦いで見つけたって話しになっているし、叶い石のおかげで東側との戦いにも勝てたみたいな噂も聞いた。」

 ワルターも、興味なさそうに酒を飲む。


「お陰で、我が民は一年間の納税を免れたわけだ。」

 笑いながら、リカルドが酒を注ぐ。


「あの金か!何から捻出したのかと思ったら!」

 レオも酒を飲み始めた。


「俺達のいいように、話しが転がったって訳だ。」

 ギルがグラスを掲げる。


「石だけにな。」

 リカルドもグラスを掲げると二人は声をあげて笑った。


「笑ってる場合じゃないでしょう。これからその石っころ必要でしょうに。」

 ハヴィが呆れ果てながら、リカルドを見る。


「似たような石っころをフレールに持って行ってすり替えて来いよ。」


「本当にロクでなしだわ。」

 ハヴィも酒を飲み始めた。


「簡単に言うなよ。どれくらいの大きさなんだ?」

 レオが酒を注ぐ。


「こんなもんでさ。実物は、陛下が見たいと言ってたんで、今は、陛下がお持ちでさぁ。」

 ゴビは、手で、石の大きさを作りながら、リルを見る。


 ゴビと同じように、全員がリルを見た。



 リルは、そう言えば、ガビとゴビに、フレールにある叶い石を見てみたいもんだと、軽い気持ちで話したのを思い出した。

 そして、キッセンベリとの戦いの前に、ゴビから、「これでさぁ。」と確かに渡されていた。

 戦いの前だったので忙しく、とにかく携帯用の薬入れにしまったのだった。


 リルは、恐る恐るベルトについている薬入れに手を入れ、まだある石をテーブルに載せた。


 皆が、今は、赤い石を見つめた。



「石があるなら、この先は、俺の領分じゃないな。抜けるぜ。」

 ワルターが酒とグラスを持って出て行く。


「みんなで食堂に行って飲もうぜ!」

 チコやギル達、皆が出て行く。


 ハヴィが、石を掴みグレアムに渡す。


「後は、ロクでなしのおじいさんと叔父さんに任せましょう。」

 ハヴィは、リルとテオグラートを連れて、出て行く。


「交渉は、父上でいいんですよね。」

 グレアムは、石を掴んで立ち上がる。ミムも一緒に立ち上がる。


「俺の出番は、王宮の敷地内だけだ。任せな。さぁ、食堂で楽しもうぜ!」

 リカルドは、いつものように楽しそうに笑って、息子たちの肩を抱きながら歩きだした。




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