第45話 説教
テオグラートは、長々とキリウェルの説教を聞いていた。
うんと小さい時以来だなぁ、こんなに長い説教。
テオグラートは、怪我をしていた腕を触わっていた。
*********
テオグラートが、怪我をしているため、ルティスラ村に戻ることにした一行をまるで待っていたかのようなリメルナのギルが出迎えた。
「おい、おい、どうした?泣きながら帰ってきたのか?」
ギルは、アディ達が魔術師に出くわして舞い戻って来たと思っていた。
「はっ、残念。我が主がお前らの手に負えない魔術師を簡単に倒して、凱旋したところだぜ。」
アディは、心底楽しそうに報告した。
ギルは、テオグラートを見て驚いていた。
ルティスラ村に立ち寄らず、そのままアディ達を追ったのか、ギルは報告を受けていなかった。
昨夜は、連れていなかったし、ギルは、てっきり怖がる坊やをフレールに置いてきたのかと思ったが、逆か。
置いてけぼりをくらった坊やが必死に追いかけて来たというところか。
「ルカ!この坊や…、じゃなかった王子様の手当てをしてやれ。」
キリウェルがまた睨んでるので、改めた。
ルカと呼ばれた男が慌てて現れた。荒くれ傭兵の中では、浮いているおとなしい感じの男だ。
「うちの魔術師だ。腕はいいぜ、保証する。」
キリウェルが断ろうとしたが、すぐさまテオグラートが返事した。
「お願いします!」
テオグラートは、癒し手の治療に興味があったので、即答だった。
「王子様なんだから、丁重にやれよ。なんかあったら、そこの睨んでる男が、お前の首を跳ねるからな。」
ギルは、笑いながらルカに治療を促す。
「お前の首も一緒に跳ねるからな。」
キリウェルは、さらに睨む。
「…さぁさぁ、こんな所じゃなんだから、酒場で楽しく話そうぜ!」
ギルは、テオグラートに興味を持った。
テオグラートの肩を抱いて酒場に連れて行きながら、今なら首を折れそうだなぁ、と考えていると、キリウェルが割って入る。
「気安く触るな。」
キリウェルが、そそくさと奥に連れていく。
「情報提供してやるから、ここの金払えよ。」
アディとサミーは、笑いながら酒場に入る。
とりあえずは揉め事は起こらないと踏んで、大将達は、宿に向かった。
「凄い!天才だ!」
テオグラートが、腕の治療を受けた感想だ。
「いえ、とんでもない!」
ルカは、物凄く喜んだ。礼は言われるが天才とは!今まで、言われたことのない褒め言葉にルカは、満面の笑みを浮かべ、自分の癒し手としての技を自慢しようとした。
「終わったなら、早く帰れ。」
すぐさまギルに、睨まれて慌ててルカは帰ってしまった。
テオグラートは、がっかりした。治療の魔術を聞きたかったのに。
「おじさんに、武勇伝聞かせてくれよ。」
ギルは、にっこり笑ってテオグラートに聞く。
テオグラートは、嬉しそうに口を開くが、またしてもキリウェルが間に入る。
「テオグラート様は、これから私と長い話しがあるので、失礼。」
キリウェルは、テオグラートの肩をがっしり掴むと、宿に向かった。
「お前の相手は、俺達だぜ。」
アディもサミーも楽しそうだ。
そして、最初に戻る。
キリウェルは、長い説教、否、長い、長い説教をしている。
どうやって、フレールの宮殿から出られたのか?
なぜ、あんな無謀なことをしたのか?
テオグラートは、口を尖らせてまくし立てる。
「キリウェル達が僕を置いてけぼりにしたからだよ。ちゃんと証明したよ。僕は、戦えるんだから。見たでしょ!」
「死ぬかもしれなかったんですよ。何のために、クラウス王子やロゼさん達に頼んだと思っているんですか!」
キリウェルも、珍しく声を荒げて怒っている。
「そうだ!そうだ!」
大将が笑って横槍を入れる。
「だって…」
「だってじゃありません!」
また、テオグラートが口を尖らせて、キリウェルの説教が繰り返される。
キリウェルは、座っているテオグラートの前を行ったり来たり。
あんなことやこんなこと、キリウェルはありとあらゆることが無謀と言っている。
きっと今なら、僕がクッキーを食べたと言っても 無謀 と言われそう。
「何も持たないで、平野を渡るとか、誰も共を付けずに1人で来るとか。」
それ、さっきも話した。
携帯用の食事は、ちゃんともらったけど一回の食事で全部食べちゃったことを怒られ。
お供を付けてもらったけど、キリウェル達に会ったときに、格好がつかないので、帰ってもらったことも怒られ。
一睡もせずに、みんなのところに来たことも怒られ。
キリウェルは、ずっと怒っているのに、なぜか生き生きしている。
大将や酒場から戻った酔っぱらいのアディやサミーも楽しそう。
テオグラートは、怒られているけど、みんながなんか楽しそうならいいやと思った。
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