第43話 ルティスラ村

 キリウェル達は、フレールを出立して平野を進みながら、夕刻にルティスラ村にたどり着いた。


 フレールやフレール近隣の国へは、行き来は少ないが、ルティスラ村には、よく果実酒や果実を売りに行くことはあったので、馴染みの宿に宿泊した。


 アディとサミーは、ルティスラ村にある一番大きな酒場に来ていた。

 リメルナ兵の殺害について、詳しい情報を仕入れるためだ。



「おい、自国が大変だってのに、遊び歩いてんのか?」

 アディとサミーが、声のするほうに振り向く。


「嫌な奴がいるぜ、サミー。」

「まったくだな。」


「おい、おい、俺はお前らみたいなフラフラしてる輩から、この辺一帯を守るリメルナ兵だぞ。少しはへつらえよ。」

 ギルは、嫌みったらしく笑う。


「ギルが出てるようじゃ、例の魔術師は殺ったのか。」

 アディは、くだらない会話を切り上げ、リメルナ兵ギルに詰め寄る。

 アディは、ギルを気に入らないが、腕は認めていた。


「俺は、イリヤからお綺麗なお嬢さんを東へエスコートした帰りだ。あのお嬢さん、仕事で中々出立日が決まらなくて、冷や冷やしたぜ。危なくキッセンベリとの戦いに巻き込まれるところだったんだから。まったくよ。」

 ギルは、顎で奥のテーブルに促す。


 アディとサミーは、渋々奥のテーブルに移動する。


「一昨日の話しを聞いたのか?」

 ギルは、椅子にどっかりと腰掛けた。


「違う魔術師だが、俺達も襲われたんでね。」

 サミーも椅子に腰掛けながら、嫌そうに答える。


「よく生き延びたな。」

 ギルは、心底驚いていた。


「あぁ、エメラルで知り合った魔術師が一緒に旅してたんでね。」

 アディは、店の者に酒を頼むため、手で合図しながら答える。


「そうか。坊やは一緒じゃないのか?」

 ギルの言葉が終わるや否や、喉元に短剣が当てられ、ギルは、大きく首を仰け反らした。


「おや、キリウェルとは、珍しい。」

 ギルは、にっこり笑う。


「お前の言う坊やが、我が主であればこのままお前の首を切る。」

 キリウェルは、無表情で、短剣を強く押し当てる。


「止めろよ、キリウェル。そいつの首は、俺が取るんだ。お前じゃあねぇ。」

 アディが、中々来ない店の者にもう一度合図する。


「店の女が来るぜ。短剣を引っ込めろよ。」

 サミーが促すと、キリウェルは、渋々短剣をしまった。


 おどおどした若い店の女が、注文を取りに来た後、アディは、ギルに現状を聞いた。


 ギルも、東からたどり着いたばかりだが、ルティスラ村に駐屯していたリメルナの兵からすでに話しを聞いていたので、アディ達にも、情報を提供した。

 今回ばかりは、共通の敵で、共に戦う仲間になるだろうと考えたからだ。

 例え、コイツらの主を殺るかもしれなくとも。



 状況は悪化していた。


 リメルナは、すでに戦いの準備に入っていた。

 常に、斥候を送っていたが、今やイリヤより先には入れなくなっていた。


「コッツウォートは、どうなっている?」

 アディは、自国の事を他国の人間に聞くなど、恥ずかしいと思ったが、聞かずにはいられなかった。


「新しい国王が、若いながら頑張っているよ。凄い早さで再建してる。信頼度も上がってるし、他の王族が、死んでくれて良かったんじゃねぇか。」


 キリウェルが、テーブルを凄まじい力で殴りつけ、辺りが静まりかえる。


「キリウェル。そいつはお前の反応を楽しんでいるんだよ。止めとけ。」

 サミーが、キリウェルの腕を軽く叩く。


「サミー、相変わらず、お優しいこって。戦場じゃあ、早死にするタイプだな。」


「嫌な奴も、きっと早死にするぜ。」

 アディがすかさず、睨み付ける。


「なんだよ。酒を楽しむ、ただの軽口だろう。つまらねぇ奴らだな。俺は、戻るぜ。この酒は、情報料だ、払っとけよ。」

 ギルは笑いながら、店を出て行った。





「くっそ、あいつのせいで、目覚めが悪いぜ。」

 アディ達は、翌日、朝早くルティスラ村を出立した。


「まったくだ。」

 サミーも、同感だった。


「だが、味方となるなら、大助かりなんだがな。」

 大将が、呟くと、


「「そんなのうんざりだな!」」

 アディもサミーも、声を揃えて拒絶する。


 キリウェルも同じように、不機嫌な顔で、馬に乗っていた。


「もう、気持ちを切り替えろ。あの岩が見えているだろう。」

 大将が、大声を張り上げる。


 大将が言う、岩は、建物の一階ぐらいの高さがあり、2つ並んでいる。

 なぜ、こんな平野のど真ん中にあるのか、不思議だった。


 しかも、ただ不思議なだけではなく、この平野唯一の隠れ場所となっていた。


「なるべく、大きく迂回しろ!」

 大将が、大声で指示を出す。


 岩が徐々に近づく。


 緊張の中、岩から離れたところを馬と馬車が最速で通り過ぎようとしていた。


 皆、一様に岩を見ながら、手綱をきつく握りしめる。


 もうすぐ岩と平行に並ぶ。


 緊張の中、皆が岩の裏側を覗き込もうと前のめりになっていく。


 その瞬間、岩とは、反対側から、風が巻き起こる。

 風は、砂を巻き上げ、小さな竜巻のようなものが出来上がる。


 小さな竜巻は、横に広がりカーテンのようになり、大将達に向かって来る。

 右側は壁のようになり、大将達は、岩側に寄せられていく。


「大将!岩の上だ!」


 岩の上に、マントを羽織った人影が見える。

1人のようだ。


「覚悟を決めろ!向かうぞ!」

大将が大声を上げると、岩の上にいる魔術師で有ろう人影に、皆が突進する。


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