第18話 旅路①
テオグラード達一行は、フレールに向かい進んでいた。
エメラルからフレールまでの急ぎ旅も3日目を向かえた。5日目の昼までには、フレールに到着する予定だ。
テオグラードは、ロゼやマークに魔術の手ほどきを受け、凄まじく上達をしていた。
魔術を抑える腕輪がなくなり、体調の心配をあまりしないで良くなったことは、早い上達に繋がっていたし、魔術を教えてもらうことにテオグラードが飢えていたことも一つの要因だった。
暗くなる前に、野営の準備を始める。
まずは、ここまで人として居たものが先に食事をして酒や、コーヒーを飲み少しくつろいだ。
その横で、テオグラードがまた狼達に解除魔術で人に戻す。
「おー、やっと飯にありつけるぞ!」
大将がどっかりと座り込む。
ニーナが、野菜がたっぷり入ったスープを大将に渡す。
「う~ん、良い香りだ。ありがとう、ニーナ。」
「パンも持ってきますね。」
ニーナは、甲斐甲斐しくみんなの世話をしていた。
「おい、自分のぐらい自分で取りに行けよ。」
アディが呆れたように呟く。
「みんなが俺の世話を焼きたがるんだ。」
ニーナからパンを受け取りながら、大将が満足そうにパンにかぶりつく。
「みんなが呆れて世話を焼いてんだよ!」
サミーが笑いながら、コーヒーを飲む。
アディは移民の子、両親はすでに他界している。兄弟はおらず、今は1人で第三所領に住んでいる。
サミーは王都の中流階級の貴族の三男坊。貴族の子らしい甘え上手。だが三人のなかではかなりの世話焼きだ。
大将は酒場の子。
三人の姉に甘やかされて育ったお山の大将トマス。
大将とは、あだ名ではない。
正真正銘、テオグラードの隊の総大将だ。
王兵、第一、第二と折り合いの悪い各兵達と渡り合えるからとテオグラードが任命した。
三人はまったく違う環境の子でありながら、共に13才で第三所領の騎士見習いとなった。
キリウェルは、三人の先輩騎士達を見ながら、自分の同期達は無事だろうかと考えていた。
「アディが次狼になった時は、リードを着けてみるかな。」
大将が楽しそうに笑う。
「そのでけぇ尻に大きな歯形付けてやるよ!」
アディが言うと、テオグラードが目に入った。
「おい!大将のせいで、殿下がキリウェルに狙いをつけてるぞ!」
「止めてくださいよ。そんな事!」
キリウェルは、テオグラードに注意した後、
「大将!変な遊び考えないでください。」
大将も一喝した。
笑いが起きるなか、ニーナがテオグラードにクッキーを持ってくる。
「殿下、クッキーはこれが最後ですよ。」
「えー!」
ニーナはにっこり笑う。
「フレールに着いたら、どこかで厨房を借りて、また作れると思いますから、しばらく我慢してくださいね。」
「うん。分かった。」
残念そうにテオグラードが返事をすると、横からテオグラードの残り少ないクッキーを取り、リリアーナが頬張る。
「美味しい!」
「だろ!ニーナのクッキーは世界一美味しいんだよ!」
「止めてください!恥ずかしいです。」
ニーナが真っ赤になって慌ててる。
「ニーナさん、私に作り方を教えてください!」
リリアーナの、必死なお願いに思わずニーナは頷いていた。
みんながのどかな夕食を終え、コーヒーを飲みゆっくりする者、警備に入る者、寝に入る者、狼に変わっていく者がいる中、ニーナが片付けをしているとジルが近づいてきた。
「良いの?クッキーの作り方なんて教えて!恋敵に!」
「…恋敵って!声大きいし!」
ニーナは真っ赤になった。
「王子様取られちゃうよ!」
ジルは、いたずらっぽくウィンクする。
「取られるも何も、無理があるでしょ。私一般市民なのよ!」
ニーナが、悲しそうに呟く。
「でも、殿下は、そういう事にあまりこだわらなさそうだけど。」
ジルは、テオグラードを見た。
「王子様には、やっぱりお姫様よ。」
ニーナも、リリアーナと話すテオグラードを見ていた。
ニーナは、10才の頃、人買いに連れられてコッツウォートに来た際、助けられた娘だった。
コッツウォートでは、人身売買は売るも買うも禁止されていたが、人買いは知らずにコッツウォートに入り捕まり、ニーナは第三所領の教会に預けられ、育てられた。
ニーナにとって、人買いが間抜けだったことと、人買いが捕まったのが第三所領だったことは幸運だった。
この教会は、第三所領所有の教会なので、当然テオグラードは毎週通っていた。
人見知りしないテオグラードは、教会に来る度に、民に声をかける事を怠らないので、ニーナにも気さくに話しかけた。
ニーナは、テオグラードより1つ年上だが、人見知りで、面と向かって話せないのでいつも下ばかり見ていた。
そんなニーナに、テオグラードは、いつも同じ問いかけをした。
「ねぇ、ニーナ、これ見て!」
見てほしいものは、いつも顔の横にあった。
お花だったり、お菓子だったり、いつもたいした物はなく、最後は、
「これ、あげる。」で終わり、ニーナは、
「ありがとうございます。」と答えるだけ。
それでも、何度も繰り返せば、二人はにっこり笑ってこの会話を楽しむ。ニーナは、いつの間にか、面と向かって話せるようになっていた。
ニーナは、昔を思い出しながら呟く。
「王子様には、やっぱりお姫様よね。」
「何、弱気になってんの!思いきって告白しちゃいな!」
ジルがニーナの背中を叩く。
「もう~、聞こえちゃうでしょう!それよりこれから心配だわ。戦いになるかもしれないのでしょう。」
「このジル様に任せな!殿下は必ず守るから!」
ジルは胸を叩き、笑顔を見せる。
「ありがとう。ジルも気をつけるのよ!」
ニーナは、安心したように微笑んだ。
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