第20話 旅路③

「なぁに、俺の魔術で伸してやるよ。」

 一番若い男が先頭に立ち、行く手を塞ぐ。


 略奪者達は、余裕な笑みを見せ、マントのフードを目深に被った二人の男の前に立った。


 マントの男達は、ゆっくりと顔をあげる。

 赤い目が一番前にいる若い魔術師を射るように見る。


 若い魔術師は、後退りした。


 異様な威圧感が、若い魔術師を狼狽えさせた。


 若い魔術師が手を上げた瞬間、マントの男が動く。


 あまりの早さに、若い魔術師は何も出来なかった。

 マントの男の剣が、若い魔術師の腹に刺さっていた。

 マントの男は、剣を若い魔術師から抜くと、若い魔術師の肩を軽く押す。

 若い魔術師は、後ろにゆっくり倒れた。


「この程度の魔術師なら、魔術など必要無い。」

 マントの男が、無表情で略奪者達を見る。


「この野郎!」

 略奪者達は、二人のマントの男に、襲いかかった。


 二人のマントの男は、いとも簡単に略奪者達を殺していく。

 魔術を使わずに。


 最後に、略奪者のボスが残った。


「かっ、金ならやる!宝石もある!いっ、今まで奪った金品を隠してある。」


「その中に、叶い石はあるか。」


 マントの男が興味を持ったので略奪者のボスは捲し立てる。

「嫌、持ってないがある場所を知ってる!フレールの国王が持っていて、置いてある場所も分かるぞ!俺が生きている仲間と盗んで持ってきてやる!」


「そうか。」

 マントの男は、無表情なまま略奪者のボスに近づく。

 マントの男は、略奪者のボスの腹を殴り、膝立ちにすると、髪の毛を鷲掴みにする。

 顔を上げさせると、もう1人のマントの男が首を跳ねた。


 首を持つ、マントの男は、無表情のまま、首を林に放り投げた。

その瞬間、空を飛ぶ鷹が鳴く。


 鷹は低い方の丘をめがけ急降下していく。


「あれは、鷹であって人間。我が同士のつまらぬ同情でできたもの。」


 マントの男が無表情のまま、手をかざす。


 鷹をめがけ光りの矢が放たれる。




 テオグラード達の頭上で、鷹の悲鳴をあげるような甲高い鳴き声が、青空に響き渡る。


 鷹が元来た小さな丘の方に落ちていく。


 テオグラードは、鷹を追いかけるために、馬を反転させ、手をかざす。

 揺ったりとした大きな風が、鷹を小さな丘へ運んでいく。


 テオグラードは、さらに後ろの馬車に向け、手をかざし解除魔術で狼達を人に戻す。


「テオグラード様」

 キリウェルが馬車から飛び降りる。


「キリウェル!敵は、俺達にまかせろ!」

 サミーが、キリウェルに馬を引き渡す。


「頼んだぞ!」

 キリウェルは、テオグラードを追いかける。



 丘の上に、マントの男達が立っている。


「あいつらは、魔術を使うぞ!気をつけろ!」

 大将の大声で、剣を抜く。


「魔術師相手ってどう戦うんだよ。」

 カイが呟く。


「絶対一対一で戦うな!囲んで挑めよ!騎士道精神なんて忘れろ!後ろからも横からも一気に斬り込め!」

 アディが一喝すると同時に、マントの男達が向かってくる。


 アディらは、馬を降り遠くに逃がす。馬が狙われ馬の下敷きになるのは避けたかった。


 マントの男が、剣を抜き地面に突き刺す。

 剣をゆっくり抜くとそこから異形が数体這い出てくる。


 異形が走って来るのと同時に、マントの男が、手をかざして向かってくる。


 光りの矢が現れたかと思うと、凄まじい早さで向かってくる。

 最初に狙われたのは、大将だ。

 剣を盾がわりにたてると、光りの矢が剣に当たり、まるでガラスのように高い音をたて割れていく。


「なんとか対処法はあるってことか!」

 アディに向かってマントの男が、剣で斬りかかる。

 剣で受けをとり、力任せに剣を押し上げ腹に蹴りを入れる。

 マントの男がまた手をかざす。

 光りの矢ではなく、強い圧力で体が吹っ飛ぶ。

 アディを含む3人が後ろに飛ばされ、サミーが1人残される。

 マントの男が剣を振り上げ、サミーに斬りかかり、サミーもまた剣で受けをとる。

 しかし今度は、マントの男は、すぐさまサミーの腹に向かって手をかざす。

 光りの矢が現れるのを見ながら、サミーは、歯を食い縛る。


 殺られる!


 そう思った瞬間、サミーの腹の前にガラス板のようなものが現れ光りの矢を弾き壊す。


「私のほうが、魔術の発動が早いようね!」

 ロゼが美しい笑みを見せる。


 サミーは、マントの男の剣を押し退けると上から斬りかかる。

 マントの男が、後ろによろめくと、アディが走り込んで首を跳ねる。


 もう1人のマントの男は、マークが防御魔術を屈指しながら、大将やカイ達が戦い、その他の者が、異形達を倒していく。


 人間と同じ背丈の異形を2体相手にキャスが戦っている。

 戦いなどまるで無関心のような態度だったキャスが、意図も簡単に2体の異形を斬り倒す。


 その様子をアディが見ていた。





 晴天の中、風が葉や花びらを運ぶように鷹を木の根もとに運ぶ。


 解除魔術によって鷹から人間に戻った体は、ちょうど木に寄りかかるように風に運ばれた。体からは、大量の出血が見られる。




 目が霞んで良く見えない。

 何度か小さくまばたきを繰り返す。


 いつの間にか寝てしまったのかしら。

 うっすらと見え始めた視界に、ひらひらと舞い落ちる綺麗な花びらが見える。


 夢を見てる?


 おとぎ話の中みたいね。


 おとぎ話なら、このあと王子様が現れる?


 王子様がお姫様を迎えにくるかしら。


 馬の嘶き?


 あぁ、本当に王子様が現れたわ。


 王子様は、息を切らせながら、心配そうに近づいてくる。


 夢なら言ってもいいわよね。


 両手を前にあげると、花びらが舞い落ちるなか、溢れんばかりの笑顔を見せる。


「大好き!」


 王子様は、両手をとり、膝をつくと微笑み、優しい口づけをしました。



 ねぇ、ジル!私のところに王子様が来たわ!


 ニーナはとても幸せそうに目を閉じた。






「ねぇ、なんでよ!なんで死んでんのに幸せそうな顔してんのよ!」

 ジルが膝をつき、泣き崩れる。


 カイとミッヒが、ジルの背に優しく手をおく。


 キリウェルは、ここに着いた時から、テオグラートに声をかけれないでいた。


「キリウェル、殿下にもう少し中に入ってもらえ。」

 アディがシャベルを持ってやって来た。


 テオグラートは、木にもたれ掛かり、丘から平野を見ていた。

 見えないコッツウォートの方角を。


 キリウェルは、驚かせないように、優しく声をかける。

「殿下、姿が見えないように林の中に入っていただけますか?まだ敵がいるかもしれないので。」


「うん。」

 テオグラートは、ゆっくりと林の中に入って行く。

 不意に、少しだけ顔をキリウェルに向ける。

「しばらく1人にしてほしい。」


「承知しました。」

 キリウェルは、静かに頭を下げた。


 テオグラートは、誰にも見えないところまで来ると、木に手をつき、そのまま崩れるように膝をつくと、木にもたれ掛かりながら嗚咽をあげ泣き始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る