第19話 旅路②

 アディは、前方のなだらかな丘を見ていた。


「略奪の丘だな。」

 サミーが隣に並ぶ。


「あぁ、嫌な丘が続く。」

 アディが、眩しげに見ている丘へ続く道は、なだらかな丘を昇るとなだらかに下り、またなだらかな丘を昇る。それが過ぎるとフレールへは平坦な道を進むだけ。

 なだらかな丘は、見晴らしの良い左側からは、広大な平野が見れる。右側は、林が覆っている。

 林の奥は、海岸線の小さな漁師町がぽつぽつとあるが、町の者で無い限り立ち寄る者はいないため、町に続く道は開かれていない。


 本来なら、平野を通ってフレールに行くのが、最短だし安全だ。

 だが、平野側を通るには、リメルナの敷地を通るようなもので、今は、安心して通る気にならなかった。


 一見して穏やかな丘は、略奪の丘などと言う物騒な名がついている。

 それは、その地形にある。

 略奪者にとって、なだらかな丘を登ってくる旅の者は、格好の獲物だった。

 とくに二番目の少し高いほうの丘は、登ってくる者には、先が見えず、丘の上からは、登ってくる者が良く観察できた。


 今日もまた、旅人に狙いを定めている。



 テオグラード達一行は、最初のなだらかな丘を登っていた。

 毎日馬車の中は嫌だと、テオグラードは、珍しく今日は馬に乗っていた。

 隣には、護衛にアディがついている。

 キリウェルは、黒い狼となって馬車の中で寝ていた。

 最初のなだらかな丘は、もうすぐ冬が近づくこの土地に最後の花を咲かせていた。


「コッツウォートでは、見ない木だな。綺麗な花を咲かせている。」

 テオグラードは、大きく息を吸った。

 少し甘い香りがした。


 平野の方は、リメルナとフレールの間に小さな町が見える。

 テオグラードは、その小さな町に立ち寄ったことがある。


「そういえば、フレールに行ったことがあったな。大分前で忘れてた。」


「そうですね。殿下が6歳頃ですかね。あの町に立ち寄ってから、フレールに行きましたね。」

 アディが懐かしそうに町に目をやった。


 フレールで行われた式典に招待され、国王、キアラ妃、テオグラードが出席した。

 フレールは大きく華やかな国だった。

 テオグラードもその印象が強烈に残っていた。



 平野からは、穏やかさしか感じられなかった。


 西の脅威など微塵も感じさせない晴天がそこにあった。






「余裕だな。」

 10人の男達が、静かに笑う。


「しかし、金品はあまり期待できないかもな。」


「しかも、マントでろくに携帯している武器が見えねぇ。慎重に行けよ。」

 ボスらしき男が声をかける。


「なぁに、俺の魔術で伸してやるよ。」

 一番若い男が先頭に立ち、行く手を塞ぐ。





 マントのフードを目深に被った二人の男の前に。

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