第17話 西の封印
西の端は、広大な崖が続き、高い崖下は荒れ狂う海があった。
海からの強風が常に吹き、植物は育たず、人が住むには不向きな場所であった。
強風がまるで、魔物の咆哮のように聞こえ、人びとは近づくことを恐れた。
そんな場所には、言い伝えのような昔話しがあった。
昔、崖の上に魔物を召喚した魔術師が居た。
男は、怒りと欲望で最強の魔物どもを呼び出し、人びとを恐怖におとしめた。
その魔物どもと魔術師は、恐れを知らない勇者達と壮絶な戦いの末敗れ、召喚した崖の上の祭壇には、封じの石が置かれ、平和がまた訪れた。
この話しは、嘘か誠か言い伝えられ、絵画が飾られるなど、今では、有名なおとぎ話となっていた。
西の端にある教会に、コッツウォートに爆風を巻き起こしたマントの男が立っていた。
絵画を見つめ、ため息をついた。
その教会に飾られている絵画は、魔物どもと魔術師と勇者達の姿が克明に描かれていた。
「私は、この愚かな魔術師と同じ。私を誰か止めてくれ…。」
苦悶に満ちた顔が、歪んでいく。
マントの男は、ゆっくりと教会を出ていく。
先ほどまで澄んでいた瞳は、今は赤い瞳となり悲しげな表情は、無表情となっていた。
教会の外は、朝だというのに、明るくなることはなく朝日は暗雲が隠し、まるで夜のままのようだった。
暗い強風の中を、マントの男が歩いていく。
言い伝え通りであれば、崖の上の祭壇には、封じの石がある。
しかし、今は、封じの石がなかった。
崖の上の祭壇の前で、マントの男がたたずむ。
マントの男が両手を上げ、何事かを呟く。
強風が吹き荒れる。
その強風に負けじとマントの男が声を荒げる。
崖の上の祭壇に、凄まじい轟音とともに雷が落ちる。
封じの石の無くなった祭壇が割れ、その亀裂から、地響きのような咆哮が聞こえる。
二度、三度と聞こえる咆哮と共に、亀裂が更に走り、地下から爆発が起こったように、石の塊が吹き上がる。
亀裂からの激しい揺れが西の国を揺らしていた。
西の民のほとんどは、馬車や、馬、船を使い他国へ逃げていた。
それは、まだ空に日が上がっていた頃に、リメルナの第三王子ミムが、西の端にある国キッセンベリを訪れた際、交渉が決裂し、早くも危険を察知した帰路の途中、他国への注意と助言に当たったお陰だった。
しかし、キッセンベリ以外の西の3ヶ国の軍勢は、もちろん自国を捨てるはずも無く、キッセンベリと戦った。
ほとんどが討ち死にし、生き残りはしても、操り人形のような状態になり、知らないうちに戦いの場に駆り出されて死んでいるか、今も放心状態のまま、次の戦いを待っていた。
キッセンベリの国王は、マントの男と一緒にコッツウォートにいた大柄な男だ。
国王は、西の国を不服に思っていた。
土地に恵まれず、産業も商業も観光もすべてが収益として乏しかった。
その心の不満にいつしか入り込んだ魔物が、他の3ヶ国を巻き込み侵食していく。
国王は、西の端にある教会にあった絵画から勇者が持つ封じの石、そして女神が持つ拳ほどの赤い石を見つけた。
その赤い石が、幸運をもたらし、魔物と魔術師が討たれた後の幸せをもたらしたと考えた。
その赤い石が、叶い石と言われていたからだ。
国王は、叶い石を持つ国を探していた。
西で唯一ありそうだった鉱石の国イリヤにはなかった。
コッツウォートも無い。
エメラルにも無い。
リメルナは、分からない。
あの国には、潜入できなかった。
魔術師以外の不可思議な力が邪魔をした。
しかし、フレールの噂が西にも届いた。
最近のフレールは、目覚ましい発展をしている。
次は、フレールに潜入をさせるべく、二人の男を向かわせた。
二人は魔術にも長け、剣や弓の腕も良かった。
国王は、叶い石を手にし、進軍するつもりでいた。
もっと豊かな土地に。
ありとあらゆるものを奪い、踏みにじり、心が満たされるまで。
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