第48話 仲間
テオグラートは、第三所領に戻ってから、多くのことをしなければならなかった。
まずは、今まで一緒だった兵に、休息を与えた。
皆、家族や友人の安否が気がかりだろうと任を解いた。
キリウェルは、断ってきたがテオグラートにとって、親のいない自分の後ろ楯となっているキリウェルとサミーの家が気がかりだから、二人は確認してくるよう無理やり行かせた。
第三所領は、王都の後ろに位置しているため比較的に被害が少なかったようだ。
兄から多少報告を受けていたが、実際に自分の目で確認して、ほっとした。
テオグラートは、キリウェルの代わりに、キリウェルと同期のマルクスを呼んだ。
キリウェルをもっと堅苦しくした感じで、テオグラートの勉強のスケジュールなどは、マルクスが担当していた。
テオグラートは、マルクスのことを堅苦しいとは思っていたが、芯のぶれない生き方を気に入っていた。
マルクスは、自分が呼ばれた意味を理解し、テオグラートの欲しい報告をすべて端的に伝えた。
町の被害、死傷者、現在の兵達の活動、屋敷内の被害。
マルクスは、最後に付け加えた。
「第二所領近辺で亡くなった兵とティムの遺体は、我々で第三所領内の墓地に埋葬いたしました。ミッヒにもすでに伝えさせていただきました。」
「ありがとう。よくやってくれた。」
テオグラートは、ほっとした。
自分の身代わりで、亡くなったのだ。ティムの遺体の移動は、自分も立ち会わなければと思っていたが、もう一度掘り起こすことが内心辛かった。
「殿下は、少しお休みください。」
「内密に、ミッヒの家に行きたい。それと父上達の墓にも。」
「そう言うだろうと思いまして、ミッヒの家には、先触れを出しました。馬も用意しましたので急ぎましょう。まだ、他の兵達が町で再会を喜びあっている内に。」
この戦いで亡くなった兵は、たくさんいる。ティムだけ特別扱いは、納得できない者もいるかもしれない。
テオグラートは、今はまだ一般の旅人のような格好だった。
このまま、静かに出向くことができる。
マルクスと急ぎ、ミッヒの家に行き、家族に礼を述べ労った。
その足でひっそりと父上達の墓に出向いた。
神父達がこぞって一緒に、墓に向かおうとしたが、礼を伝え1人にさせてもらった。
王家の墓は、礼拝堂の奥にあり、大理石に囲まれた広間は、寂しい場所だった。
今は、花が飾られて少しはマシだなとテオグラートは思った。
母上が亡くなった時、この寂しい場所に閉じ込められるのかと、すごく嫌だったのを思い出した。
テオグラートは、祈りを捧げて、立派な墓を見た。
「次は、自分かもしれないな。」
テオグラートは、寂しげに呟くと広間を出て行った。
礼拝堂に戻り神父達の見送りを受けて、マルクスと一緒に屋敷に向かった。
屋敷に着くと、やっとソファにくつろいだ。
「涙が出なかった。」
テオグラートが呟く。
「気を張っていらっしゃるからですよ。それで良いと思います。残念ながら、殿下は人前で感情的になっては困ります。キリウェルにも言われているのでは?」
マルクスが優しく諭すので、テオグラートは泣きたくなった。
「うん。僕は強くなったかな。」
テオグラートは、俯きながら呟いた。
「もちろん、強くお成りです。こうやってお戻りになられています。キリウェル達が、あのまま東側へ逃がすかと思いましたのに。」
「うん。僕、キリウェル達の裏をかいて、みんなと合流したんだよ。」
テオグラートは、少し自慢気に話した。
「ご帰還も素晴らしいものでしたよ。今日はもう、軽食をとりお休みください。明日からまた大変ですから。」
「うん。」
テオグラートは、少し気が楽になった。
マルクスは、帰った早々にキリウェルに詰めの甘さを叱りつけた分、テオグラートには優しくした。
確かに、この戦いから逃げることは、苦痛だったろう。
子供としての気持ちより、王子としての気持ちが勝ったことに、マルクスは、誇らしく思った。
「少し、叱り過ぎたか。」
マルクスは、キリウェルに悪いと思ったが、やっぱり謝らないと決めた。
「詰めが甘いことは確かだ。」
テオグラートが、ソファでこくり、こくりと眠気と戦っているのを見ながら、マルクスは独り言を呟いていた。
早朝、キリウェル達を連れて、町の者に、狼や鷹、他に妙に動物が増えていないか、また、その動物達がどこへ行ったかを確認していった。
本当は、すぐにでも取り掛かりたかったが、キリウェル達と違い、長い間、ずっと動物にされていたため、解除魔術を使った後の苦痛は相当なものになるだろうと思い、兄上に頼み、リメルナから癒し手を手配したため時間がかかった。
テオグラートは、第三所領と第二所領をつなぐ森に、優しく風を起こした。
「このテオグラートが、皆を必ず助ける。だから、集まって!」
風が優しく、森に舞い、テオグラートの言葉を運んでいく。
できるだけ、遠くまで風を運んだ。
鳥が枝に降りた。
狼がフラフラと現れた。
次々に鳥や狼が現れたが、皆、フラフラでなかには、すぐに座り込んでしまう狼が多数いた。
テオグラートは、しゃがみこみ優しく話す。
「皆、待たせてしまってごめん。キリウェル達も動物にされたけど、ちゃんと戻れたよ。ただ、戻るのに苦痛をともなうから、リメルナから癒し手の人達を呼んだよ。だから安心して。怖がらず、僕を信じて。」
狼達がテオグラートに寄ってくると、鳥達も下に降りてきた。
テオグラートは、立ち上がり黄金色の石を取り出した。
左側から順番に、解除魔術を施す。
ベリンガーからのアドバイスで、黄金色の石を少し小さめに砕いていた。
テオグラートは、風を使って一気に多くの者達を瞬く間に、人間に戻していく。
泣き叫びながら、人間に戻る者、地面に顔を押し付け苦しみに耐える者。キリウェル達よりはるかに苦しそうだった。
癒し手達が、優しく快方していく。
優れた癒し手が多く来てくれたのだろう。
1人が複数人を癒していた。
癒して手のなかに、知った顔があった。
ルティスラ村で、テオグラートを治療してくれたルカも来てくれていた。
癒し手達のおかげで、苦痛がある程度取り除けたところで、テオグラートは、皆に声をかけていく。
声をかけていく内に、第二所領からリメルナに向かっていた時を思い出していた。
皆、必死に戦っていた。
あれから、厳しい日々を繰り返したに違いない。皆、頬が痩けてやつれていた。
テオグラートは、いつの間にか皆を抱きしめながら労った。
膝をつき、テオグラートを待つ女性騎士がいた。
レイラは、第三所領初の女性騎士だ。
ジルがテオグラートの横に来た。
ジルは泣きながら笑っていた。
ジルの憧れの騎士だ。
テオグラートは、レイラを抱きしめた。
「殿下、お役に立てず申し訳ございませんでした。すぐにでも復帰して必ずや、殿下をお守り致します。」
「ありがとう、レイラ。戦いまでもう少し日がある。今は、療養して次の戦いに備えてほしい。良く耐えてくれた。」
テオグラートは、もう一度抱きしめ、ジルに託した。
心配していたことが、一つ、一つ消えていく。
これでいい。
テオグラートは、今、生きている仲間を見ていた。
戻ってきた。
みんなのところに。
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