第47話 国王リル

 謁見の間では、キリウェル達がテオグラートの戻りを内心ハラハラしながら待っていた。

 

 キリウェル達は、事前にテオグラートの雷を見せてもらっていた。


 テオグラートは、コッツウォートに帰る前に、自分が有利に立てるような、派手な魔術をベリンガーに探してもらったが、ベリンガーの出立を考えるとあまり時間が無く、しかも簡単には、取得できない魔術ばかりだったため、ベリンガーが持っていた魔法石を使うことにした。


 テオグラートが、空高く魔法石を投げて、その石に魔術を当て落としただけである。

 魔法石は小さくて、突然上に投げれば見えない。

 ちょっとしたトリックだ。

 威力的には、まぁまぁだが、上げてから落とすまで時間がかかるので、戦いには向かない。

 魔術師なら、難なく対応できる。


 テオグラートは、とりあえず皆、驚かないようにだけ伝えた。

 こんな魔術、うちの主は簡単に出来ますの体でいて、ヴァル達を騙そうとしたのだ。


 魔術を使えない者達や、テオグラートの魔術を多少なり見た者は、心底驚いていたが、ヴァルは、そう簡単には騙せなかっただろうと思えた。


 キリウェル達は、やきもきしながら、謁見の間で、周りを見渡していた。


 王兵や第一王子の上層部は、軒並み変わっていた。

 この前の戦いで、国王や第一王子のエドモントと一緒にコッツウォートに逃げ込んだ兵は、皆、殺されているからだ。


 見知った顔が、昇進していた。

 キリウェルは、自分と同い年の者が以外と多くて、内心喜んだ。

 こんな形でなければ、喜んで声をかけるところだが、今は、皆、沈黙している。


 王兵は、第一所領から引き抜かれている者も多かった。


 王兵のなかに、サミーの父親がいた。

 サミーもほっとしているだろう。


 皆、声をかけたがっているが、自分たちの処遇が決まらないため、誰も近づけなかった。


 ヴァルは、我々の様子を見ていた。


 彼は、我々が魔術にかけられていたことを知っているのだろうか。

 テオグラート様のトリックは、通じただろうか。

 彼は、どれだけ魔術に精通しているのか。


 彼の知識の豊富さは、たとえ敵対するものであっても敬服に値した。



 リルが、テオグラートと共に謁見の間に入った。


 兵達が、片膝を付いて、国王を迎える。



「敵に追われ、国外に退避していた、弟テオグラートが戻って来た。テオグラートは、魔術を使える。これは、我々には好機となるであろう。」

 リルは、ゆっくりと強い口調で話した。


 反応は、リメルナの傭兵以外は、あきらかに好意的だ。昔から、テオグラートは、可愛がられていた。

 ヴァルの懸念も分かる。

 王兵や第一王子の兵は、自分よりテオグラートを好むだろう。

 だが、今は、これから戦いになるのだ。

 自分も、まだ子供扱いだが、テオグラートでは幼すぎると思うはずだ。

 いくら魔術が使えようと、兵を指揮するとなると別なはず。

 今のところは、自分に分があるはずだ。

 自分は、戦場に出ている。

 リルは、自分に言い聞かせていた。


「第三所領をテオグラートに戻す。第三所領にいた兵は、今の隊に残るか、第三所領に戻るかは個人に任す。テオグラートと共に、国王であるこのリルに尽くせ。明日、早朝軍会議を行い、午後には、リメルナとの協同会議に向かう。各隊、編成を報告しろ。テオグラートも用意をしておけ。以上だ。」


 リルは、言い放つと謁見の間を出た。

 後には、ヴァルが着いてくる。



「不満か?」

 リルは、振り向く。


「いえ。」

 ヴァルは無表情に答える。


 リルは、ヴァルのかすかな表情がだいぶ分かるようになったなと思った。


 リルは、ヴァルの胸を指でつく。


「今日から、お前は、俺の盾になれ。今までは、槍として俺の敵を倒してきた。今、俺は国王になった。もう俺から離れるな。盾として俺を守れ。そうすれば、このコッツウォートも、お前の故郷リメルナも守る。俺が生きている限り。」


 ヴァルは、驚いていた。


 故郷リメルナ。


 故郷。


 リメルナの傭兵達、そして自分も、皆、生まれ故郷を訳あって捨てた者達の集まり、そのリメルナの傭兵達が欲しがっていた帰れる場所。


 隣接するコッツウォートの脅威は、無くなった。

 レティを差し出し、生まれた子供は、今や国王になった。


 リメルナの、現在の脅威は西だけになった。


 我が国王と共に、西の脅威を打ち倒しさえすれば、後は、守るだけ。


 リルを国王にするため、コッツウォートに来た。

 思ったより早く国王になった時、ヴァルは自分の立ち位置を考えさせられた。



 ヴァルは、少し笑みを浮かべ膝を付く。


「軍師ヴァル、陛下のために盾となり、すべてを陛下に捧げます。」


 リルは頷く。

「さぁ、行くぞ。戦いはすぐだ。俺を死なすなよ。」


「はっ。」

 ヴァルは、前を颯爽と歩く主の後ろ姿を見つめた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る