第44話 証明
大将達は、岩の上にいる魔術師に向かい、3グループに別れた。
魔術師とは、すでに一度戦っている。
魔術師が、下に向け光る物を放った。
光る物が地面に落ちた瞬間、光りが大きくなる。
そこから、人程の大きさの異形が3体現れた。
「そのトリックは、前に見たぜ。飽き飽きなんだよ!」
アディが、先頭を行く。
人程の異形が現れた後から、小さな異形が次々現れる。
「馬を逃がせ!」
大将の大声と共に、皆が馬を降り異形に向かう。
「また、気持ち悪いのがうじゃうじゃと!」
「まったく、ちまちまと腹立たしいぜ!」
カイとミッヒもうんざりしながら、駆け出す。
大将達は、自分たちに先に向かって来た小さな異形を次々と斬り倒していく。
異形との戦いもすでに経験済みだ。
アディが一番に、人程の異形にたどり着く。
今回の人程の異形は、小さな異形とはまったく違った。
近づくと、まさに人間だった。
黒い油を頭からかぶったような身なりで、剣を構えた。
剣の甲高い音が鳴り響き、一対一の戦いになる。
アディは、戦いながら驚いていた。
黒くどろどろな姿だが、剣の腕はいい。
そして力が半端なく強い。
しかも、アディが片目である不利をついてくる。
「まるで人間だな!」
アディは、久しぶりに手応えのある者と相対していた。
他の2体の異形には、サミーとキリウェルが対していた。
アディは、何度目か剣を合わせたところで、強引に横へ押しきると、異形が少しだけアディに左肩の後ろを見せる。
アディは、すかさず左腕で異形の脇腹に拳を入れ、異形が頭を下げ後ろに数歩下がる。
異形が頭を上げた瞬間、アディの剣が異形の腹を切り裂いた。
アディは、すぐさま周りを確認する。
サミーとキリウェルも異形を倒したところだった。
「魔術師が来るぞ!」
大将が叫ぶ。
岩の上から、魔術師が飛び降り、片膝をついて着地する。
ゆっくりと顔を上げると赤い目が大将達を見つめる。
魔術師が立ち上がり、手をかざす。
「来るぞ!」
何が来るか分からないが、思わず叫ぶ。
小さな光りの矢が無数に飛んで来る。
避けきれない!
皆が、思った瞬間、アディ達の前にガラス板のような壁が出来き、矢が砕け散る。
ガラス板のような壁は壊れることなく、キリウェル達を守り続ける。
キリウェル達の前に、馬が駆け付ける。
「テオグラート様!」
キリウェルが叫ぶ!
「殿下!」
アディが叫びながら、周りを見る。
ガラス板の横からテオグラートの元へ行こうとしたが、ガラス板が自分たちを囲んでいて出れない。
「どういうことだ!」
サミーも気付き、ガラス板を叩く。
テオグラートは、馬を降り剣を抜く、魔術師に向かってゆっくりと駆け出した。
「テオグラート様!」
キリウェルは、剣の柄を使いガラス板のような壁を壊そうとするがびくともしない。
テオグラートは、魔術師と剣を合わせた。
魔術師は、向かって来た者が、子供だったので、魔術を使わず剣で戦うことにした。
所詮、子供だ。魔術を使わず倒せる。
魔術師は、テオグラートを侮っていた。
テオグラートは、容赦なく魔術と剣術を使い戦う。
この戦いで、テオグラートは証明しなければならなかった。
キリウェル達に、戦場で皆と共に、自分が戦えることを。
魔術師が、考えを改めた。
子供だからと思ったが、魔術を使える上、思った以上に剣術が素晴らしかった。
まだ、実戦が少ないのだろう。
型通りの戦い方だが、これからどんどん伸びていくだろう。
私に勝てることがあれば。
魔術師は、剣を合わせた瞬間、力でテオグラートを押す。
テオグラートが、後ろに数歩下がったところで、魔術師が手をかざす。
光りの矢が、テオグラートの腹に向かい飛んでくる。
テオグラートは、剣を立て、大将に聞いた戦い方を実践した。
しかし、テオグラートはまだ力が弱く、光りの矢を横に反らすことしかできなかった。
横に反れた矢が、テオグラートの腕を切り裂く。
テオグラートは、片膝をついた。
「テオグラート様!」
キリウェルは、何も出来ない自分が、歯がゆかった。
助けに行きたくても、皆、どうにも出来ず壁を殴り付けるばかりだった。
「真っ当に戦うな!アディを見習え!」
大将の一言で、テオグラートは、戦い方を変えた。
「足ってのは、弱いんだぜ。」
昔、アディが言っていた言葉を思いだした。
魔術師は、テオグラートにとどめを刺そうと近づいていた。
テオグラートは、剣を低く構え振り抜く。
剣は、魔術師の足を切り裂き、バランスを崩して膝を付く、テオグラートはそのまま魔術師の首を切った。
テオグラートは、勝った。
大きく息を吐きだし、両膝を付いた。
「テオグラート様!」
ガラス板のような壁が無くなり、キリウェルが走ってテオグラートを抱きしめた。
テオグラートは、震えていた。
初めて人を殺した。
戦い続けるなら、これからも殺していくのだ。
覚悟はしたはず、でも震えが止まらなかった。
キリウェルが体を擦っている。
テオグラートは、震えが止まるまでキリウェルに抱きしめられていた。
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